売掛を飛ばれたホストはどうすればいい? 回収するための方法とは
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2020年に札幌地方裁判所が受理した民事事件の総数は2万2177件でした。
ホストクラブでは「売掛金」を回収することがホストの責務となっています。もし回収不能になってしまった場合には、ホスト自身が補塡(ほてん)することも義務付けられている場合が大半です。
客に売掛金を踏み倒されてしまいそうになった場合は、法律にのっとった適切な方法を用いて、回収を試みましょう。本コラムでは、ホストクラブの売掛金を法的に回収する方法について、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、ホストクラブの「売掛(売掛金)」とは?
ホストクラブでは、客の飲食代金を「売掛」扱いにされることがあります。
以下では、「売掛」の概要や、法的に問題はないかという点について解説します。
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(1)「売掛」=飲食代金を後払い(ツケ)にすること
ホストクラブにおける「売掛(売り掛け)」とは、客の飲食代金を当日に回収せず、後払い(ツケ)にすることを意味します。
ホストクラブには、ホストを指名して月に何度も通い詰める客も多くいます。そのような客と指名されたホストの間では、信頼関係が成立するでしょう。
このような常連の客については、来店のたびに飲食代金の精算を求めるのではなく、原則として月末に設けられる「締め日」までに、その月の飲食代金をまとめて支払ってもらうことがあります。
これが「売掛」であり、未回収の状態にある飲食代金を「売掛金」「未収金」などと言います。
また、ホストクラブでの飲食代金は、担当ホストの売り上げに貢献する目的で高級な酒を注文するなどした結果、1日で数十万円~数百万円の極めて高額に及ぶケースも少なくありません。
そうなると、当日に飲食代金を支払う手持ちがないため、月末の締め日まで支払いを待ってもらうケースがあります。
この場合にも、売掛金が発生します。
このように、ホストクラブでは売掛(売掛金)が発生することがあるのです。 -
(2)売掛(ツケ)自体は法的に問題ない
ホストクラブでの飲食代金を売掛(ツケ)扱いにすること自体は、法律上、特に問題ありません。
代金の後払いは、一般的な契約でも普通に行われていることです。法律においても、当事者の合意があれば、それを尊重すべきとされています(契約自由の原則)。
しかし、ホストクラブにおける売掛については、客の身の丈に合わないほど高額に及ぶケースが非常に多いことが、大きな問題となります。
また、純粋にホストと客の信頼関係に基づいて売掛が行われていることから、借用書などを作成しないケースが大半です。
そのため、客側の資金が尽きてしまったり、客がホストに愛想を尽かしてしまったりしたことが原因で、売掛金の回収が困難になるケースも珍しくありません。
2、ホストクラブの売掛金には消滅時効がある
客に売掛金の支払いを拒否されたホストの方は、弁護士などを、通じて売掛金の回収を図ることにしましょう。
ただし、売掛金には消滅時効があるため、未回収の売掛金を長期間放置することなく、早めに回収へと着手することが重要になります。
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(1)消滅時効とは?
消滅時効とは、債権(請求権)を行使できる期間を限定する制度です。
長期間請求がなかったにもかかわらず、いきなり請求を受けることによる債務者の不意打ちを防ぎつつ、早期の債権行使を促すために消滅時効が設けられています。 -
(2)客に消滅時効を援用されると売掛金を回収できなくなる
売掛金の消滅時効期間が経過した後、客に消滅時効を援用された場合、ホストは売掛金を回収できなくなってしまいます。
数十万円~数百万円に及ぶ売掛金を回収できなくなってしまっては、ホストにとって非常に大きな痛手でしょう。
そのため、消滅時効期間が経過する前に、早い段階で売掛金の回収を試みましょう。 -
(3)ホストクラブの売掛金の消滅時効期間
ホストクラブの売掛金の消滅時効期間は、売掛金が発生した時期によって、以下のとおり異なります。
2020年3月31日以前に発生した売掛金 発生から1年 2020年4月1日以降に発生した売掛金 発生から5年
すぐに経過してしまうような期間ではありませんが、信頼関係を理由に長期間未回収のままとしている売掛金がある場合には、早めに支払いを求めるようにしましょう。
3、要注意! 違法な売掛金の回収方法
売掛金を回収するという目的があるとしても、どんな手段を用いてもよいわけではありません。
たとえば、以下の手段を用いて売掛金を回収することは違法ですので、絶対に行わないようにしましょう。
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(1)窃盗・恐喝・強盗・住居侵入などの犯罪行為による回収
