札幌で遺言書を作成しようと考えている! 甥の遺留分はあるの?
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平成30年9月に発生した北海道の大きな災害をきっかけに、遺言書を作成しておこうと考えた方もいるかもしれません。
兄弟姉妹の子どもである姪や甥は、場合によっては、事業を手伝ってもらったり、面倒をみてもらったり、密接な関係になっていることがあります。お世話になった姪や甥に財産を残したいと考えている場合、どのような遺言書を作成したらいいのでしょうか。
そもそも遺留分という相続の制度がありますが、この遺留分の権利は姪や甥にはあるのかなど、ご存じですか。姪や甥の遺留分の権利の有無や、遺言書を作成することとの関係などについて解説します。
1、遺留分は残された家族に認められた権利
「遺留分」は、そもそもどのような権利なのかについて知っておきましょう。
遺留分は、民法第1028条で規定されています。本来、財産は、私的財産制度によって、自由に処分できることが保障されているものです。遺産も同様で、自分の死後、どのように処分するかを決めることができます。この決定の意思表示が「遺言」です。遺言では、相続の際の分配方法や渡す相手などについても指定することができます。
他方、多くの家族は、夫が働いて収入を得て、妻が家事や育児を担当するなど、役割分担をして生活しています。そこで、働いて収入を得ていた人が亡くなってしまったうえ、すべての財産が家族以外の方へ贈られてしまうことになると、残された家族は生活できなくなってしまうことは明白です。そのため、「財産を持つ方の生前、家族は家事などを通じて財産形成に尽くした」として、遺留分という権利が保障されているのです。
たとえば、被相続人の配偶者が亡くなっており、子どもが3人いるケースについて考えてみましょう。もし、遺言で遺産の全額を愛人に渡すように指定していたとしたら、子どもたちは一切の金額を受け取ることができないということになります。
しかし、戸籍上の実子である3人には、「遺留分」をもらう権利があります。子ども全員の遺留分は遺産の2分の1と定められていて、それを子ども3人で等分した額を受け取る権利があることが、民法で定められているのです。つまり、相続財産が1200万円の場合、子どもひとりあたり財産の6分の1にあたる200万円ずつの遺留分が主張できることになります。
財産を持つ方が、自分の死後、新しくできたパートナーに遺産を全部相続させたいと思ったとしても、配偶者や子どもがいれば、遺留分を求める権利があります。このケースのように、遺留分を受け取る権利を持つ方が遺留分を主張すれば、パートナーには遺留分を引いた残額しか渡すことができません。
2、甥に遺留分はある?
前述のとおり、「遺留分」とは、残された家族の生活基盤になるものとして最低限の取り分が認められている相続の権利です。
よって、結婚して独立してしまうと離れて暮らすことが一般的と考えられている兄弟姉妹については、遺留分の権利は認められていません。民法第1028条の条文にも「兄弟姉妹以外の相続人」と規定されています。なお、相続人とは、遺産を受け継ぐ権利を持つ方を指します。
つまり、あなたにとって家族といっても差し支えがないほど身近な存在であっても、兄弟姉妹の子どもである姪や甥に、遺留分の権利はありません。遺留分がないため、どんなに姪や甥があなたの財産形成に尽くしていたとしても、遺留分を主張して最低限の取り分を受け取る権利はないということです。
そのため、もし、姪や甥に自分の遺産を相続させたいと思ったとき、子どもと同様に捉えて「遺留分として最低限の取り分があるから、何もしなくても大丈夫」と考えてはいけないことになります。
姪や甥が第1順位の法定相続人ではない場合、兄弟姉妹の代襲相続人でない限り、自分の相続財産がそのまま姪や甥に承継されるのは困難と考えてください。財産を姪や甥に残したいと思った場合、何かしらの準備を行い、法的な効力を用意する必要があります。
被相続人が何の手も打たなければ、姪や甥はあなたの財産を一銭も得ることはできないのです。もっとも、あなたに配偶者や子どもがいないうえ、あなたの両親や兄弟姉妹もすでに他界しているときは、姪や甥が第一順位の法定相続人としての権利があると考えられます。よって、遺留分などについて考える必要はないかもしれません。残した相続財産は、「法定相続制度」によって分割されていくためです。
3、姪や甥に遺留分を残すためにはどうしたらいい?
