スキー場で衝突事故に遭ったら誰に損害賠償請求できる? 責任の所在を解説

2019年04月18日
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スキー場で衝突事故に遭ったら誰に損害賠償請求できる? 責任の所在を解説

北海道は、世界的に見ても雪質がよく人気のスキー場が点在していることでも知られています。札幌市内からのアクセスがよいスキー場が多数あり、札幌市内にお住まいの方もスキーやスノーボードを楽しんでいるのではないでしょうか。

一方で、スキー場で他の利用者に衝突され、スキーはおろか、日常生活や仕事が困難になってしまう被害に遭われた方もいます。スキー場内で事故に巻き込まれてしまった場合、加害者に対して損害賠償を求めることはできるのでしょうか。

この記事では、スキー場の事故に着目し、責任の所在や損害賠償請求の手順などについて、札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、スキー事故の責任は誰にある?

スキー中の衝突事故で怪我を負ってしまった場合、誰に責任を求めることができるのでしょうか。

  1. (1)基本的には上方の滑走者に責任がある

    スキー事故では原則、上方から滑走してきた者の責任が大きいと捉えられています。過去の判例でも、上方を滑走する者は、下方にいる者に衝突しないように注意し、危険があれば回避する義務があると示されています(最高裁判所 平成7年3月10日判決)。

    スキーの滑走速度は、レジャー目的で時速40~60km、高速競技ともなれば100kmを超えることがあります。自動車と同じくらいのスピードがでるわけですから、滑走者には相応の責任がともなう危険なスポーツだと考えることができるでしょう。

    特にスピードがでやすい上方滑走者の責任が重く取り扱われることは当然のことだといえます。

  2. (2)加害者が子どもなら保護者に責任

    加害者が子どもだった場合はどうでしょうか。子どもの年齢によって責任能力が問えないことや、責任能力があっても財力がないことなどによって責任追及を諦めるべきか悩むかもしれません。

    この場合は親や引率のコーチなど、子どもを監督するべき保護者に責任があります。「監督義務者責任」や「監督代行者責任」を根拠に損害賠償を求めることも考えられます。少なくとも「加害者が子どもだから仕方がない」と泣き寝入りする必要がないことは覚えておきましょう。

  3. (3)被害者の責任が認められ過失相殺されるケース

    過失相殺とは、被害者側の過失責任も考慮し、損害賠償金額を減額することをいいます。「加害者が悪かったけれど、被害者にも落ち度があった」という双方の事情を相殺して金額を決めるわけです。

    被害者の過失が認められやすいケースとしては、次のようなパターンがあります

    • 被害者が急に止まったり曲がったりしたところに加害者が衝突した
    • 被害者がゲレンデの真ん中に立ち止まりゴーグルをいじるなどしていた
    • 被害者が自身で転倒後、速やかに移動すれば加害者との衝突を回避できたのにしなかった
    • 被害者は技量がないにもかかわらず上級者コースを滑走していた


    過失割合については、当事者の技量、ゲレンデの混雑状況、当日の天候などのさまざまな要素を含め、事故の状況によって総合的に判断されます。一概にいえるものではありませんが、被害者の過失が認められるケースがあると知っておきましょう。

  4. (4)スキー場の責任が認められることも

    衝突事故の原因がゲレンデやコースにあった場合には、スキー場の管理者に対して責任を求めることができます。

    過去、スキー場と橋の管理者である地方公共団体の責任が一部認められたことがありました。コース途中の橋の上でバランスを崩したスキーヤーが転落して亡くなった事案で、該当の裁判では、下記のような状況にもかかわらず十分な設備を整えていなかったとして、スキー場にも一部過失が認められています(東京高等裁判所平成10年11月25日判決、原告は最高裁に上告)。

    • 橋から転落した場合に砂防壁にぶつかり死亡する危険性があった
    • 橋に入ると加速度が変わり体のバランスを崩しやすかった
    • 橋の滑走面が整備不良で足を取られやすい状態にあった


    もっとも、同事案では、注意義務違反などスキーヤーの過失も相当割合認められています。スキーヤーは自己の技量に応じた無理のない滑走をする責任があることも忘れてはなりません。

