相続放棄をしたら遺品整理はできない? 相続放棄と遺品整理の関係
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- 遺品整理
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札幌市が公表している人口動態に関する統計資料によると、令和2年の札幌市内の死亡者数は、2万261人で、前年よりも483人の増加となりました。
家族が亡くなり、葬儀や四十九日の法要が終わった後には、故人の遺品整理を始めるという方も多いと思います。遺品をそのままにしておくわけにはいかないため、大切なものについては形見分けを行い、不要なものについては処分していくことになるでしょう。
しかし、もし相続放棄の手続きをしている場合には、そのまま遺品整理を進めることは避けた方がよいといえます。相続放棄後に遺品整理をしてしまうと、相続放棄の効果が無効になってしまう場合があるためです。
本コラムでは、相続放棄と遺品整理の関係について、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、相続放棄の基礎知識
まず、相続放棄の基礎知識から解説します。
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(1)相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人の遺産に関する一切の権利を放棄する手続きです。
相続放棄をすることによって、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産についても相続する必要がなくなります。
そのため、被相続人に借金があるような場合によく利用される手続きです。
また、相続放棄をすることによって、遺産分割の手続きから離脱することもできます。
したがって、相続放棄は、「相続争いに巻き込まれたくない」という理由から行われることもあります。 -
(2)相続放棄の期限
相続放棄をする場合には、相続が開始したことを知ったときから3カ月以内に、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」という手続きを行わなければなりません。
3カ月の期限が過ぎた後には、原則として、相続放棄を認めてもらうことはできません。
したがって、必ず、3カ月の期限内に手続きを行うようにしましょう。
ただし、相続放棄をするかどうかを判断するためには、被相続人の財産調査が不可欠となります。
不慣れな方では、3カ月の期限内に相続財産調査を終えることができないこともあります。そのような場合には、家庭裁判所に「相続放棄の期間伸長」の申し立てをすることができます。
申し立てが認められた場合には、3カ月を経過したとしても、伸長された期間内であれば相続放棄の手続きを行うことができます。
2、相続放棄後の遺品整理は原則NG
以下では、相続放棄後に遺品整理することができるのかどうかについて解説します。
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(1)法定単純承認とは
相続放棄をする場合または相続放棄をした後であっても、一定の行為をしてしまった場合には、相続放棄をすることができなくなります。
また、すでに相続放棄をしていた場合には、その効力が失われてしまうのです。
これを「法定単純承認」といいます。
民法が規定する法定単純承認事由としては、以下のようなものが挙げられます。- 相続財産の全部または一部を処分したこと(民法921条1号)
- 熟慮期間内に限定承認または相続放棄をしなかったこと(民法921条2号)
- 限定承認または相続放棄後の背信行為(民法921条3号)
相続放棄を検討している方や相続放棄をした方は、上記のような行為をしないように、注意する必要があります。
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(2)相続放棄後の遺品整理は法定単純承認に該当する可能性がある
相続放棄後の遺品整理については、法定単純承認のうち民法921条3号の相続放棄後の背信行為に該当するかどうかが問題となります。
「相続放棄後の背信行為」とは、具体的には以下の事情をいいます。- 相続財産の全部または一部を隠匿
- 相続財産の全部または一部を私に消費
- 相続財産の全部または一部を悪意で財産目録に不記載
遺品整理は、価値のあるものについては、形見分けによって法定相続人などが分けることになります。
一方で、価値のないものについては遺品整理業者などに頼んで処分してしまうことが多いでしょう。また、老朽化した家屋がある場合には、遺品整理の一環として家屋の解体を行うということもあります。
このように、遺品整理とは、「相続財産を処分する行為」でもあります。
そのため、遺品整理は「相続財産の隠匿または私に消費する」に該当する可能性があるのです。
財産的価値がほとんどないものを処分したり、腐りやすい生鮮食品などを捨てたりすることは社会通念上必要かつ相当な行為であるため、法定単純承認事由には該当しません。
しかし、法定単純承認事由に該当するかどうか、非常に微妙な判断が必要とされる場合もあります。
