転勤の要請を拒否したら解雇を言い渡された! 違法なケースと対応法
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札幌市を管轄する北海道労働局が公表したプレスリリースによると、令和4年度に行われた北海道労働局長による助言・指導申出件数は、249件でした。そのうち解雇関連で行われた助言や指導は17件、退職勧奨が17件、そして11件が出向・配置転換に関するものだったと報告されています。
全国各地に支店や支社を有する企業では、定期的に従業員の人事異動が行われています。しかし、会社から転勤を命じられた方のなかには、諸理由で転勤命令を拒否したいと考えている方もいるでしょう。会社からの転勤命令を拒否することは可能なのでしょうか。また、転勤命令を拒否したことを理由に解雇された場合には不当解雇にはならないのでしょうか。
本コラムでは、転勤命令を拒否することができるのか、転勤命令の拒否を理由とする解雇は適法なのかについてベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、転勤を拒否することは契約違反?
会社から転勤を命じられた場合に、それを拒否することはできるのでしょうか。
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(1)転勤命令は原則として拒否することができない
転勤を命じられた従業員は、正当な理由がない限り、転勤命令を拒否することはできません。
結婚や育児という個人的な家庭の事情だけでは、原則として転勤命令を拒否する正当な理由とはなりません。
そもそも転勤とは、従業員の配置変更のうち勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものをいいます。複数の支店や支社を有する企業では、各支店・支社を数年ごとに転勤して経験を積み、職位を上げていくことが予定されているといえます。
多くの企業では、就業規則に「会社は、業務上の必要性により、従業員に対して配置転換または転勤を命じることがある」といった記載がありますので、会社は、このような規定を根拠として従業員に対して転勤を命じることができます。 -
(2)例外的に転勤命令を拒否することができるケース
就業規則に会社が転勤命令をすることができる旨の規定があったとしても、以下のような場合には、従業員は会社からの転勤命令を拒否することができます。
① 勤務地限定の合意がある場合
会社と従業員との間に、勤務地を限定する旨の合意があった場合には、就業規則の規定よりも個別の合意が優先されます。そのため、勤務地限定の合意がある場合には、従業員の合意がない限り転勤を命じることはできません。
勤務地限定の合意の有無については、労働契約上明示されている場合のほか、使用者の規模、事業内容、採用状況、それまでの転勤実績や従業員の職種、従事する業務の内容、業務に従事してきた期間、転勤命令の目的など諸般の事情を総合考慮して黙示の合意が認められることもあります。ここで登場する「使用者」とは、会社などの雇用主のことです。
なお、入社時の労働契約書や辞令に勤務地が記載されていることがあります。しかし、それについては雇い入れ直後の勤務地を明示したものに過ぎず、勤務地を当該地域に限定する合意であったとまでは認められません。
② 権利の濫用にあたる場合
勤務地限定の合意がなく、転勤を命じることができる場合であったとしても、使用者は無制限に転勤を命じることができるわけではありません。
転勤は、従業員の生活に大きな影響を及ぼすため、転勤命令が権利の濫用にあたる場合には転勤命令は無効となり、転勤命令を拒否することができます。
転勤命令が権利の濫用にあたるかどうかについては、以下のような基準によって判断します。- 業務上の必要性の有無
- 不当な動機・目的の有無
- 従業員に与える不利益の程度
・退職させることが目的の転勤命令
従業員を自己都合退職に追い込むためになされた場合は、不当な動機・目的による転勤命令となるため、転勤命令権の権利濫用となる可能性があります。
退職を強要する目的の他にも、反労働組合的な目的、報復的な目的などがある場合には、転勤命令は無効となる可能性があるでしょう。
・自身に病気があったり、介護が必要な家族がいる従業員への転勤命令
従業員が通常我慢すべき程度を著しく超える不利益がある場合にも、転勤命令は無効となる可能性があります。
従業員個人に持病があり、特定の病院に継続して通院しなければならない場合や、介護が必要な家族がいて転勤によって誰もその家族の面倒をみる人がいなくなってしまう場合には、転勤命令は権利濫用と判断される可能性があります。
2、転勤拒否を理由にした解雇は適法?
