小学校で子どもが怪我をさせられた! 加害者や学校への損害賠償請求は可能?
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北海道の中で圧倒的な人口総数を誇る札幌市には、平成30年5月時点で203校もの小学校があります。朝、元気に家をでたはずの子どもが、学校で怪我をしたと呼び出しがあったら……。もしくは、怪我をしたまま帰宅したら……。親であれば、これ以上不安を感じる出来事はないといっても過言ではないでしょう。
元気で活動的な子どもほど怪我をしやすいことは親ならば理解しているでしょう。それでも、本人に原因がない怪我であれば、怪我をさせた相手に償ってもらいたいと考えることは自然なことです。
1、損害賠償請求できるものと請求相手
損害賠償請求については、民法第709条に定められています。「不法行為」や「債務不履行」によって損害を受けた場合、金銭による賠償を求めることができます。
では、学校で子どもが怪我をしたとき、損害賠償請求を行う権利はあるのでしょうか。
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(1)子どもの怪我で請求できるもの
子どもが学校で怪我をしたときの損害賠償請求では、次のようなものが請求対象となり得ます。
- 治療費
- 通院交通費
- 診断書作成費
- 親の付き添い費
- 後遺症をもたらした場合の将来にわたる労働能力喪失分(逸失利益)
- 慰謝料(精神的損害への賠償)
なお、「子どもが怪我をさせられて親が精神的ショックを受けた」ことへの慰謝料を求めようとするケースもあるでしょう。しかし、怒りや心配で夜も眠れないようなことがあっても、慰謝料請求が認められないか、たとえ認められてもごく少額になることが多いと考えられます。
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(2)損害賠償請求できる相手は誰?
子どもが小学校で怪我をさせられた場合、損害賠償請求できる相手として、次の選択肢が考えられます。
- 加害者の子ども
- 加害者の子どもの親
- 小学校
- 小学校の教師
次項より、損害賠償請求の相手方ごとに損害賠償請求できるかどうかを確認していきましょう。
2、加害者の子どもへの損害賠償請求
まずは、加害者の子どもの行為における「違法性」によって、そもそも損害賠償請求できるかどうかが変わります。
損害賠償請求で問題になる違法性とは、刑事事件における犯罪類型のように明文化されたものではありません。侵害された利益の重要性や損害の程度など、さまざまな要素から総合的に判断されます。
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(1)加害者の子どもの行為に違法性があるのか
ここでひとつ判例を見てみましょう。小学生の子ども同士が鬼ごっこをしており、被害者が加害者を背負おうとした際に転倒、骨折した事件がありました。しかし、同事件では、鬼ごっこは一般的に容認される遊びとして違法性がないとされ、損害賠償請求が認められませんでした(最高裁判所 昭和37年2月27日判決)。
つまり、通常予測できる遊び方をしている最中に起きた損害であれば、子どもの行為に違法性は認められず、損害賠償請求もできないおそれがあるわけです。反対に、ルールから逸脱した危険な遊び方をしていた場合には違法性が認められる可能性もあります。 -
(2)子どもの責任能力を問えるのか
民事上の責任能力については、民法第712条によって規定されていますが、明確な年齢が定義されているわけではありません。
ただし、裁判の傾向を見る限りでは、子どもが12歳くらいまで(小学校卒業まで)は責任能力がないと判断されています。加害者の子どもが小学生であれば、子ども本人への損害賠償請求はできないことが多いでしょう。
仮に認められたとしても、子ども自身に資力はないことがほとんどです。したがって、いずれにしても子ども本人への損害賠償請求は難しいと考えておいたほうがよいでしょう。
3、加害者の子どもの親に対する損害賠償請求
子どもに責任能力がなかった場合、被害者は泣き寝入りするのかといえばそうではありません。民法第714条を根拠に、親権者に責任を負ってもらうことになります。これを、「監督義務者の責任」といいます。
今回のように小学生の子どもが加害者の場合は、親に対して損害賠償請求できると考えられます。ただし、小さな子どもが何をしても親の責任になるわけではありません。どのような場合に親の責任が問われるのかについては非常に難しい問題ですが、子どもの行為や親の監督範囲などによって、個別に判断されます。
ここでは、親の監督責任が争点になった2つの裁判例を紹介します。しかし、個々の事件によって争点などが異なります。まずは弁護士に相談して進めたほうがよいでしょう。
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(1)子どもが運転する自転車にはねられ寝たきりに
