労災で交通費はどこまで出してもらえる? 認められる交通費の範囲
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北海道労働局の統計によると、2020年中の北海道内における労災発生件数は、計7735件でした。前年と比較すると、992件の増加となっています。
労働災害(労災)が原因でケガをした場合、徒歩や公共交通機関での通勤が難しくなることがあります。「タクシーを使えばなんとか出勤できる」という場合も、タクシー代がかさんでしまいます。
労災によって必要となったタクシー代を、労災保険や会社から補償してもらうことはできるのでしょうか?本コラムでは、労災によるケガが原因で発生したタクシー代などの交通費の取り扱いについて、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、交通費は労災保険給付の対象? 対象外?
労災の被害に遭った労働者は、会社が加入している労災保険から給付を受けることができます。
労災保険給付では、治療費・休業・後遺症などに関するさまざまな損害が、補償対象に含まれています。
労災が原因でケガを負うと、病院への通院費や、会社への通勤のためのタクシー代など、健康な状態であれば不要であった交通費が余計に発生してしまう場合があります。
以下では、労災が原因で発生した通院費やタクシー代などの交通費が労災保険給付によって補償されるのかどうかについて、解説します。
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(1)通院交通費は労災保険給付の対象となる
通院にかかる交通費は、労災保険給付の対象となる場合があります。
原則として、片道2km以上の通院であって、かつ次のいずれかの条件に該当する場合に、通院交通費が労災保険によって補償されるのです。【通院交通費が労災保険によって補償される条件】
- 同一市町村内の適切な医療機関へ通院したとき
- 同一市町村内に適切な医療機関がないため、隣接する市町村内の医療機関へ通院したとき(同一市町村内に適切な医療機関があっても、隣接する市町村内の医療機関の方が通院しやすいときなども含む)
- 同一市町村内にも隣接する市町村内にも適切な医療機関がないため、それらの市町村を超えた最寄りの医療機関へ通院したとき
通院交通費は、「療養(補償)等給付」として支給されます。
通院交通費を支給してもらうためには、労災指定医療機関を受診している場合にはその医療機関の窓口に、それ以外の医療機関を受診している場合には労働基準監督署の窓口に、費用請求書を提出してください。 -
(2)通勤交通費は労災保険給付の対象外
通院費とは異なり、通勤にかかる交通費は、労災保険給付の対象に含まれません。
例えば、普段は徒歩や公共交通機関で通勤しているところ、労災で生じたケガによってタクシー通勤を余儀なくされた場合には、タクシー代が余分にかかることになります。
しかし、余分にかかったタクシー代は、労災保険給付によっては補償されません。
ただし、労災保険から給付を受けられなくても、余分にかかった通勤交通費については、会社に対して請求できる可能性があります。
会社への請求が認められるかどうかについては、第3章で詳しく解説します。
2、労災の治療中、会社に出勤を求められた場合の対処法
労災によるケガが完治していないにもかかわらず、会社から出勤を求められることが有ります。
その時点でのケガの状態にもよりますが、現実的に出勤が難しい場合には、以下の方法で対処しましょう。
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(1)まだ働ける状態にないことを伝える
ケガの状態が重く、労働に耐え得る状況にない場合には、会社に対して、「まだ働ける状態ではない」という旨を伝えましょう。
会社から診断書の提出などを求められた場合には、主治医に相談して、会社を説得できる内容の診断書の作成をご依頼ください。
なお、会社を休んでいる間は、休業4日目以降、労災保険給付から賃金の8割に当たる「休業(補償)等給付」を受けることができます。
また、賃金全額と休業(補償)等給付の差額については、会社に対して損害賠償を請求できる場合もあります。
詳しくは、弁護士にまでご相談ください。 -
(2)在宅勤務を認めてもらうように交渉する
デスクワークができる程度の状態には回復したものの、足腰のケガなどによって通勤は厳しい状態にある場合には、在宅勤務を認めてもらうように交渉することも検討できます。
すでに会社にテレワークの制度が導入されている場合には、在宅勤務も認められやすいでしょう。
一方で、会社全体の方針や、上司のこだわりなどによって、あくまでもオフィスへ出勤するように求められることもあります。
現実的に出勤が難しい場合には、主治医の診断書を基にして、会社の説得を試みましょう。
お問い合わせください。
3、労災でタクシー通勤が必要な場合、会社にタクシー代を請求できる?