あなたが姪や甥に自分の死後、財産を受け取ってもらいたい場合、取り得る方法は3パターン考えられます。
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(1)生前贈与する方法
遺言書を作成したことにより、あなたの直系となる子どもや配偶者が気分を害する可能性があるかもしれません。その際は、遺言書の作成ではなく、姪や甥にあらかじめ生きているうちに贈与してしまう方法があります。このような贈与を、「生前贈与」と呼びます。
具体的には、子どもが3人いて、相続財産が1200万円と想定されるような場合には、600万円まで生前に贈与するなどの方法です。もっとも、生前贈与は生きているうちに行う贈与のため、実際に相続が開始されるときには、相続財産の金額も異なってきます。
遺留分は、相続開始1年前までにさかのぼって主張できます。他界する1年以上前の贈与であれば、相続人の権利を害さずに済むでしょう。ただし、「自分が死んだら……」というあなたの思いには即さない方法になってしまいます。 -
(2)遺言書を作成する方法
姪や甥は、一般的には相続する権利も、遺留分を主張する権利もありません。そのため、姪や甥に財産を受け取ってほしいときには、遺言書を作成する必要があります。
遺言書を残して姪や甥に相続財産を分け与えることを、「遺贈」といいます。遺贈の場合、ほかの家族は、遺留分の権利を主張できます。そのため、そのほかの家族が持つ遺留分を侵害する内容の遺贈を指定する遺言書になってしまうと、ほかの家族から遺留分の権利が主張される可能性があります。結果的に、姪や甥がその対応に追われることになってしまうという不利益を受けることが予想されるでしょう。
たとえばあなたに子どもがいれば、遺言書を作成する際に子どもの遺留分に配慮する必要があります。子どもが3人いて、配偶者がいない場合、子どもひとりあたりの遺留分は6分の1です。相続財産が1200万円の場合、3人分で600万円です。つまり、甥や姪に遺言書を残して遺贈する場合、子どもの遺留分である600万円を超えないように配慮しておく必要があるのです。
では、遺留分と考えられる範囲で甥や姪に相続財産を残したい場合はどうでしょうか。甥や姪には、もともと遺留分はありません。しかし、子どもたちと同じようにかわいがっていた、という場合は、自分の子どもと同じ割合で相続させるように指定することもできます。
具体的には、1200万円の相続財産があり、子どもが3人いて配偶者がいない場合、子どもひとりあたりの遺留分の金額は200万円となります。よって、甥や姪には200万円の範囲で遺贈するという判断を行うことも可能です。いずれにせよ、遺留分権者の権利を侵害しない配分ならば、甥や姪には迷惑がかかる心配も少ないはずです。 -
(3)死因贈与
自分が生きているうちは、自分で財産を利用したいという前提があるものの、甥や姪に相続してもらいたいと考えるケースもあるでしょう。そのときは、自分の死後に贈与の効力が発生するという「死因贈与」という方法を選ぶことができます。
たとえば、自分の死後に、土地の所有権を贈与するという契約を結んで、甥や姪の財産とする方法です。遺留分の範囲と考える金額について、そのまま預貯金分を指定する方法や、遺留分の金額程度の不動産を分ける方法があります。死因贈与であれば、実質的に遺贈と同じ効果で相続財産を譲ることができます。
ただし、「死因贈与」は、贈与契約の一種です。自分が生きているうちに、姪や甥との死因贈与契約を結んでおく必要があります。死因贈与も遺留分権者からの遺留分請求の対象となりますので、渡したい額が占める遺産の割合に注意してください。
ここに挙げた方法のうち、「どれを選ぶとより良い結果となるのかがわからない」というときは、弁護士に相談することをおすすめします。それぞれのメリットやデメリットを把握したうえで決めたほうが、後悔が少なくなるはずです。
4、まとめ
兄弟姉妹に遺留分の権利がないのと同様に、その子どもである姪や甥にも遺留分の権利はありません。また、姪や甥については、法定相続人になる順位がとても低いため、誰かが相続放棄しない限り、相続人となることが難しいともいえます。代襲相続人に該当しないケースでは、何も対策をしなければ、姪や甥に遺産を一銭も受け継がせることができません。
しかし、今回、紹介したように、姪や甥に遺留分と同じくらいの遺産を分け与える手段は複数あります。どの手段を取るべきかなど、遺留分に関する方法でお困りならベリーベスト法律事務所
札幌オフィスまでご連絡ください。札幌オフィスの弁護士が、必要に応じて系列の税理士とも力を合わせ、よりベストな相続の実現をサポートします。
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