贈与契約の成立要件|贈与は口頭でも成立する? 贈与の際にすべきこと
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相続税対策の方法のひとつとして「生前贈与」という手続きが存在します。通常、財産の贈与には贈与税が課されます。しかし、年間110万円までの贈与であれば、非課税となります。長期的に財産を相続人などに移転させることができれば、将来に発生する相続税の負担を適法に軽減することができるのです。
しかし、生前贈与は適切に実行しなければ、後日さまざまな問題が起こる可能性がある点に注意する必要があります。
今回は、贈与契約の基本から多少の応用まで確認していきたいと思います。本コラムでは、贈与契約の成立要件や贈与をする場合の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、贈与契約の成立要件
贈与契約とは、一定の財産を相手に対して無償で与えることを内容とする契約です。贈与契約によって財産を渡す側のことを「贈与者」といい、財産を受け取る側のことを「受贈者」といいます。
贈与契約は、贈与者による「○○を渡す」という意思表示と、受贈者による「○○を受け取る」という意思表示が存在することで成立します。したがって、贈与契約は、贈与者と受贈者の意思の合致だけで成立する「諾成契約」なのです。
贈与というと、贈与者の一方的な意思表示だけでできそうな気もしますが、不要な物を贈られても困りますから、受贈者の合意も必要ということです。
なお、「贈与契約書を作成すること」は贈与契約の成立要件には含まれていません。
口頭によって成立した贈与契約については、民法によって、当事者がいつでも契約を解除することができます。
一方で、贈与契約書を作成した贈与契約については、契約の履行に向けた拘束力が生じるために、解除することはできないとされています。
2、贈与の種類
贈与契約には、以下のような種類があります。
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(1)単純贈与
「単純贈与」とは、贈与者と受贈者の意思表示だけで成立する一般的な贈与のことをいいます。相続税対策として利用される生前贈与についても、単純贈与の一種です。
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(2)死因贈与
死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力が発生する贈与のことをいいます。
たとえば、贈与者と受贈者との間で「私が死んだら100万円をあなたに贈与します」と生前に決めておく贈与が死因贈与です。死因贈与も贈与契約の一種ですので、贈与者と受贈者との合意だけで成立する契約です。
なお、死因贈与と似た制度として「遺贈」が存在します。
遺贈とは、遺言書によって特定の人に対して財産を受け継がせる方法のことです。「死亡によって効力が生じる」という点では死因贈与と共通しています。しかし、死因贈与は、当事者間の合意が必要な契約であるのに対して、遺贈は遺言者による一方的な意思表示だけでできる、という違いがあるのです。
この性質上、不要な物を一方的に遺贈することもできるので、合意を必要とする贈与契約のときにはなかった不都合が生じることもありますが、遺贈の場合、相続放棄と同じように、遺贈の放棄という手続がありますので、後々問題は無くせるということになります。
死因贈与は、口頭でも有効に成立しますが、遺贈の場合には遺言書を作成しなければなりません。 -
(3)負担付贈与
「負担付贈与」とは、受贈者に対して一定の債務を負担させることを条件とする贈与のことをいいます。
たとえば、「500万円を贈与する代わりに介護をしてもらう」、「自宅を贈与する代わりに住宅ローンを支払ってもらう」といった内容の贈与契約が負担付贈与にあたります。
基本的に、贈与契約とは、相手に対して無償で財産を渡すことを内容とする契約です。
しかし、負担付贈与を利用することによって、一定の負担と引き換えに財産を渡すということも可能になります。
なお、贈与だけ先に受けて、義務は履行しないという事態の発生も考えられますので、負担付贈与においては、相手が負担した義務の履行をしない場合には、債務不履行を理由として贈与契約を解除し、贈与したものの返還等を求めることができます。 -
(4)定期贈与
「定期贈与」とは、「一定期間、一定金額を贈与する」など定期的な財産の移転を目的とする贈与のことをいいます。たとえば「毎年100万円を10年間贈与する」「大学院を卒業するまで、毎月10万円を仕送りする」といった内容の贈与契約が定期贈与にあたります。
上記のように毎年100万円を10年間贈与するという内容の贈与契約が締結された場合には、贈与契約を締結した年に定期金に関する権利の贈与を受けたものとして扱われ、100万円ではなく、将来的に受け取る総額である1000万円に対して贈与税が課税されることになります。
そのため、110万円までの贈与税の非課税枠を利用して生前贈与することを計画する場合は、定期贈与になってしまわないように注意する必要があります。
3、贈与をするなら贈与契約書を作成すべき
贈与契約は口頭でも有効に成立しますが、贈与契約書を作成することで、将来のリスクを減らせるなどのメリットが得られます。
以下では、贈与契約書のメリットや公正証書の方式で作成すべき理由を解説します。
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(1)贈与契約書を作成するメリット
贈与契約書を作成すると、以下のようなメリットが得られます。
① トラブルの防止
贈与契約は、口頭でも成立します。しかし、口頭での契約では契約内容が曖昧になってしまい、贈与をする時点で贈与内容をめぐってトラブルが発生する可能性があります。