「徒歩や公共交通機関での出勤は難しいが、タクシーを使えば出勤できる」という場合には、会社の出勤命令にどう対応してよいか悩ましいところです。
もしタクシーでの出勤を強いられる場合、会社に対してタクシー代を請求することができるかどうかについて解説します。
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(1)労働契約の定めにより、請求できる場合がある
労災によって発生した通勤のタクシー代を、会社に対して請求できる根拠としてまず考えられるのが、労働契約上の規定です。
一般的に、労働契約では、合理的な経路や方法による通勤費用は会社側の負担とされています。
原則として、「合理的な経路や方法」とは、徒歩または公共交通機関による最短経路を意味することが多いでしょう。
しかし、ケガで徒歩や公共交通機関による通勤が難しい場合には、タクシーなどの別の方法による通勤も、「合理的な経路・方法」による通勤であると認められる可能性があります。
会社と結んだ労働契約における通勤費用の負担に関する規定の解釈として、タクシー代が会社負担となる趣旨に読めるのであれば、それを根拠にして会社と交渉するとよいでしょう。 -
(2)労災の損害賠償として請求できる場合がある
タクシー通勤を強いられることになった原因が、会社の責任によって生じた労災である場合には、余分にかかるタクシー代を「損害」とみなして、損害賠償を会社に請求できる可能性があります。
会社に対してタクシー代の損害賠償を請求する際の法律構成は、以下の2通りです。① 使用者責任(民法第715条第1項)
会社の従業員の人為的ミスなどによって労災が発生した場合、使用者である会社も、被災労働者に対して損害賠償責任を負います。
② 安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
会社は労働者に対して、生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように、必要な配慮をする義務を負っています。
機械の整備不良・長時間労働・パワハラなどによって労災が発生した場合、安全配慮義務違反に基づき、会社は被災労働者に対して損害賠償責任を負うことがあります。
4、「タクシー代は支給しない、しかし出勤せよ」と言われた場合の対処法は?
徒歩や公共交通機関での通勤が難しい被災労働者に対して、会社がタクシー代を支給しないにもかかわらず通勤を強制する場合には、被災労働者は不当な扱いを受けている可能性があります。
ケガの状態によっては、そもそもまだ出勤する義務はないかもしれません。また、出勤するとしても、会社にタクシー代を請求できるかもしれないのです。
もし会社から「タクシー代は支給しない、しかし出勤せよ」と命じられた場合には、労働基準監督署または弁護士へのご相談をおすすめします。
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(1)労働基準監督署に相談する
全国の市区町村に設置されている労働基準監督署は、企業の労働法令違反に関する取り締まりや行政指導を行っています。
労働者は、使用者側に労働基準法違反の事実があると判断した場合、労働基準監督官に対して申告を行うことが認められています(労働基準法第104条)。
また、労働法上の取り扱いについて不明な点や疑問点がある場合にも、労働基準監督署の窓口で相談することが可能です。
もしケガの状態が思わしくないにもかかわらず、会社から通勤を強いられている場合には、最寄りの労働基準監督署へ相談してみるとよいでしょう。 -
(2)弁護士に相談する
労働者が会社に対して直接的に交渉したい場合には、弁護士へのご依頼をおすすめします。
弁護士に依頼すれば、被災労働者の代理人として、会社に対して待遇改善やケガへの配慮、さらにはタクシー代などの補償を求めることができます。
労働基準監督署は監督官庁の立場ですが、弁護士は、被災労働者のために直接行動する立場にある点が大きな特徴です。
弁護士は、被災労働者のご要望を十分にふまえたうえで、問題を解決するため、さまざまな手段を講ずることができます。
通勤交通費の取り扱いを含めて、労災に関して会社から不当な取り扱いを受けた場合には、お早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
労災保険給付では、通院にかかった交通費は補償対象となりますが、通勤にかかる交通費については、補償の対象外とされています。
これに対して、労災の法的責任が会社にある場合には、会社に対してタクシー代などの通勤交通費を請求できる可能性があります。
労働契約の規定や、使用者責任や安全配慮義務違反を根拠として、会社に対して正当な補償や賠償を求めましょう。
ベリーベスト法律事務所では、被災労働者の方からの法律相談を受け付けております。
労務紛争に関する経験を豊富に有する弁護士が中心となって、被災労働者の方の被害回復を全力でサポートいたします。
北海道にお住まいで、労災に関して会社に対する損害賠償請求などをご検討中の方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスまでご相談ください。
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