念書の法的効力とは? 弁護士が教える契約書、覚書、合意書との違い

2021年08月30日
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念書の法的効力とは? 弁護士が教える契約書、覚書、合意書との違い

念書という形で何らかの書面に署名捺印を求められるシーンを、テレビや映画などで見かけることがあります。しかし、実際に法的効力はあるのか疑問に感じている方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、念書の効力や他に利用すべき書類について、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、念書とは何か

念書とは、ある出来事に関わる当事者のうち一方が、もう一方に対して約束したい内容を記載して、署名押印をした上で差し入れる文書のことです。

念書を作成する目的は、約束の内容や金額、返済期日などを明記しておくことで、事実関係や当事者間の認識を明確化することにあります。一方の署名や捺印があればよいため、金銭問題や離婚・男女問題など、特に個人間でよく利用されています。

2、契約書、覚書、誓約書との違い

念書と同じような書面に、契約書や覚書、誓約書があります。これらの違いは、その名称よりも書面に書かれた情報によって判断されることが多いといえます。以下、それぞれの違いについて解説します。

  1. (1)契約書とは

    契約書とは、契約をする当事者間で交わされる文書で、契約やその予約の成立、更改(合意により、従前の債務を新しい別の債務に切り替えること)、内容の変更や補充などの事実を証明するために作成されます。

    勘違いをしている方も少なくないかもしれませんが、契約書がなくとも、口約束のみで契約は有効に成立しています。しかし、それだけでは事後的に何か問題になったときに、内容の確認や裁判所での主張立証が難しいことから、契約書という書面を作成しているのです。そのようなこともあり、法人同士の契約では基本的に契約書が作成されますが、もちろん、個人間で作成されることも多い書面です。契約書は双方で署名捺印をし、2部作成して双方1部ずつ保管するのが通例です

  2. (2)覚書とは

    契約書を補完する役割で作成されるのが、覚書です。覚書は、契約書を作成する前段階で合意した契約内容を書面にする際や、契約書の作成後に合意した契約内容や契約の変更内容などを追加するときに取り交わされます。

    契約書は複数枚に渡る書面になることが多いですが、覚書はA4用紙1?2枚で収まることもあるので、契約書よりも効力が薄いように感じるかもしれません。しかし、覚書も、双方の合致した意思表示を書面にしたものであり、契約書と同等の法的効力を持っています。覚書も契約書同様、双方の署名捺印をして2部作成し、双方で1部ずつ保管するようにします。

  3. (3)誓約書とは

    誓約書とは、冒頭で説明した念書と同じものであると考えていただいて差し支えありません
    もっとも、念書は、金銭の借入れの場面などで出てくることが多い一方、誓約書は、単に決意の表明をする際に用いられることが多いイメージかもしれません。

    実際の事例としては、会社側が守ってほしい内容を記載した誓約書を労働者側に差し入れる、夫の浮気を防止したい妻が、夫が約束を破ったときに備え、慰謝料を支払うことなどを記載した誓約書を夫に渡す、といったことが挙げられます。

3、念書が必要なケースとは?

念書が活用されるケースは、誓約書と同様「念書で約束をすることで、合意内容が問題なく履行される可能性を高めたいとき」です。たとえば、友人の友人にお金を貸すときや、不倫の慰謝料などの支払額に合意した場合、合意に併せて念書を書いてもらえば、「念書を書いて返済を約束した」という証拠を残すことができます。また、支払義務を負った側も書面にサインをすることで意識が高まることでしょう。

他には、売掛金がある企業に対して、その債務があることを承認する旨の念書を債務者に書いてもらうことで、時効を止め、さらに時効のカウントを1からスタートさせる効果もあります。借金には時効があり、これまで個人から借りたお金の時効は、返済期日から10年でした。しかし民法の改正により、令和2年4月1日以降に成立した契約からは、その時効が10年もしくは、権利を行使することができることを知った時から5年に短縮されることとなりました。

もし返済期日を過ぎても相手から返済されず、時効が過ぎてしまいそうになったとしても、借り手に相手に借りた事実を認識させれば時効はリセットされ、また新たにカウントがスタートします。この時効リセットの手段として、念書が利用されることもあります。

4、念書の法的効力とは?

念書は、当事者の一方の意思表示を書面にしたものであり、場合によっては、相手が望んでいないのにもかかわらず、勝手に作成してしまうこともできるので、当事者の合意という意味合いが弱く、契約書や覚書のような「確実な法的効力」があるとはいえません。しかし、念書に記されている内容に妥当性が認められれば、誓約書と同様に法的な効力を持ちます。よって念書を作成しておけば、その合意をしたことの証拠として裁判などで利用することが可能です。

そもそも、多くの契約は、当事者同士の意思表示が合致すれば契約は成立したとみなされます。たとえば他人からお金を借りることは民法上で「消費貸借契約」といいますが、この消費貸借契約には書面の作成が義務づけられていないため、お金を貸し借りした時点で契約は成立しているといえるのです。

念書を作成することの法的な意義をあえて表現するのであれば、消費貸借の事実があることや、返済額や返済期日などの取り決めの内容を明らかにすることで、今後トラブルになったときに契約関係を補完する効果があるといえるでしょう。

5、念書の作成方法と記載事項

念書を作成する際には、以下のような内容を記載します。

  • 表題(タイトル):「念書」「誓約書」「借用書」など
  • 前文:「私は、以下の内容を遵守・履行することを約束いたします。」など
  • 本文:貸与した金額、返済期日、利子の割合など、約束した事項を記載
  • 契約書作成日
  • 当事者の表示:貸与された側の住所、氏名を記載し、押印する


タイトルと前文のみなど、日付や署名捺印が漏れている場合には、念書として十分な効力が発揮できません。必ず記載があるか確認してください。また、「契約書」「合意書」などと記載されている文書でも、一方の署名・捺印しかなければ双方の合意とはいえず、念書とみなされます。

6、実効性を得るなら契約書作成・公正証書の作成を

上記のとおり、念書にはお金を貸したという事実確認や、「返済しなければならない」という意識をかき立てる効果はありますが、より実効性のある書面としたいのであれば、契約書を締結する方が安心です。

  1. (1)契約書に盛り込む内容

    お金の貸し借りの際に取り交わす契約書を金銭消費貸借契約書といいます。金銭消費貸借契約書には以下のような内容を盛り込んでおきましょう。

    • 表題(タイトル):「契約書」「金銭消費貸借契約書」など
    • 前文:「〇〇(以下「甲」という)と〇〇(以下「乙」という)は、次のとおり契約を締結する。」など、前提に当たる文章を記載
    • 本文:貸与した金額、返済期日、利子の割合などの契約内容を、第1条、第2条などと条文ごとに記載
    • 末文:「本契約成立の証として本書2通を作成、甲乙が記名押印の上、各1通を保有する。」などと記載
    • 契約書作成日
    • 当事者の表示:双方の住所、氏名を記載し、押印する


    金銭消費貸借契約書も念書同様、誰でも作成することができますしかし、念書よりも記載内容が多いため、法的に有効であり、トラブルになってしまった場合に迅速な解決につながるような文章を書けるかどうか不安が残る場合は、弁護士に依頼して契約書を作成するのがベストでしょう

    弁護士に依頼する際には、あらかじめ書面を作成したものを弁護士に確認してもらう方法と、書面作成を1から弁護士に依頼する方法があります。どちらを選択するかで、作成にかかる時間や弁護士に支払う報酬も変わってきます。

  2. (2)支払いがされないなどの事態に備えるなら公正証書作成が有効

    もし契約書や念書を作成しても、書面を紛失してしまうと貸与の事実確認ができなくなります。契約書なら自分が保管しておけばよいですが、人災や自然災害などで紛失するリスクはゼロではありません。金銭消費貸借契約書を紛失したとしても、契約自体や有効ではありますが、返済の期日や金額等にずれが生じると水掛け論になってしまいます。

    また、契約書を作成しても、それは契約を交わしたという証拠となる書面にすぎません。たとえば、約束の期日に支払われなかったとき、すぐに銀行口座の差押えなどの強制執行を行えるわけではないのです。

    紛失リスクを防ぎ、同時に、支払いをされないときにすぐに強制執行できるようにしておくためには、公正証書作成が有効です。公正証書とは、公証役場で作成される証書のことで、お金を貸す側と借りる側が共に公正役場に出向き、公証人の面前で公正証書を作成します。

    公正証書を作成する際には、約束が履行されなければ強制執行を認める(強制執行認諾文言)という文言を付け加えることで、借金の返済が滞った際には強制執行の申立てが可能となりますこの強制執行認諾文言付公正証書がなければ、一旦は訴訟などを提起し、「債権名義」を取得しなければ裁判所を通じた差押えなどの手続きはできません

    公正証書を作成する場合は、法的に有効な形にするだけでなく相手の勤務先や預貯金口座を把握しておくことなども現実的に求められますので、弁護士に相談してすすめることをおすすめします。

7、まとめ

お金を貸す場合に念書を作成しておくと、貸したという事実を明確にする証拠になるだけでなく、相手側に返済を促す効果も期待できます。念書よりも十分な法的効力を求めるなら、契約書を作成したり、公正証書にしたりするといいでしょう。そもそも、書面にすることを相手が嫌がる場合、お金を貸すなどの契約を行うべき相手なのかどうかを再検討したほうがよいといえます。

念書や契約書は誰でも作成できますが、その内容が不十分だと証拠として扱えなくなる懸念があります。念書や契約書の作成は、弁護士へ依頼するのが確実です。ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスにご相談いただければ、契約内容の相談から書類作成まで一貫して対応します。まずはお気軽にご相談ください。

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