有効な遺言書とは? 遺言書の種類や効力発揮の前提条件を札幌市の弁護士が解説

2018年09月25日
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有効な遺言書とは? 遺言書の種類や効力発揮の前提条件を札幌市の弁護士が解説

あなた自身に万が一のことがあった後、財産を誰にいくら相続させるのか、具体的に考えたことはありますか?
「財産はよく世話をしてくれた娘が相続すればよい」
……などと考えていても、必ずしも自分の意思に沿った相続になるとは限りません。法律上の相続人や順位は、民法によって決められているためです。

また、北海道内の全体から多数の人口が流入する札幌では、地価上昇が続いています。不動産を相続することで相続人の税負担が増える可能性があるかもしれません。生前に資産を整理し、自分の死後に子孫が相続税の負担に困らないよう備えておくことも、残された家族への愛情を示すひとつの方法です。

この記事では、不要な遺産相続争いを避け、相続人の負担を減らすために効果的な「遺言書」の作成について、札幌オフィスの弁護士が解説します。遺言書が効力を発揮するための条件や種類などを見ていきましょう。

1、遺言書とは

本稿で扱う「遺言書」とは、自らの財産に関わることについて、あなたが亡くなったのち、あなた自身の意思に沿った手続きをしてもらうために残すことができる、法的な書類を指します。

まず、遺言書で示し、実行を強制することができる事項は、主に、財産や遺品の処分、未成年の子どもの監護者などに関する事柄に限られます。一般的には、生前の思いなどをつづった手紙を「遺書」と呼ぶこともありますが、基本的には全く別のものであると考えておいてください。特に相続財産については、被相続人が「自分の死後、相続人となった遺族たちが争いをしないように」と願って遺言書が作成されるケースが多々あります。

また、「被相続人(ひそうぞくにん)」とは、相続できる財産を残して亡くなった方を指します。残された財産を受け取る方は「相続人(そうぞくにん)」と呼ばれています。

財産の相続については、そもそも民法によって「法定相続人」が定められており、相続順位も決まっているものです。よって、遺言書がない場合は、民法の規定に沿った分配が行われます。

それでも、相続割合などについて話し合いのみで解決することは簡単ではありません。しばしばトラブルに発展することがあります。具体的には、生前、被相続人によく世話をしていた方が財産を多く受け取りたいと主張する、被相続人の死亡後に隠し子が発覚するなどのケースです。

しかし、あらかじめ、法的な規定に沿った正当な遺言書が残されていれば、民法に定められた法定相続よりも遺言書の内容が優先されますので、遺産相続によるトラブルを回避できます。さらに、特定の方へ多く財産を残したい、団体へ寄付をしたいなどのケースにおいて、故人の意思を優先した財産分配を実行してもらうことができます。

2、遺言書が効力を発揮するための前提条件

遺言書が法的な効力を発揮するためには3点の条件があります。

ひとつめが、作成者の条件です。
まず、民法第961条によって、遺言能力について定められています。よって、遺言書を作成する「被相続人」は、「意思能力のある満15歳以上」である必要があります。

また、認知症や精神上の障害により成年被後見人となっている方が、「遺言書」を作成するためには、一定の条件を満たす必要があります。

ふたつめが、作成方法です。
遺言書に法的な効力を持たせるためには、法律で定められた方式で、本人の意思により自書したうえ、押印された遺言書である必要があります。

ドラマや映画などで、遺言として録音や録画を残すシーンを見ることがあります。しかし、それらは確かに「遺言」なのですが、法的な効力を持つ「遺言書」とは全く別物となります。故人が生前述べていた内容を第三者が遺族に伝えたとしても、正式な遺言書がなければ、相続人は被相続人の意思を無効として財産分割を行うことになります。

最後のひとつは、民法第975条によって、「共同遺言は禁止されている」ということです。たとえば夫婦がそろって、子どものために遺言書を残したいと思う場合でも、夫婦それぞれが個々に遺言書を作成する必要があります。

3、遺言書の方式

遺言書は大別すると、「特別方式」と「普通方式」の2種類があります。

「特別方式」とは、緊急性が高い場合に用いられる遺言書の作成方法を指します。たとえば、病気や災害などにより死期が迫っている場合や、船や飛行機の遭難・墜落が予想される場合、伝染病にかかり病院で隔離されている場合などが該当します。基本的には、普通方式での遺言書作成が難しいケースにのみ認められている方式です。

自身が元気なうちに、自らの死後を考え、早いうちに遺言書を作成しておきたい……というケースでは、次項で述べる「普通方式」の遺言書の作成を検討することになります。

4、遺言書の3つの種類

普通方式の遺言書には3つの種類があります。

それぞれ、遺言書そのものの作成方法はもちろん、保存方法まで異なります。まずは3種の特徴を知り、あなた自身が作成する遺言書はどれがもっとも適しているのかなど、参考にしてください。

  1. (1)自筆証書遺言

    「自筆証書遺言(じひつしょうしょゆいごん)」とは、その名のとおり、自筆による遺言書です。

    民法第968条で定められた遺言方法で、「遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と明記されています。特に決まった書式がなく、費用もかかりませんので、思い立ったときに手軽に作成できるというメリットがあります。保存方法も特に規定がない点も、手軽さという観点においてはメリットとなるはずです。

    一方、デメリットもいくつかあります。
    まず、条文上で明文化されているとおり、代筆やパソコン入力で作成された場合は、法的な効力を持つ遺言書としてみなされません。また、正式に遺言書として効力を発揮するためには、単に「子どもにすべて相続させる」「8月吉日」のような曖昧な書き方では、効力を失います。被相続人の意思であることを確定させるために、民法によって「内容」や「日付」が明確かどうか、「署名」「押印」が正確になされているかなどの要件が決まっているのです。1カ所でも不備があると無効になってしまうため、慎重に作成する必要があるでしょう。