また、例えば贈与者が死亡した場合には、義務も相続する贈与者の相続人が贈与義務を履行することになりますが、事情を知らない相続人に対して贈与の履行を求めたとしても、拒否されてしまうことがあるのです。
そして、贈与が実行されないという問題が起こった場合に、裁判を起こして贈与をするよう請求したとしても、口約束でしかないなら立証も難しいため、裁判官を納得させることも困難になってしまいます。
贈与契約書では、贈与契約の事実およびその内容を客観的な形に残しておくことができるために、後に発生するトラブルを防止しやすくなります。
② 解除ができなくなる
口頭での贈与契約の場合には、実際に贈与契約に基づいて財産を移転する前であれば、いつでも解除することが可能であるとされています。しかし、贈与契約書を作成した場合には、契約の履行に向けた拘束力が生じるために、簡単に解除することはできなくなります。
贈与者にとっては、気軽に贈与契約を解除することができないのはデメリットになるかもしれません。ただ、後に翻意する可能性があるのであれば、贈与をすることに最初から慎重になれば良いだけです。
そして、受贈者の側に立てば、確実に贈与を受けることができるようになるために、大きなメリットがあるといえます。
③ 不動産登記に利用できる
贈与契約によって土地や建物といった不動産の贈与を受けた場合には、受贈者は、当該不動産の名義を贈与者から受贈者に変更し、自分の権利を対外的にも確定させなければなりません。
不動産の名義変更にあたっては、名義変更の原因となる事実が生じたことを証明する書面を法務局に提出する必要があります。口頭での合意だけでは不動産登記に必要となる書面を提供することはできないため、必ず、贈与契約書などの書面を作成しておかなければなりません。
④ 税務署対策として利用できる
相続税対策として、年間110万円までの範囲で生前贈与が行われることがあります。年間110万円までの範囲であれば贈与税は非課税とされていますので、贈与税の負担なく財産を移転することができ、将来の相続財産を減らすことも可能になります。
ただし、生前贈与が定期贈与であると考えられてしまった場合には、定期贈与の総額に対して贈与税が課税されてしまいます。
このようなリスクを回避するためには、贈与契約書を作成して、毎年個別の贈与を行ったのだと主張し、単純贈与を証明する必要があるのです。 -
(2)贈与契約書は公正証書がおすすめ
贈与契約書には、法律で決められた様式があるわけではありません。当事者が手書きやパソコンで作成することもできます。
その際には、最低限、以下の項目を盛り込むようにしましょう。- 贈与者
- 受贈者
- 贈与の時期
- 贈与の目的物
- 贈与の条件(何かあれば)
- 契約書の作成日
また、贈与契約書を作成する場合には、当事者間で作成する「私文書」ではなく、公正証書の形式にすることをおすすめします。
「公正証書」とは、公証役場の公証人が作成する公文書のことをいいます。
公正証書にすることによって、契約書の形式・内容の不備によって契約が無効になってしまうリスクを回避することができます。
さらに、贈与契約が履行されない場合には、強制執行をすることができるというメリットもあります。
強制執行の手続は、通常であれば、裁判を起こして判決を得てからでないと実施することができません。しかし、公正証書にしておくことによって、そのような手続をスキップして強制執行が可能になるのです。
お問い合わせください。
4、贈与にかかる税金と支払う人
贈与をする場合には、贈与税が発生する点に注意する必要があります。
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(1)贈与税とは
贈与税とは、財産をもらったときにかかる税金のことをいいます。
贈与税が課税されるのは、個人から財産をもらった場合に限られるため、会社などの法人から財産をもらった場合には、贈与税が課税されることはありません(金額によっては、別途所得税や住民税がかかる可能性はあります)。
また、贈与税には、基礎控除として110万円の枠が設けられています。
毎年の1月1日から12月31日までの1年間に受け取った財産の総額が基礎控除である110万円以下である場合には、贈与税が課税されることはありません。この場合には、贈与税の申告も不要となります。
この贈与税の基礎控除を利用することによって、相続税対策としての生前贈与を行うことができます。ただし、その際には、既に述べたように定期贈与とみなされないように注意することが必要です。 -
(2)贈与税は受贈者が負担
「贈与税とは、財産を渡す贈与者が支払うものである」と誤って理解されていることがあります。
しかし、贈与税を支払わなければならないのは、財産をもらった受贈者です。
このことを勘違いしたまま多額の贈与をしてしまうと、受贈者に高額な贈与税の納税義務が生じることになります。もし贈与をしたのが現金であれば、贈与税の支払いも容易かもしれませんが、不動産などの場合、納税する現金が用意できないというおそれもあるので、くれぐれも注意しましょう。
5、まとめ
贈与契約は、贈与者と受贈者の口頭による合意だけでも成立させることができます。
しかし、口頭による合意だけでは、贈与契約の内容に疑義が生じてしまい、将来にトラブルが発生するリスクが高くなります。したがって、贈与契約を締結した場合には、贈与契約書を作成することをおすすめします。
贈与契約書には決められた様式はありませんが、「どのような内容にしたらよいかわからない」という場合には、専門家である弁護士に相談をするとよいでしょう。
また、相続税対策として生前贈与をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。相続税対策について、所内の税理士とも協力しつつ、総合的な観点から、最適な方法をご提案いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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