上司に明日から来なくていいと言われた! 失業保険など適切な対応法
- 不当解雇・退職勧奨
- 明日から来なくていいよ
- 違法
北海道労働局における『令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況』によると、令和4年度にあった総合労働相談件数は前年度に比べて0.1%増加しました。そのうち「いじめ・嫌がらせ」を含むいわゆる民事上の個別労働紛争に係る相談が3割以上を占め、12年連続最多と公表されています。
上司や社長から突然「明日から来なくていい」「明日から来るな」と言われたとき、労働者はどのように対応すべきなのでしょうか。失業保険の扱いなども含め、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、「明日から来なくていい」がどういう意味か、まずは確認する
上司に叱られているときなどに、上司から「明日から来なくていい」という言葉が出たら、どうとらえればよいのでしょうか。この言葉には、以下の4パターンのとらえ方があります。まずはそこから確認していきましょう。
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(1)解雇だった場合
「明日から来なくていい」がクビ(解雇)を意味する場合があります。しかし、法律上、会社はどんなに経営が苦しくても、労働者の解雇はそう簡単にはできないことになっています。
解雇には、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇がありますが、懲戒解雇するにしても、就業規則にどのようなケースが懲戒解雇になるのかをあらかじめ規定していなければなりません。そのため、いきなり「解雇だ」と言われても、一般的には認められないことがほとんどだと考えられます。 -
(2)退職勧奨・退職強要だった場合
「明日から来なくていい」が退職勧奨や退職強要を意味する場合もあります。前者は会社側が労働者に退職するよう勧めることであり、後者は無理やり退職をさせようとすることです。
「明日から来なくていい!」と怒鳴りつけるなど、言い方次第では退職強要となり、会社側が違法性を問われる可能性もあるでしょう。 -
(3)自宅待機命令だった場合
小売店や飲食店で客足が極端に途絶えてしまった、ホテルや旅館で大量にキャンセルが入ったなどの場合にも「明日から来なくていい」と言われることがあります。
これは、自宅待機を命じることを意図するものです。
シフトが入っていても、お客さんが来なければ仕事にならないため、自宅待機を命じるのです。この場合は業務命令の一種であるため、次に出勤命令が出るまで自宅待機することになります。 -
(4)パワハラだった場合
上司が部下の仕事ぶりが気に入らなくて「明日から来なくていい!」と言ってしまうこともあります。これは、上司が部下を会社から追い出そうとして言ったものであり、パワハラにもなりえる発言です。
しかしこの場合、発言になんら法的意味はなく、会社との雇用関係にも影響がないため、真に受けて連絡なしに欠勤すると無断欠勤になる可能性があります。 -
(5)「明日から来なくていい」と言ったのは誰かも重要
「明日から来なくていい」と誰が言ったのかも重要です。人事上の権限のない先輩社員や主任・係長クラスに言われたのであれば、単なる叱責(しっせき)もしくはパワハラにあたるため、会社との関係に変化を生じさせるものではありません。
ただし、人事部長や執行役員、工場長など使用者として人事上の権限がある者であれば、解雇もしくは退職勧奨(退職強要)にあたる可能性があります。
なお、最近の裁判例では、平成31年に会社の人事部長から「明日から出社しなくてよい」と言われた女性従業員2名が仕事内容や雇用形態を巡って裁判となった事例がありました。会社側は退職に合意していたと主張し、従業員らは退職への合意を否定したうえで未払い分の賃金などを求めています。
一審では、「退職が合理的と認められるような事情を収集し、これに基づいて解雇を言い渡したとは到底認められないのであり、解雇の意思表示自体が認められない」として会社の主張を退け、裁判所は、会社側に対し未払いの賃金などの支払いを命じました(津地裁平31.3.28)。
しかし二審では、会社側からの解雇の意思表示があったと認定したうえで、この解雇には正当性はなく無効であると判断されています(名古屋高裁令和1.10.25)。
本裁判は最高裁へ上告されましたが、二審の判決を維持する形で棄却されました。
2、「明日から来なくていい」と言われたときの対処法
「明日から来なくていい」と言われても、泣き寝入りすることはありません。納得がいかなければ、辞めさせられないために毅然(きぜん)と対処することが必要です。
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(1)納得できないことを伝える
「明日から来なくていい」と言われたら、それが解雇もしくは退職勧奨を意図したものでなくても、納得できないことを会社側に伝えることが必要です。だまっていると会社側に「退職に合意した」と思われかねません。ひそかに退職を考えていたとしても、現時点では辞める意思はないと明確な態度を示しましょう。
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(2)「来なくていい」と言われても出勤する
「来なくていい」と言われても、その言葉に強制力はないので雇用関係に変化はありません。自宅待機を命じられたとき以外は、上司と顔を合わせづらいかもしれませんが、辞める意思がなければ1日でも出社しましょう。
もし、通常通り出勤しても上司などに追い返されるようなことがあれば、会社側が労働者の労務提供を妨害したことになるため、働けなかった日数分の賃金を会社に請求することができます。 -
(3)解雇の意味だった場合には、解雇通知書・解雇理由証明書を請求する
「明日から来なくていい」が解雇の意味だと確認できた場合には、解雇通知書や解雇理由証明書を会社に請求しましょう。ここに書かれている解雇理由が不当な場合は、不当解雇だとして訴えることも可能です。
解雇に応じる場合には、解雇予告手当もあわせて請求しましょう。解雇に応じると、突然収入が絶たれることになるため、会社側が労働者に解雇予告手当を支払わないことは労働基準法違反とされています。
このときに解雇理由証明書をあわせて請求すれば、上司などが「明日から来なくていい」と発言した意図も明らかになるでしょう。 -
(4)証拠を集めておく
会社側が合意退職にもっていこうとしている場合、解雇予告手当や解雇理由証明書を出し渋ることがあります。解雇予告手当や解雇理由証明書をもらえない場合は、証拠を集めたうえで内容証明郵便などを使ってあらためて請求しましょう。
その際、解雇を示す証拠を提出することが重要です。たとえば、クビだと言われたときの録音記録や文書、メール、就業規則などが証拠になります。また、残業代が一部未払いになっている場合はタイムカードなどもあわせて提出します。 -
(5)弁護士に相談する
会社側の「明日から来なくていい」に納得できないときは、弁護士に相談するとよいでしょう。会社を辞める・辞めないにかかわらず、弁護士に相談すれば、辞めたいとき・辞めたくないときそれぞれの対応方法についてアドバイスをもらえます。
労働基準監督署や労働組合に相談する方法もありますが、前者の場合は会社がよほど違法状態になければ、あくまでも相談の受付にとどまることが多いのが実情です。後者も、労働組合を持たない企業は多いので、そのときは地域にある労働組合に別途加入することもできますが、解雇を撤回するときには団体交渉を申し入れることが必要です。その点、弁護士であれば小回りがきくので、委任契約を結べばすみやかに問題解決に着手してもらえるでしょう。
3、解雇だったらどうなるか
「明日から来なくていい」が解雇の意味だったときは、どうすればよいのでしょうか。このような場合でも、一部の例外をのぞいて即日解雇はほぼ認められません。労働者を解雇するには、原則として解雇予告手続きが必要だからです。
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(1)解雇とは
解雇とは、会社が一方的に労働契約を終了させることです。解雇には、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の3つがありますが、いずれの方法でもそう簡単に従業員を解雇はできません。たとえば、従業員が何か問題を起こしたので辞めさせたいという場合も、就業規則に懲戒解雇にする理由を書いていなければ、懲戒解雇することはできないのです。
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(2)会社側が解雇権を濫用していないか
従業員を解雇するには、客観的に見て合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められなければなりません。
簡単に言うと、普通解雇の場合は、世間一般の方が「この人はクビになっても仕方がない」と思えるほどの理由がなければなりませんし、整理解雇の場合は、人員削減が必要であった理由がなければ解雇してはならないのです。
これらの理由がなければ不当解雇であり、会社側が解雇権を濫用したとみなされる可能性が高くなります。 -
(3)解雇予告手続きが必要
会社側がやむをえず従業員を解雇するには、解雇予告の手続きが必要です。法律上、会社側は労働者に退職日の30日以上前に予告(解雇予告)をしなければなりません。
もし即日解雇するのであれば、会社側は労働者に平均賃金の30日分以上に相当する解雇予告手当を支払うことが必要です。この解雇予告手続きが行われなければ雇用関係は続くので、翌日以降も出勤して問題ないと言えるでしょう。 -
(4)例外的に解雇予告手当を支払わなくてよい場合
しかし、以下のように例外的に解雇予告手当を支払わなくてよい場合が労働基準法に規定されています。
- 天災事変その他やむをえない事由により事業が継続できなくなった場合で労基署の認定を受けたとき
- 労働者の責めに帰すべき事由(労働者の言動に重大な問題があったなど)に基づいて解雇する場合で労基署の認定を受けたとき
- 短期契約の労働者を雇い止めするとき
4、退職勧奨だったらどうなるか
「明日から来なくていい」が退職勧奨の意図で言われたときは、慎重に対応しなければなりません。この言葉を真に受けて出勤しなくなれば、そのまま退職扱いになってしまうこともありえるからです。
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(1)退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社側が従業員に自主退職をすすめることです。会社側は原則として、「仕事ができない」「勤務態度が悪い」などの理由で従業員を解雇することはできません。そこで、合法的に従業員を辞めさせようと退職勧奨をしてくるのです。
しかし、あくまで退職をすすめているだけなので、退職勧奨に法的拘束力はなく、従わなければならない理由はありません。 -
(2)安易に合意しない
退職勧奨には強制力がないため、労働者が退職を拒否してそのまま出勤し続けても問題ありません。ただ、「明日から来なくていい」が退職勧奨の意味だった場合、「わかりました」と言ってしまったり、そのまま出社しなくなってしまったりすると、退職への合意が成立したとみなされる可能性があります。
この会社で仕事を続けていきたいのであれば、「明日から来なくていい」と言われても安易に合意しないことがとても大切です。 -
(3)自己都合退職にされるおそれ
うっかり「わかりました」と合意してしまうと、退職勧奨に合意したとされ自己都合退職の扱いにされてしまう可能性が非常に大きくなります。
自己都合退職にされると、退職金が減額されたり、支払われなくなったりする可能性もあります。また、失業保険給付を受ける際にも、会社都合退職であれば退職後すぐに支払われますが、自己都合退職であれば退職して約3か月経たなければ受けられません。
このように、退職金や失業保険給付に違いが出るため、そういう意味でも「明日から来なくていい」と言われたときには慎重に対応することが必要です。
5、まとめ
「明日から来なくていい」と、会社や上司から言われてしまったら、どのような意図があるのか悩む方も多いでしょう。失業したら生活に支障が出ることは間違いないのに、翌日以降出社してよいかどうか迷う方もいらっしゃるかもしれません。
そのような場合は、早々に退職届などにサインをせず、まずはその場をいったん離れましょう。
そのうえで、退職届などを提出する前にベリーベスト法律事務所 札幌オフィスでご相談ください。弁護士が対処方法についてアドバイスをしたり、依頼者のご希望にあわせて会社側と交渉したりすることができます。ひとりで悩まず、お気軽にご相談ください。
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