遺留分をめぐるトラブル。兄弟間の相続問題はどう解決する?
- 遺留分侵害額請求
- 遺留分
- 兄弟
札幌国税局の申告事績の概要によると、北海道で平成30年に亡くなった方の人数は、6万4187人で、このうち相続税の課税対象となった被相続人の人数は、2734人です。
平成29年度と比較すると、亡くなった方の人数も相続税の課税対象となった被相続人の人数も増加していることから、今後も札幌での相続や相続税の問題は、増加することが予想されます。
相続が発生した場合には、原則として、相続権のある法定相続人によって話し合いを行い、遺産の分配を行います。しかし、特定の相続人に、「全ての遺産を相続させる」という遺言書が残されていた場合にはどうなるのでしょうか。
今回は、遺留分をめぐるトラブルについて、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、遺留分について解説
相続が発生した場合に、残された親族間で遺留分の扱いについて争いになるケースがあります。ここでいう遺留分とはどのような権利のことをいうのでしょうか。以下では、遺留分に関する基礎知識について説明します。
-
(1)遺留分とは?
遺留分とは、法律上、相続人に保障された遺産を取得する権利のことをいいます。遺留分は、最低限度の、遺産の取得の権利割合ですので、遺贈や生前贈与によっても奪われるということはありません。
遺留分が認められる相続人の範囲に関しては、民法1042条に規定があります。(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
このように、遺留分の請求が認められているのは、「兄弟姉妹以外の相続人」です。なお、代襲相続人(親がすでに亡くなっている場合に、祖父母の遺産を相続することになる孫など)にも遺留分は認められます。
また、遺留分として最低限どの程度の相続割合が保障されているかについては、相続人が誰であるかによって、以下のように変わってきます。①父母などの直系尊属のみが相続人である場合 法定相続分×3分の1 ②それ以外の場合 法定相続分×2分の1
たとえば、父が死亡し、相続人として配偶者と長男、次男、長女がいる場合には、配偶者の遺留分は、法定相続分(2分の1)×2分の1で、4分の1、子どもらの遺留分は、おのおのの法定相続分(6分の1)×2分の1で、各12分の1ということになります。
-
(2)遺留分侵害額請求権とは?
遺留分侵害額請求権とは、被相続人が特定の相続人に遺産のほぼ全てを相続させる内容の遺言書を残していたような場合に、遺留分を侵害された相続人が、自分の遺留分相当額の金銭を取り戻す権利のことです。
遺留分侵害額請求権は、かつては「遺留分減殺請求権」と呼ばれていましたが、2019年7月1日に改正相続法が施行されたことに伴い、名称が変更されました(2019年7月1日以降に開始する相続に関しては、遺留分侵害額請求権を行使することになります)。名称の変更だけでなく、遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権とは以下のような違いがありますので注意が必要です。
●金銭請求のみ可能になった
以前の遺留分減殺請求権は、権利の行使により、相続財産に対し、遺留分割合に応じた共有持分を持つという内容のものでした。
相続財産が、現金や預貯金のような可分なものであればいいのですが、不動産や有価証券のような場合には、共有状態となることで、権利関係が複雑になるなどの不都合が生じていました。
これに対して、遺留分侵害額請求権は、遺留分を侵害された額に相当する金銭を請求するものですので、以前のような共有関係による不都合性は解消されることになりました。
●遺留分算定の基礎となる財産に限定が加えられた
以前の遺留分減殺請求権は、相続人に対する特別受益に該当する贈与などについては、特に期間制限なく、過去にさかのぼって、遺留分を算定するための基礎となる財産に含まれるという扱いがとられてきました。
しかし、遺留分侵害額請求権は、相続人に対する特別受益に該当する贈与などについては、相続開始前10年に限定して、遺留分算定の基礎となる財産に入れることとなりました。 -
(3)遺留分侵害額請求権の時効
遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始のときから10年、または、遺留分侵害の事実を知ったときから1年です。
また、遺留分侵害額請求権を行使した後の金銭債権については、別途、5年の消滅時効にかかることになりますので注意が必要です。
2、遺留分でもめるケースとは?