判断に迷うようであれば、遺品整理は控えた方がよいでしょう。
3、相続財産管理人を選任する方法
相続放棄後は、原則として遺品整理を行うことができなくなります。
しかし、相続放棄をしても、遺産の管理義務は残ります。
管理義務を免れるためには、「相続財産管理人」を選任することが必要になるのです。
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(1)相続放棄をしても遺品の管理義務が生じる
相続放棄によって、遺産を相続する一切の権利を放棄することになります。
しかし、「相続放棄をすれば相続財産とは無関係だから、放置していても問題ないだろう」というわけにはいきません。
相続放棄をしたとしても、相続財産に対する管理義務だけは残ります。
そのために、相続放棄をした相続人は、相続放棄後も次の順位の相続人が遺産を管理することができるようになるまで、自己の財産と同一の注意をもって相続財産を管理しなければならないのです。
相続財産の管理を怠ったことが原因で第三者に損害が生じた場合には、相続放棄をした相続人であってもその損害を賠償する責任を負う可能性がある点に注意してください。 -
(2)管理義務を免れるためには相続財産管理人の選任が必要
相続人全員が相続放棄をしてしまった場合には、相続財産を管理することができる人がいなくなってしまいます。
このような場合には、「相続財産管理人」を選任することが必要になります。
選任された相続財産管理人によって相続財産の管理が行われた時点で、相続放棄をした相続人の相続財産の管理義務は消滅します。そのため、管理義務を免れたいと考える場合には、相続財産管理人を選任することが必要となるのです。
相続財産管理人を選任するためには、家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任申し立てを行う必要があります。
また、申し立ての際に相続財産管理人の報酬となる予納金を納める必要があります。十分な相続財産がある場合には、予納金の負担がなくなったり少額で済んだりしますが、相続財産が相続財産管理人の報酬を支払うのに不足するという場合には、申立人が負担する必要があります。
予納金の金額は、事案によって異なりますが、数十万円から100万円程度の負担が必要です。
4、金銭的価値のない遺品の処分方法
以下では、金銭的価値のない遺品を処分する方法について解説します。
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(1)食料品や生ごみ
被相続人が死亡して、誰も住まなくなった自宅については、電気、ガス、水道などの契約が解除されます。
したがって、冷蔵庫内に残っている食料品などを放置すると、すぐに腐ってしまうでしょう。また、自宅内に生ごみなどが放置されていると悪臭や虫の派生などにより周辺住民に対して悪影響が及ぶおそれもあります。
このような食料品や生ごみについては、基本的には金銭的価値のないものといえますので、遺品整理として処分をしてしまっても、特に問題は生じません。 -
(2)形見分け
被相続人が愛用していた物品については、「形見分け」として被相続人と関係の深い親族や親しかった友人などに贈ることがあります。具体的には、着物などの衣類、アクセサリー、宝石、貴金属、家具などが「形見分け」で贈られることが多いでしょう。
このような形見分けは、社会通念に照らして必要かつ相当な範囲内のものであれば、多少の価値があったとしても、法定単純承認にはあたらないと考えられています。
しかし、財産的価値が一定程度以上あるものや遺品の大部分を送るなどの行為は、形見分けの範囲を超えているとして、法定単純承認に該当するおそれがあります。
そのため、誰が見ても明らかに価値がないもの以外については、形見分けをするのを控えるか、専門家である弁護士に相談してから判断するとよいでしょう。 -
(3)老朽化した空き家
老朽化して今にも倒壊しそうな空き家については、家屋としての金銭的価値はほとんどないといえます。
しかし、家屋の取り壊しをする行為は、法定単純承認に該当する可能性が極めて高い行為です。
したがって、相続放棄を検討中の方やすでに相続放棄をしたという方は、家屋の取り壊しは絶対に行ってはいけません。
家屋を処分するためには、相続放棄後に後順位の相続人に頼むか、他に相続人がいないのであれば相続財産管理人の選任が必要になってきます。
5、まとめ
相続放棄をする場合または相続放棄をした後に遺品整理を行うことがあります。
しかし、遺品整理によって金銭的価値のあるものが処分された場合には、相続放棄をすることができなくなったり、既に認められた相続放棄の効力が否定されたりするリスクがあります。
遺品整理を検討されている場合は、どのような範囲でどこまでの遺品整理ができるかを正確に把握するためにも、まずは弁護士に相談してください。
札幌市や近隣市町村にご在住で、相続放棄や遺品整理を検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスまでお気軽にご相談ください。
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