会社の転勤命令を拒否したことを理由に解雇された場合、不当解雇とはならないのでしょうか。
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(1)有効な転勤命令の拒否は解雇事由となり得る
就業規則などに転勤命令を行う根拠があり、勤務地限定の合意がなく、権利の濫用にもあたらない場合には、会社は従業員に対して有効に転勤を命じることができます。このような有効な転勤命令を拒否することは、正当な理由なく会社の業務命令に背く行為になるため、会社は従業員を解雇できる可能性が高いです。
ただし、転勤命令に従わないことを理由として直ちに解雇された場合には、不当解雇として争うことができる可能性もあります。解雇をするにあたっては、労働契約法15条および16条の要件を満たす必要があり、解雇はあくまでも最終的な手段として位置づけられているためです。
したがって、会社は転勤を拒否する従業員に対して、転勤に応じてもらえるように必要かつ相当な説得を行うことが必要となります。つまり、必要かつ相当な説得などの対応を尽くしていない状態での解雇は、不当解雇と判断される可能性があるのです。 -
(2)無効な転勤命令であれば解雇も無効となる
勤務地限定の合意がある場合や転勤命令が権利の濫用と認められる場合には、無効な転勤命令となるため、それに基づく解雇も当然に無効となります。
権利の濫用の判断にあたっては、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益であるかが判断されます。
一般的には、単身赴任や通勤の長時間化といった事情については、労働者が通常甘受すべき範囲内の不利益であると判断される傾向にあります。
他方で、労働者の病気や家族の病気・介護といった事情がある場合には、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益と判断される傾向にあります。
そのため、このような事情がある場合には、会社から解雇をされたとしても不当解雇であるとして争うことができる余地があります。
お問い合わせください。
3、雇用者から解雇を言い渡されたらすべきこと
雇用者から転勤拒否を理由に解雇を言い渡されたとしても、その処分に納得ができない場合には、以下のような対応をとりましょう。
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(1)退職届や退職合意書にサインをしない
会社は、転勤命令に従わない労働者に対して、「転勤命令に従わないなら辞めてもらいたい」、「退職に合意をしないなら、懲戒解雇になる」などと言い、退職を求めてくることがあります。
会社が解雇ではなく退職という方法を選択する理由には、厳格な解雇の法規制を回避しようとする意図があることを知っておきましょう。なぜなら、退職であればお互いの合意に基づくものであるため、後日争うことは難しくなりますが、解雇の場合には、使用者の一方的な処分であるため、解雇の要件を満たさなければ不当解雇として争われてしまうからです。
そのため、転勤命令や解雇を争う予定である場合には、会社から退職届の提出や退職合意書へのサインを求められたとしても、絶対に応じてはいけません。 -
(2)解雇理由証明書を請求する
会社から解雇された場合には、必ず解雇理由証明書を請求するようにしましょう。
解雇理由証明書は、会社が解雇をした理由が記載された書面です。解雇理由証明書を取得することによって、どのような理由で会社が労働者を解雇したのかを明らかにすることができます。
不当解雇を争うケースにおいて、解雇理由証明書は、解雇理由を知り対応を考えるうえで非常に重要な書類のひとつです。解雇理由証明書は、労働者からの請求がなければ交付されないため、解雇を言い渡された場合には忘れずに請求しましょう。 -
(3)弁護士に相談をする
会社から解雇された理由に納得がいかない場合には、不当解雇の可能性を検討しましょう。もっとも、不当解雇であるかどうかを法律の知識のない方が正確に判断することは非常に難しいため、まずは弁護士に相談をしましょう。
弁護士であれば、不当解雇にあたるかどうかを判断できます。さらに、不当解雇にあたる事案については、労働者の代理人として会社と交渉をしてくれます。
4、弁護士に相談したほうがよいケース
以下のような場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)転勤を拒否することができる正当な理由がある場合
会社から転勤を命じられたとしても、さまざまな理由から転勤を拒否したいと考える方もいます。また、採用時に家庭の事情から転勤が難しい旨を伝えていた方もいるでしょう。
転勤命令は、業務命令にあたるため基本的には拒否することはできませんが、正当な理由がある場合には、転勤命令を拒否したとしても業務命令違反にはあたりません。
ただし、どのような理由があれば転勤命令を拒否することができるかについては、法的知識がなければ正確に判断することができないケースがほとんどです。曖昧な知識で転勤命令を拒否してしまうと、最悪のケースでは懲戒解雇となってしまう可能性もあります。
そのため、転勤を拒否することができるかどうかお悩みの方は、まずは弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。 -
(2)転勤命令の拒否を理由に解雇をされてしまった場合
転勤命令が無効である場合には、それを拒否したことを理由としてなされた解雇についても無効になります。また、転勤命令が有効であったとしても、解雇に至るまでの手続きが不十分であった場合には不当解雇として無効になる可能性があります。
転勤命令の拒否を理由に解雇された場合には、その経緯や内容によっては不当解雇として争えるケースがあります。不当解雇を争う場合には、労働者個人の力では難しいため、専門家である弁護士のサポートを受けることが必要となります。
できるだけ早いタイミングで手を打った方が、解決に向けてとれる対応方法が多いため、解雇をされたものの納得ができないという場合には、早めに弁護士に相談をしてください。
5、まとめ
会社から転勤命令を受けた場合には、原則としてそれを拒否することはできず、拒否した場合には、解雇などの不利益な処分を受ける可能性があります。しかし、転勤を拒否することができる正当な理由がある場合には、例外的に転勤命令を拒否することができます。
転勤命令を拒否したい場合や転勤命令の拒否を理由に解雇処分を受けた場合は、状況によってはその命令や処分を争うことができる可能性があります。
まずは、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスにご相談ください。親身になってあなたにとってよりよい解決方法を提案します。
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