遺留分の基礎がわかったところで、次は、どのようなケースで遺留分が争いになるのかについてみていきたいと思います。
-
(1)遺留分を侵害する内容の遺言書が出てきたケース
遺留分で争いになるケースでもっとも一般的なのが、全てないし大部分の遺産を特定の相続人等に相続させる内容の遺言書が出てきたケースです。
遺留分を侵害するような内容の遺言であっても、実は遺言としては有効です。そこで、原則として、遺言に従って遺産を分配することになります。
しかし当然、まったく遺産をもらえないことになる相続人が黙っていることは少ないため、争いに発展することになります。 -
(2)遺留分の放棄を求められたケース
上記のように遺留分を侵害する内容の遺言も有効なため、被相続人の死後に争いになるケースは珍しくありません。
そういった事態を防ぐため、生前に遺留分の放棄を求められることもあります。
相続放棄については、被相続人が亡くなった後でなければすることはできません。
しかし、遺留分の放棄については、家庭裁判所の許可が必要ではあるものの、生前に行うことができます。
そして、生前に遺留分の放棄をしてもらうことで、被相続人が亡くなった後、遺留分による争いを回避することができるのです。
ただ、遺留分を放棄することによるメリットはほとんどないため、安易に遺留分を放棄すると、後々トラブルとなる可能性があります。 -
(3)被相続人に債務があったケース
被相続人に借金があるケースでも、遺留分が問題となることがあります。
たとえば、遺産が6000万円、債務が3000万円あり、相続人が長男、次男、長女の3人のケースで、被相続人が、長男に全ての財産を相続させる内容の遺言書を残したとします。
この事案では、次男と長女には500万円の遺留分が認められますが、対債権者との関係では、法定相続分に応じた借金を負担することになる可能性もあります(この事案では1000万円)。この場合、全ての財産を相続することとされた長男が任意に返済をしていれば特に問題はありませんが、長男が返済を滞ったときは、債権者からの請求があれば次男や長女も借金の返済をしなければなりません。
3、遺留分でもめてしまい、相続税の申告期限が間近になってしまった場合の対応方法
遺留分に関する話し合いが長引き、相続税の申告期限までに解決しないことも少なくありません。そのような場合にはどうすればよいのでしょうか。
-
(1)相続税の申告期限とは?
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内とされています。また、「相続の開始があったことを知った日」とは、被相続人が亡くなったことを知った日とされています。そのため、他の相続人に被相続人が亡くなったことを知らせるのが遅れた場合には、相続人によっては、申告期限が異なることもあります。
このように相続税の申告期限は、10か月とされていますが、葬儀や各種法要を執り行い、相続財産を洗い出していると、あっという間に期限が来てしまいます。さらに遺留分の請求があった場合には、その金額が確定しなければ、相続する財産の正確な金額を計算することができません。 -
(2)相続税の申告期限が間近になった場合の対応方法
相続税の申告期限に間に合わないと思った場合には、申告期限の延長を申請しましょう。
申告期限の延長は、原則として認められていませんが、遺留分侵害額請求があった場合には、例外的に2か月の延長が認められる場合があります。
もうひとつの対応方法としては、遺留分侵害額請求がなかったものとして相続税の計算をし、申告するという方法もあります。そして、その後、遺留分の話し合いがまとまった際に修正申告をし、多く支払った税金を取り戻すのです。
相続税の申告期限を越えてしまうと、各種特例を受けることができなかったり、延滞税などが加算されるなど不利益が大きいため、相続税の申告期限が間近になった場合には、上記の方法がある、ということを心にとめておきましょう。
4、遺留分をめぐるトラブルは弁護士へ相談を
遺留分侵害額請求をするためには、正確な侵害額を計算することが重要です。
しかし、遺留分の計算においては、遺産の調査、遺産の評価、特別受益や寄与分の評価などさまざまな法的な問題が存在し、正確に計算するためには、法律の知識や経験が不可欠です。
また、遺留分侵害額請求は権利を行使すれば終わりではなく、その後、相手との交渉をしなければなりません。内容証明を送っただけで、すんなりと遺留分相当額を支払ってくれるケースは少なく、話し合いや調停、場合によっては裁判になるケースも珍しくありません。
弁護士に依頼することで、正確な遺留分計算をしてもらえるだけでなく、相手との交渉についても一任することができます。
遺留分をめぐるトラブルについては、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
仲の良かった兄弟であっても遺産の分け方でもめることもあり、遺留分をめぐるトラブルは決して珍しいものではありません。
遺留分侵害額請求権の行使には、1年という非常に短い期間制限がありますので、ご自身の遺留分が侵害されている事実を知った場合、すぐに行動に移す必要があります。
ベリーベスト法律事務所では、経験豊富な弁護士が問題解決に向けて尽力しています。遺留分に関してお悩みの際は、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|