窃盗・恐喝・強盗・住居侵入など、刑法上の犯罪に該当する行為によって売掛金を回収しようとすると、逮捕・起訴されて刑事罰を科されるおそれがあります。
① 窃盗(刑法第235条)
売掛金を滞納した客のお金を盗む行為などは、窃盗罪に当たります。
窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
② 恐喝(刑法第249条第1項)
売掛金を滞納した客に対して、暴行・脅迫を用いて支払いを求める行為は恐喝罪に当たります。
恐喝罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
③ 強盗(刑法第236条第1項)
売掛金を滞納した客に対して、暴行・脅迫を用いて反抗を抑圧し、強引にお金を奪う行為は強盗罪に当たります。
強盗罪の法定刑は「5年以上の有期懲役」です。
④ 住居侵入・不退去(刑法第130条)
売掛金を滞納した客の住居に無断で侵入する行為は、住居侵入罪に当たります。
また、客の住居から退去を求められたにもかかわらず、退去せずに居座る行為は不退去罪に当たります。
住居侵入罪・不退去罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。 -
(2)無資格の回収業者を用いた回収
客から支払いを拒否されている売掛金の回収を委託する場合、委託先は弁護士または認定司法書士に限られます(認定司法書士への委託は、債権額が140万円以下の場合に限ります)。
弁護士・認定司法書士のいずれの資格も有しない者による債権回収や、認定司法書士による140万円超の債権回収は、弁護士法第72条に違反する「非弁行為」です。
売掛金の回収については、違法業者による非弁行為に加担せず、法律事務所に所属する本物の弁護士に依頼してください。 -
(3)反社会的勢力に依頼して行う回収
前述のとおり、無資格者による債権回収は違法です。
暴力団員などの反社会的勢力に売掛金の回収を依頼することは、特に悪質であるため、絶対に行わないでください。
反社会的勢力は、女性に対する暴行・脅迫や違法性風俗店へのあっせんなど、悪質な手段を用いて債権回収を行う場合が多々あります。
依頼したホストも、違法行為・犯罪行為に加担したことから、重大な刑罰が科される恐れがあります。
したがって、反社会的勢力に売掛金の回収を依頼することは厳に控えてください。
4、ホストクラブの売掛金を回収するための法的手続き
ホストが客から売掛金を回収したい場合には、以下のような法的手続きを利用することができます。
弁護士であれば、法的手続きに関する対応を全面的に代行することができます。
売掛金の回収にお困りの方は、ぜひ、弁護士への依頼を検討してください。
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(1)支払督促
「支払督促」は、裁判所が債務者に対して、債務の支払いを督促する手続きです。
簡単な書類審査のみで、迅速に督促を発してもらえます。
売掛金の支払督促を受けた客が、2週間以内に異議を申し立てなかった場合、ホストは仮執行宣言付支払督促を申し立てることができます。
仮執行宣言付支払督促が発せられると、強制執行を申し立てることが可能になります。 -
(2)訴訟
支払督促(または仮執行宣言付支払督促)に対して、債務者の異議申し立てがあった場合、自動的に訴訟手続きへと移行します。
また、債権者は、支払督促の申し立てを飛ばして訴訟を提起することもできます。
訴訟では、ホストが売掛金債権の存在を立証する必要があります。
ホストの主張が認められれば、裁判所は、客に対して売掛金の支払いを命ずる判決を言い渡します。
訴訟の判決が確定すれば、ホストは強制執行を申し立てることが可能になるのです。 -
(3)強制執行
仮執行宣言付支払督促や訴訟の確定判決を得た後には、裁判所に対して強制執行を申し立てることができます。
強制執行を申し立てれば、預貯金・給与債権・不動産など、客のさまざまな財産について差し押さえが行われた後に、換価や処分などを経て、売掛金の支払いに充当されます。
弁護士は、支払督促・訴訟から強制執行に至るまで、売掛金回収に必要な手続きを全面的にサポートすることができます。
売掛金の未回収にお悩みのホストの方は、お早めに、弁護士までご相談ください。
5、まとめ
ホストが客から売掛金の支払いを拒否されたとしても、法的な手段を用いて売掛金を回収できる可能性があります。
ただし、売掛金などの債務には消滅時効が存在します。
したがって、早い段階から弁護士に依頼して、時効が完成する前に回収することを目指しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、客に対する内容証明郵便の送付や、支払督促・訴訟・強制執行などの法的手続きなど、状況に合わせた適切な手続きを提案しながら、売掛金の回収をサポートいたします。
売掛金を回収できずにお悩みのホストの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています