相続を放棄したいのにできない可能性が! 対処法を札幌の現役弁護士が解説

2019年06月20日
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相続を放棄したいのにできない可能性が! 対処法を札幌の現役弁護士が解説

平成30年9月6日、北海道を襲った地震では、札幌市内でも大きな揺れを観測し、何らかの被害を受けた方もいらっしゃるかもしれません。札幌弁護士会では、札幌弁護士会被災者支援ニュースを発行し、生活再建のために役立つ情報を発信しています。

災害に限らず、何らかの出来事をきっかけにマイナスの財産が膨れ上がってしまうケースは少なくありません。しかし多くが、家族に知られないよう本人が隠してしまう傾向があります。では、負債を持つ本人が亡くなったとき、家族はどうしたらよいのでしょうか。

もし相続しなければならない財産が負債のほうが大きかったときなどは、相続する権利を放棄する「相続放棄」を行うことができます。しかし、状況によっては相続放棄ができないケースがあることをご存じでしょうか。札幌オフィスの弁護士が、相続放棄の基本やできないケースなどを解説します。



1、相続放棄とは? 相続の基礎知識をシンプルに解説

相続放棄を説明する前に、簡単に遺産相続の基礎知識を解説します。

  1. (1)遺産相続の基礎知識

    遺産相続とは、「被相続人」が亡くなったときに、「法定相続人」で話し合って「相続財産」を分割することです。亡くなった方のことは「被相続人」と呼び、民法で相続する権利があると認められている遺族のことを「法定相続人」と呼びます。

    家や土地、預貯金や有価証券、車だけでなく家具や日用雑貨なども資産です。そしてローンなどの借金も「相続財産」とみなされます。借金だけでなく「連帯保証人」や「保証人」なども相続対象になりますので、他人の借金の保証人等になっている場合は注意しましょう。

    遺産は、すべての法定相続人が話し合って全員が合意しなければ、分割することはできません。この話し合いを「遺産分割協議」と呼びます。法的に有効な「遺書」があれば、その内容に従って分割することになります。しかし、遺書に記載された分割割合が、法定相続人の「遺留分」という民法で定められた最低限の取り分を下回っている場合は、遺留分を請求することもできます。

    遺産相続の手続きは、大きく分けると「法定相続人の特定」、「相続財産の把握」、「遺産分割協議」の3工程に分けられます。被相続人が生まれてから死ぬまでの戸籍謄本等を各地方自治体から取り寄せて相続する権利を有する人すべてを特定した上で、財産のすべてを把握し、全員で話し合わなければならないのです。

    話し合いで解決しない場合は、弁護士に依頼して話し合う、または家庭裁判所での調停で協議することになります。全員が納得したら、遺産分割協議書を作成して、遺産を分割します。

  2. (2)相続放棄とは

    相続放棄とは、相続する権利を放棄して一切の財産を相続しないことを指します。遺産相続には「単純承認」、「限定承認」、「相続放棄」の3種類があります。まず、すべての資産を相続することを「単純承認」といいます。

    そして、「限定承認」することで、負債が返済できる分だけ資産を相続することができます。負債があることはわかっているけど、総額がわからない場合に有効な手続きです。債権者(お金を貸している人)も借金を全額回収不可能という最悪のシナリオを避けることができますし、遺族も借金の背負う必要もありません。

    他方、「相続放棄」の手続きを行うと、すべての資産の相続を放棄することになります。プラスの資産よりも借金が多い場合には、「相続放棄」を検討したほうがよいと聞いたことがあるかもしれません。しかし、相続放棄することで、借金などのマイナスの資産とともに、土地や家、預貯金など、すべてのプラスの財産を手放すことになります。

    自宅が被相続人の所有となっており引き続き妻や子どもが住み続けたいと考えている場合は、住む家を失ってしまいます。相続放棄は、借金を相続しないためには有効な手続きですが、トータルのメリットデメリットを考えて検討したほうがよいでしょう。

2、相続放棄のために必要な手続き

相続放棄するためには、大前提として「相続を知った日から3ヶ月以内に手続きをすること」というタイムリミットが定められています。以下に解説する作業を3ヶ月以内に完了させることを念頭に置きつつ、行うべき手続きを解説します。

  1. (1)相続財産の把握

    相続を放棄するかどうかをしっかりと判断するためにも、被相続人の財産をすべてリストアップします。死亡する前に財産の総額や通帳の場所などをわかりやすく整理してあればよいのですが、そうでなければ現金の保管場所や通帳等の保管場所を特定するだけでも大変な作業でしょう。

    不動産は、地方自治体からの固定資産税の通知書等で確認すればある程度把握できます。キャッシングやカードローンなどの借金はインターネットや電話で申し込めることが多く、手元に資料がない場合が少なくありません。死亡後に届く郵便物やEメール、電話なども注意深くチェックしておきましょう。

    すべての財産を把握した上で、本当に相続放棄をすることがベストなのかを専門家を交えて検討すると、漏れがなく確実といえます。

  2. (2)書類の用意

    相続放棄は、自分たちで勝手に決められるものではありません。必ず家庭裁判所に、必要書類を提出しなければなりません。
    相続放棄の手続きで必要な書類は以下の通りです。

    • 相続放棄申述書
    • 被相続人の住民票除票、戸籍の附票
    • 被相続人の戸籍謄本(場合によっては生まれてから死ぬまでのもの)
    • 相続放棄する人の戸籍謄本


    相続放棄申述書には被相続人や相続人の住所氏名などと、相続財産の概要、相続放棄の理由を記載します。
  3. (3)法定相続人全員の相続放棄が必要

    借金を理由に相続放棄する場合、ひとりの法定相続人が相続放棄しても借金が消えるわけでも減額されるわけでもありません。最終的には、他の法定相続人が負担する割合が増える、もしくは法定相続人が増えるだけとなります。

    したがって、借金などのマイナスの財産を家族全員が相続したくないと考える場合は、法定相続人全員が相続放棄の手続きを行う必要があります。

3、相続放棄が不可能な2つのケース

相続放棄は、きちんと申し立てれば受理されます。しかし、相続放棄が不可能になるケースもあります。あらかじめ知っておきましょう。

  1. (1)3ヶ月の期限を過ぎてしまった

    相続放棄は、「相続を知った日から3ヶ月」と規定されています。被相続人が死亡した日、もしくは被相続人に相続すべき財産があった日から3ヶ月を超えてしまうと、相続放棄は不可能となります。つまり、3ヶ月ギリギリで書類を提出したら不備があって受理されず相続放棄ができなかったというケースも考えられるのです。

    ただし、借金があることを知らずに相続放棄の手続きをしなかった場合には、借金の存在を知った日から3ヶ月以内に相続放棄することが認められています。書類集めなどの手続きを進めているけど3ヶ月の期限を越えてしまいそうな場合は、家庭裁判所に期限の延長を求めることも可能です。

    迅速に対応するためにも、なるべく早く弁護士に相談しましょう。

  2. (2)すでに財産の一部を相続してしまった

    遺産相続は「後戻り」ができません。一部でも被相続人の財産を使ってしまった場合は「単純承認」といって、相続を認めたことになりプラスの資産だけでなく借金も相続しなければなりません。

    相続したつもりがなくても、遺された現金や預貯金を使ったら「相続した」とみなされてしまいますので、相続放棄は不可能になります。被相続人に借金があり、被相続人名義の預貯金などから返済した場合も、相続を承認したものとみなされ、相続放棄は不可能となってしまいます。

    ただし、自分のお金で借金を返済した場合は相続の承認とはみなされないケースもあります。万が一、相続放棄を行う予定があったのに被相続人の借金を一部でも返済してしまった場合は、早急に弁護士に相談しましょう。

4、相続放棄を弁護士に依頼すべき理由とは

相続放棄は、必要書類を見ると自分でもできるのではと思いますが、時間的制約と確実性を考えると弁護士に依頼すべきです。

なぜなら、3ヶ月という短い期限で、確実に期限内に手続きを行わなければならないためです。自分で行う場合は書類の手配や作成、財産の把握などをすべて行わなければならず時間が足りなくなってしまうことが少なくありません。故人の死を悼み、悲しむ暇もなくなってしまうでしょう。

また自分で書類を用意した場合、戸籍謄本が一部抜けていたり書類に不備があったりと、スムーズに受理されない可能性もあります。そもそも相続放棄すべきかどうか、という観点から、相続問題に数多く対応した弁護士をはじめとした専門家に確認してから進めたほうがよいケースが少なくありません。状況に応じて「限定承認」の手続きに切り替えるなど、臨機応援な対応が可能となります。

5、まとめ

相続放棄は、3ヶ月以内というタイトな期限があります。さらに、一部でも財産を相続したら相続放棄できなくなるといった制約が設けられている点に注意が必要です。相続放棄ができないかもしれないという状況に陥ってしまった場合は、できるだけ早く相続放棄問題の実績豊富な弁護士に相談しましょう。

ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスでは、弁護士に依頼するとともに、税理士との提携も可能です。税金面も含めたコスト的に最適な方法についてアドバイスを行います。

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