    また、保管場所や方法が定められていないことから、何者かによって破棄、隠匿、改ざんされるリスクもあります。さらには、遺言書の保管場所が分からないことによって相続人たちが探す手間が発生する、発見してもらえないまま相続が進んでしまう可能性がある……などの点も、被相続人にとってはデメリットとなりえます。

    相続人が「自筆証書遺言書」を発見し、内容を確認するときは、家庭裁判所での「検認(けんにん)」手続きを行う必要があります。

  2. (2)公正証書遺言

    「公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)」とは、所定の手続きに従い、公証人の手を借りて作成する遺言書です。公証人とは、法務大臣が任命する公務員のことで、法律実務に精通している方の中から選ばれ、公証役場に在籍しています。

    公証役場において、公正証書遺言作成の依頼を受けた公証人は、遺言内容が法的に有効かどうかを確認しながら、証人2名の立ち会いのもと遺言書を作成していきます。さらに、完成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。

    これらは最大のメリットとなり、破棄や隠匿、第三者による改ざんのおそれがありません。目や手が不自由などの理由で口述筆記する場合も、公正証書遺言であれば問題なく作成できます。

    「公正証書遺言」は、書式のミスによって内容が無効になるおそれなく、内容が改ざんされる可能性ももっとも低い、安全・確実な遺言書といえるでしょう。また、すでに原本が公証役場で保管され、内容も確認されていることから、相続人が遺言書を確認する際は公証人役場からコピーを取り寄せるだけでよいという点も大きなメリットとなります。

    しかし、厳重な遺言書を作成できる「公正証書遺言」だからこそのデメリットが2点あります。ひとつめは、「2人以上の証人が必要」という点です。証人の人選も厳格に決められているため、要件を満たさない方が証人だったことが発覚すれば、たとえ「公正証書遺言」であっても法的な効力を失います。よって、多くのケースで、信頼できる成人の友人や弁護士、公証人などから証人を依頼することになります。

    もうひとつのデメリットは、「作成費用がかかる」点です。作成費用は、相続財産額によって段階的に変わります。多くの財産を記載することで作成費用が高くなる仕組みです。あらかじめ財産額を明らかにしたうえで作成費用がいくらになるのかを調べておいたほうがよいでしょう。

    公正証書遺言の内容は公証人に知られることになる点も、デメリットと感じる方もいるでしょう。公証人が他言することは公務員の守秘義務があるため考えられませんが、それでも「内容を誰にも知られたくない」という場合には不向きかもしれません。

  3. (3)秘密証書遺言

    「秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)」とは、自身が作成した遺言書を公証役場に持ち込み、公証人と証人2人以上によって「遺言書」そのものの存在を証明してもらう遺言書です。自筆の署名は必要ですが、パソコンでの作成や代筆も可能です。

    メリットは、誰にも遺言書の内容を知られることがないことと、手軽に作成できることにあります。また、遺言書の存在を公証役場に証明してもらうことができる点も、大きなメリットでしょう。

    しかしながら、専門家による内容確認が行われない方法なので、死後、記載不備が明らかになり、遺言書自体が無効になるリスクがあります。また、公証役場ではあくまでも「遺言書の存在を証明する」だけです。原本の保管も自分自身で管理する必要があるため、紛失や改ざん、遺言書自体を見つけてもらえないなどのデメリットが残ります。さらに、相続人が遺言書を開封する際は、家庭裁判所による「検認」が必要となります。

    「秘密証書遺言」は、自筆証書遺言と公正証書遺言の長所を併せ持つ方式の遺言書だといえるでしょう。ただし、自筆証書遺言書のデメリットを打ち消すほどのメリットがさほど大きくないことから、あまり活用されていない遺言方法です。

5、財産目録の必要性

元気なうちに「遺言書」を作成することと同時に、重要なことがひとつあります。遺言書を作成する時点で、財産目録を作っておくことです。

財産目録とは、被相続人の財産一覧表のことです。預金や不動産、株券などの財産のほか、借金などのマイナス財産をすべて明らかにしたうえで、遺言書を作成することをおすすめします。被相続人の財産が、どこに、どのくらいあるのかなどを明らかにすることで、遺産分割協議がスムーズに進み、相続人同士のトラブルを避けることができるでしょう。遺留分などを考慮した財産分割指定を詳細に行える点は、大きなメリットです。

また、財産目録があれば、親族が行わなければならない、相続税の申告時にかかる手間が軽減されます。遺族が後になって相続税の納付で困る……という事態も回避できるでしょう。

6、まとめ

今回は、遺言書の効力が発生するための前提条件や種類について解説しました。
遺言書を自分ひとりで作成すると、労力や時間がかかるだけでなく、せっかく残しておいても、法的な要件が欠けて無効になってしまうこともあります。また、独りよがりな内容になっていれば、残された遺族が傷ついてしまったり、相続人同士の関係性がうまくいかなかったりすることもあるでしょう。

遺言書の作成は、相続の専門家である弁護士に依頼するのが最良の手段です。弁護士に一任すれば、遺言書の内容に不備が生じることがなく、遺言書の作成によるトラブルも回避して、適切な遺言書を残すことができるでしょう。

ベリーベスト法律事務所・札幌オフィスの弁護士が、あなたの相続についての悩みを解決に導きます。遺言書の作成でお困りであれば、お気軽にご連絡ください。

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