小学生の子どもが運転する自転車と衝突した女性が、事故の後遺症で何年にもわたって寝たきりになった事件です。神戸地裁は平成25年7月4日、子どもは坂道を時速20~30キロの速度で下っており、ヘルメットを未着用だったことから、親の監督責任が果たされていないとみなし、損害賠償請求が認める判決を下しています。後日、母親側は控訴していますが、裁判によって親の責任を問えることがある一例です。
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(2)子どもが蹴ったサッカーボールで転倒
小学生の子どもが蹴ったサッカーボールが道路に飛び出し、それをよけようとした男性が転倒し、後に死亡した事件です。二審では親の監督義務責任を認め賠償責任を命じる判決が出ていましたが、平成27年4月9日最高裁判所は、親は監督義務責任を果たしたとして賠償責任が認めない判決を下しています。
以下、賠償責任が認められなかった主な理由です。- 事件のとき子どもは親の直接監視下になかった
- 親は日頃から一般的なしつけを行っていた
- 「サッカーゴールがあるグラウンドでボールを蹴る」という、通常は人の身に危険が及ぶとはみなされない行為でたまたま損害を与えてしまった
この判例がでるまでは、子どもの行為に対して親の監督責任はほぼ免れないとされてきただけに、画期的な判例として世間を騒がせました。
4、小学校、教師への損害賠償請求
子どもを預かった小学校や教師にも、子どもを監督する義務があります。これを「監督者代行責任」と呼び、子どもが生じさせた損害に対して法的責任を負うことがあります。たとえば小学校の責任が認められる場合、公立であれば設置主である国または公共団体が責任を負います。
ただし、小学校や教師の責任は、親と比較すると範囲が限定されています。学校教育の場における教育活動や、これと密接に関係する生活活動にのみ責任を負う可能性があるのです。たとえば、休憩中に友だち同士で遊んでいたのであれば、通常の授業中ではありません。したがって、小学校や教師の責任が追及できない結果になることも考えられます。
一方で、次のようなケースで、学校や教師が何の対策を講じていなかったのであれば、学校や教師への損害賠償請求が認められる可能性もあります。
- 加害者の子どもが日頃から粗暴であることを学校や教師が認識していた
- 被害者の子どもがいじめられており、学校や教師がその事実を把握できる状況にあった
なお、事故の原因が、学校設備の不具合であれば、「工作物責任」として小学校は損害賠償責任を負うことがあるでしょう。
5、損害賠償請求する場合の手続きについて
まずは怪我をした子どもの治療を進めるとともに、子どもの記憶が鮮明なうちに事件の様子について聞いておき、しっかりと文書などにまとめておくようにしましょう。治療費などの実費も後で請求できるように、領収書や通院交通費の記録などを残しておくことも必要です。
損害賠償請求する場合の手続きは、損害を算定したうえで、相手方との示談交渉、調停、裁判が選択肢となります。加害者の子どもの親が示談交渉に応じてくれればスムーズですが、どうしても自分の子どもを守ろうとするのが親ですから、そううまくいくとは限りません。
特に学校内での事件・事故は、対応が難しい面があります。適切な額の損害賠償請求を行い、怪我をさせられた子どもを守るためにも、できるだけ早期に弁護士を頼るほうがよいでしょう。
6、単独事故で加害者がいない場合の治療費はどうする?
単独事故の場合、独立行政法人 日本スポーツ振興センターが実施する災害共済給付制度を利用することがひとつの方法です。
国と学校設置者、保護者が掛け金を負担することで、学校の管理下における子どもの災害に対する給付が行われます。授業中や課外活動中、休憩時間、通学途中などの場面について、怪我だけでなく、熱中症や学校給食の食中毒なども対象になります。
詳しくは日本スポーツ振興センターのホームページなどを確認してください。
7、まとめ
学校内の事件や事故は、子ども同士のいたずらで済むものばかりではなく、子どもの将来が変わるほどの重大な事態に発展してしまうことも少なくありません。あなたの子どもが怪我をさせられたときは、治療や看護とともに加害者へ損害賠償請求することも必要になるでしょう。
しかし、個人同士、もしくは学校を相手にした交渉はこじれてしまうこともあり得ます。迅速によい結果を得るためには、やはり弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所・札幌オフィスの弁護士も尽力いたします。子どもにまつわる損害賠償請求でお困りであればご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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