2、スキー事故で損害賠償請求できるもの

スキー事故で負傷した場合、次のような項目について損害賠償請求が可能です。

  • 怪我をしたときの治療費、入院費
  • 通院費、通院にともなう交通費
  • スキー用具や衣服の弁償・修理費
  • 休業補償(事故によって仕事を休む場合の給与補償)
  • 逸失利益(事故によって後遺症をもたらした場合、事故がなければ将来得られたであろう利益)
  • 慰謝料(精神的苦痛への賠償)


どの項目でいくら請求できるのかは、事故の状況によって大きく異なります。治療費や通院費、用具の弁償費などは実費です。休業補償や逸失利益は被害者の職業や給与によっても変わってきます。

個々のケースによって大きく異なる部分であり、相場などで簡単に割り出せるものではありません。

3、スキー事故で損害賠償請求する際の手順は?

スキー事故は自動車事故のように、車のナンバーを確認できたり、ドライブレコーダーで証拠が残っていたりといったことがありません。怪我をしたらすぐに相手の連絡先を聞き、お互いの事故状況を確認しておく必要があります。

ここは、後に過失割合を決める際にも影響しますので非常に重要な部分です。記憶が鮮明なうちに整理しておきましょう。

実際に損害賠償請求する際の手順について、法律上で明確な決まりがあるわけではありません。電話やメールなどでも問題ありませんが、一般的には請求の事実が残るように、内容証明郵便で請求通知を送るところから始めます。

もちろん、いきなり裁判を起こすわけではなく、まずは示談交渉によって相手方と話し合いによる解決を目指します。相手方が保険に加入していれば、保険会社とのやり取りになることもあるでしょう。加害者が示談に応じなかったり、請求額の面で折り合いがつかなかったりすれば、調停、裁判へと移っていきます。

ただし、損害賠償請求を行う根拠の証明と交渉に多大な時間を使うことになるケースは少なくありません。初期段階の行動によっては、交渉で双方が納得できる可能性があるにもかかわらず長期化してしまうこともあるでしょう。自己判断せず、弁護士に相談することをおすすめします。

4、スキー事故の交渉を弁護士に一任するべき理由

スキー事故で被害に遭った場合の交渉は、できる限り弁護士を介する方がよいでしょう。弁護士費用がかかることを懸念されるかもしれませんが、適切な賠償請求につながるため、結局はご自身の身を助けることになります。

  1. (1)治療に専念することができる

    治療が終わっていなければ具体的な請求額の提案ができません。まずは治療に専念したいところです。

    最終的な合意は治療が済んでからになりますが、その間、加害者が本当に治療費を払ってくれるのか不安を抱えながら生活することも避けたいでしょう。また、スキー事故は過失割合が問題になることが多いため、一般の方が交渉を行うことは難しい面があります。

    こうした事情から、スキー事故で怪我をしてしまったら、弁護士に相談しながら治療を進めることをおすすめします。示談交渉の場面だけでなく、調停や裁判に発展した際の代理人になってもらうこともできるでしょう。

  2. (2)損害賠償額の増額に期待できる

    加害者側の保険会社から治療費や慰謝料の提示があった場合でも、その額は低額であるおそれがあります。一般的に保険会社の提示額は、裁判基準と比較して低く設定されていることが多いためです。

    実際のところ、弁護士が間に入ることで、保険会社の態度が変わることもあります。交渉によって裁判基準にそった額まで増額できることが珍しくありません。やはり弁護士に交渉を任せた方がよいでしょう。思うような賠償額の提示が受けられず納得がいかない、妥当な金額なのかよく分からないといったことがあれば、まずは弁護士に相談しましょう。

5、まとめ

今回は、スキー場で衝突事故の被害者になったケースを想定し、事故の責任の所在、損害賠償請求の手順などについて解説しました。スキーやスノーボードは、自然やスピード感などが魅力の楽しいスポーツですが、その反面、事故の危険もはらんでいます。

万が一事故の被害に遭ってしまった際は、少しでも早く回復するよう治療に専念することが大切です。そのためにも、事故の責任や損害賠償請求問題に対応した経験が豊富な弁護士に一任するようにしましょう。

ベリーベスト法律事務所・札幌オフィスの弁護士も、適切な賠償を受けられるように全力でサポートします。スキー場の事故で被害に遭われた方はひとりで対応しようとする前に、まずは相談してください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています