会社に誓約書を書かされたときの対処法|誓約書が違法となるケース
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会社を退職する際には、会社から誓約書へのサインを求められることがあります。
誓約書の内容は「業務上の秘密を外部に漏えいしない」といった合理的なものである場合もありますが、「未払いの残業代を放棄する」「競業他社への転職を禁止する」など、会社側が労働者に対して不合理な内容が含まれていることもあります。
本コラムでは、退職の際に会社に誓約書を書かされたときの対処法について、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、誓約書を強要されたときの対処法
まず、誓約書の作成を強要された場合の対処法を解説します。
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(1)誓約書へのサインを拒否する
入社時、在職中、退職時などさまざまな場面で誓約書へのサインを求められることがあります。
しかし、誓約書の作成は義務ではありません。
もし会社から「誓約書の作成は義務である」といった説明をされたとしても、それに応じる必要はないのです。
したがって、誓約書の内容をしっかり確認して、もし不合理な内容が含まれている場合には、サインは拒否するようにしましょう。 -
(2)誓約書を撤回する
誓約書へのサインを強要されてしまった場合には、内容が不合理なものであったとしても、断ることができずにサインをしてしまうことがあるでしょう。
誓約書にサインをしてしまうと、基本的には、法的効力が生じてしまうことになり、誓約書を撤回することも難しくなります。
しかし、誓約書が労働者の自由意思によって作成されたものでない場合には、詐欺や強迫を理由として誓約書を取り消すことも可能です。
誓約書を撤回する場合には、「誓約書にサインする経緯に問題があった」という事実や「詐欺・脅迫を理由として誓約書を取り消す」という趣旨を記載した書面を作成して、会社宛てに送付しましょう。
その際には、後日、裁判になったときに証拠と使えるようにするためにも、配達証明付きの内容証明郵便を利用してください。 -
(3)誓約書の効力を争う
誓約書の撤回をしても会社が撤回に応じてくれない場合には、裁判を起こして、裁判所に誓約書の有効性を判断してもらうことになります。
たとえば、退職時に「未払いの残業代があっても放棄する」との誓約書にサインをしてしまった場合には、未払いの残業代請求を求める訴訟において、誓約書の有効性を判断していくことになります。
誓約書に労働者のサインがあると、「労働者の意思に基づく誓約書」であるということが推認されてしまいます。
したがって、誓約書の効力を否定するためには、労働者の側で、誓約書の問題点を主張・立証していかなければなりません。
また、誓約書の効力を争ううえでは、誓約書を作成する際の状況が重要になります。
たとえば、強要されたことを立証できる録音、メールのやり取り、メモなどがあれば、強要の事実を立証するうえで有力な証拠となるでしょう。
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2、誓約書とは?労使間の誓約書には法的効力がある?
労使間で交わされる誓約書の効力について、概要を解説します。
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(1)誓約書とは
誓約書とは、書面に記載されている事項を遵守することを約束した書面になります。
労働者は、会社に対してさまざまな場面で誓約書を提出することがあります。
たとえば、入社時に「就業規則を遵守して、企業秘密を外部に漏えいしない」といった内容の誓約書にサインをすることが一般的です。
また、退職時にも、貸与品の返還や退職後の秘密保持、競業避止義務といった内容が含まれた誓約書にサインをすることがあります。 -
(2)誓約書と契約書の違い
会社からサインを求められる書面としては、誓約書のほかに「雇用契約書」があります。
誓約書と契約書には、主に以下のような違いがあります。
① 当事者双方のサインの要否
誓約書は、誓約書を提出する労働者がサインをする書類であるため、誓約書にサインをするのは、一方当事者のみです。
これに対して、契約書は、当事者双方が合意したという事実を証明する書面であるため、当事者双方のサインが必要となります。
② 当事者双方が拘束されるかどうか
誓約書は、誓約書を提出する労働者のみがサインをするため、誓約書の効力はサインをした労働者に対してのみ及びます。
これに対して、契約書は、当事者双方がサインをするため、契約書の効力は当事者の双方に及ぶことになります。 -
(3)誓約書の法的効力とは?
契約書に記載されている内容が合理的なものであり、労働者の自由意思によってサインをしたものであれば、「誓約書の内容を遵守しなければならない」という法的拘束力が生じます。
したがって、誓約書の内容に違反して会社に損害を生じさせた場合には、会社から損害賠償請求をされる可能性もあるのです。
なお、誓約書に含まれる内容のうち合理的なものとして判断される例としては、以下が挙げられます。① 服務規程の遵守
入社時に提出する誓約書には、会社の就業規則や関係規程を遵守して、誠実に勤務をすることなどが記載されています。
服務規程は会社で働く労働者が守らなければならない最低限のルールであるため、服務規程の遵守を求めることは合理的な措置といえます。
② 秘密保持
仕事をしていると、顧客の個人情報や営業秘密を扱うこともあります。
このような情報が外部に流出してしまうと、大きな問題となるため、会社は労働者に対して秘密保持義務を課すことがあります。
個人情報や営業秘密の漏えいを防止するという合理的な目的があるため、会社に在籍中だけでなく、退職後も秘密保持義務を課すことは合理的な措置といえるのです。
③ 競業避止義務
「競業避止義務」とは、労働者が退職後、会社と競合する企業への転職や競合する企業を設立することを禁止することをいいます。
退職後に企業の営業秘密などを利用して競業行為が行われた場合には、企業にとって不利益が及ぶことになるため、それを制限することには一定の合理性があります。
しかし、労働者には、職業選択の自由があります。
そのため、競業行為を一律に禁止することは、不合理な制約となる場合もあるのです。
したがって、競業避止義務については、競業を禁止する期間、地域、労働者の地位、代替措置の有無などを踏まえたうえで、合理性を判断されることになります。
その結果、合理的なものであると認められた場合には、法的効力が生じます。
3、法的効力を持たない誓約書とは
誓約書の内容が合理的なものであれば、原則として、法的効力を有することになります。
一方で、以下のような誓約書については、法的効力がないと考えられるのです。
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(1)公序良俗に反する内容
社会一般の秩序や倫理・道徳に反する内容を目的とする行為については、公序良俗に反して無効となります(民法90条)。
たとえば、毎月の固定残業時間を80時間とするような誓約書であった場合には、労働基準法が定める残業時間の上限規制に反する内容となり、過労死のリスクも高まることから、公序良俗に反して無効となります。
また、定年年齢を男女で区別するなど、男女差別的な内容が含まれる誓約書についても、公序良俗に反して無効となります。 -
(2)誓約書の作成を強要された場合
誓約書が法的効力を有するのは、労働者による自由意思によって誓約書の内容に合意をした場合に限られます。
会社から誓約書へのサインを強要されたり、内容を十分に確認させてもらえずにサインをさせられたりしたような場合には、労働者の自由意思による合意がありません。
そのため、このような場合には、誓約書の法的効力は否定されます。
4、サインをしてしまう前に弁護士へ相談を
誓約書へのサインを求められた場合には、サインをする前に、以下の理由から弁護士に相談してください。
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(1)誓約書の内容をチェックしてもらえる
会社から誓約書を提示されて、その場でサインを求められたとしても、誓約書に記載されている内容が合理的なものであるかどうかをすぐに判断することは難しいでしょう。
そのため、誓約書へのサインを求められた場合には、いったん誓約書を持ち帰り、その内容を弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。
誓約書の内容は、専門的な用語が並んでいることもあり、法律の専門家でなければ誓約書にサインした場合のリスクを正確に判断することができません。
誓約書の内容について弁護士のアドバイスを受ければ、きちんと内容を理解したうえで、納得してサインができるでしょう。 -
(2)サインをしてしまった場合でも誓約書の効力を争うことができる
会社から「サインをしなければ帰らせない」などと言われて、渋々誓約書にサインをしてしまったという場合もあります。
サインをしてしまった後でも、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
誓約書の内容によっては、誓約書の無効を主張することができる場合があります。
また、サインをさせられた状況によっては、誓約書の撤回を求めることもできるのです。
早い段階から弁護士に相談することで、具体的な状況に応じた、さまざまな対策を実践することができます。
5、まとめ
会社から誓約書へのサインを求められたとしても、労働者には、それに応じる義務はありません。
もし会社から提示された誓約書の内容に納得ができない場合には、サインを拒否することもできます。
また、誓約書にサインをしてしまった後では、その効力を争うことが難しくなってしまいます。
誓約書へのサインを求められた場合や、強要に屈してサインをしてしまった場合には、できるだけ早い段階から弁護士に相談してください。
会社から誓約書へのサインを求められてお困りの方は、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています