正社員だけど雇用契約書がない! 労働条件を通知しないのは違法?

2020年09月23日
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正社員だけど雇用契約書がない! 労働条件を通知しないのは違法?

会社に正社員として入社した際、雇用契約書に署名・捺印するのは当たり前と思っている方は多いでしょう。
ですが、実は雇用契約書を作成しないケースは少なくありません。

雇用契約書がないことで、求人票よりも給与が低いなどの事態が起こるおそれがあります。

では、そもそも雇用契約書の作成は義務なのでしょうか?ない場合にはどうしたらいいのでしょうか?ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、雇用契約書がないと違法?

労働者が会社で働くためには、まず会社と労働契約を結びます。そのために必要な手続きは法律で細かく定められています。一般的には雇用契約書を作成しますが、実はなくても構いません。

  1. (1)雇用契約書とは?

    雇用契約書とは勤務時間や給与、業務内容などの労働条件について、会社と労働者の間で合意した内容について記載した書類です。

    通常2通作成し、双方が署名・捺印して1通ずつ保管します。

  2. (2)雇用契約書がないのは違法?

    雇用契約については、民法第623条で次のように定められています。
    「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」

    つまり、雇用契約は口頭での合意でも成立するということです。

    また、労働契約法第4条2項でも、次のように定めています。
    「労働者及び使用者は、労働契約の内容について、できる限り書面により確認するものとする」

    この労働契約の内容に関する書類が雇用契約書にあたりますが、それは「できる限り」でいいということです。

    総合すると、雇用契約は口頭での合意で有効に成立し、雇用契約書の作成はあくまで努力義務であるため作成しなくても違法ではないのです。

  3. (3)労働条件通知書は必須

    雇用契約書がなければ労働条件の提示が口頭での説明だけになり、後々トラブルの原因にもなるおそれがあります。
    そのため、労働条件を示す書類として、いわゆる「労働条件通知書」の作成が義務付けられています。

    労働基準法第15条1項では、次のように定めています。

    「使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」


    明示すべき内容については、労基法施行規則第5条に規定されています。
    まず、次の5点については、書面で明示しなければいけません。

    • 労働契約の期間(期間の定めのある労働契約の場合は、期間を更新する場合の基準)
    • 就業場所、業務内容
    • 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務がある場合には就業時転換に関する事項
    • 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締め切り、支払時期
    • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

    一方で以下の事項については、口頭の明示でもよいとされています。

    • 昇給
    • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法、支払時期
    • 臨時に支払われる賃金、賞与、これらに準ずる賃金、最低賃金額
    • 労働者に負担させる食費、作業用品その他
    • 安全衛生
    • 職業訓練
    • 災害補償、業務外の傷病扶助
    • 表彰および制裁
    • 休職
  4. (4)違反すると会社に罰則

    労働条件の明示は法律で定められた義務です。
    違反すると会社や経営者には30万円以下の罰金が科されます(労基法第120条)。

    労働条件の明示は、必ずしも労働条件通知書で行わなければいけないという決まりはなく、雇用契約書に上記の必要事項が明示されていれば、それでも構いません。

    そのため、会社の中には「雇用契約書兼労働条件通知書」としているところもあります。

    明示された条件と実態が違う場合には、労働者はすぐに労働契約を解除できます(労働基準法15条2項)。

2、雇用契約書がない場合に起こりうるトラブルとは?

雇用契約書などにより労働条件は明示しないことは、そもそも法律違反です。ですが、ほかにもさまざまなトラブルの原因となる可能性があります。

  1. (1)提示された給与より低い、残業が多い

    求人票や採用時の面談で勤務時間や給与、業務内容について会社から説明されるでしょう。
    労働者はそれに合意したうえで、入社を決めているはずです。

    ですが、雇用契約書などを作成していない場合、給与が少なかったり、違う業務を任されたりするなど、入社後に違う条件で働かされることがあります。

    合意した労働条件について雇用契約書などで明文化されていないため、「聞いていた条件と違う」と訴えても、会社にシラを切られてしまうかもしれません。

  2. (2)突然、解雇される

    労働条件について書面で通知されていないということは、就業規則についても説明されていない可能性が高いでしょう。

    そのため、会社にとって有利な就業規則を根拠に、ある日突然解雇される事態が起こり得ます。
    また、「正社員と聞いていたのに契約社員だった」「知らされていない試用期間があった」といったトラブルも珍しくありません。

    会社と交渉しようとしても書面で残っていないため、証拠がないことを理由に取り合ってもらえないかもしれません。

3、雇用契約書がない場合は退職したほうが良い?

雇用契約書を作成せず、労働条件も通知しない会社だとわかった場合、働き続けるか退職するか、迷うことでしょう。「雇用契約書がなくても、働いて給料がもらえれば問題ない」と思う方もいるかもしれませんが、後々別のトラブルが起こる可能性があります。

  1. (1)コンプライアンスを守る意識が低い会社の可能性

    労働条件の通知は義務であり、違反した場合には罰則があります。
    それでも遵守しないということは、コンプライアンスを守る意識の低い会社といえます。

    そういった体質の会社では、そのまま働き続けても長時間労働や残業代の未払い、労災隠しなど、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。

    労働条件の通知は労働者を雇う際の大前提であり、それすら守れないのであれば、ほかの法令も軽視する可能性は高いでしょう。

  2. (2)ブラック企業の可能性

    雇用契約書を意図的に作成していない場合、その会社はブラック企業の可能性があります。

    労働条件を明文化しないことで、会社は給与や労働時間などを会社に有利に設定できます。
    連日長時間働かせて、従業員が訴えても「最初からそういう契約だった」と言い張るかもしれません。

    そのまま働き続けても状況の改善は見込めないため、退職をするべきでしょう。

4、雇用契約書がない場合の対処法

雇用契約書をもらえていない場合、すぐに退職するという選択肢もあります。ですが会社との交渉により、雇用契約書を交付してもらえたり、条件を見直してもらえたりする可能性があります。まずは次のように対処してみてください。

  1. (1)会社に雇用契約書の作成を求める

    労働条件が通知されないのは、会社の担当者の単純なミスかもしれません。
    特に中小企業や人手不足の会社では、そこまで担当者の手が回らないこともあるでしょう。

    そこで、まずは会社に雇用契約書の作成を求めてみましょう。忘れているだけであれば、応じてくれるはずです。

    ただし、ごまかしたり拒否したりしてきた場合には、意図的に交付していないということであり、後々労働者が不利益を受ける可能性があります。

  2. (2)証拠を残しておく

    雇用契約書の作成を拒否するような会社では、残業代の未払いが起きていたり、不当解雇が発生したりする可能性があります。

    そのため証拠集めをしておきましょう。
    たとえば、口頭で説明を受けた労働条件をメモしておく、求人票をコピーしておく、給与明細や勤務記録を保管しておく、といった方法があります。

    後々不当解雇や残業代の未払いなどで裁判をする場合に必要になるので、できるだけ多く集めておきましょう。

  3. (3)弁護士に相談する

    労働条件の通知をせず、残業代の未払いや不当解雇のおそれがある場合には、退職して終わりにするのではなく、すぐに弁護士に相談してください。

    弁護士は労働者に代わって会社と交渉するなどして、未払い残業代の支払いや解雇撤回を求めていきます。
    労働者本人が訴えても会社が取り合ってくれない場合でも、弁護士が対応すれば会社が応じることもあります。

    会社の出方次第では、裁判を起こすことも検討します。

5、まとめ

雇用契約書がないなど、労働条件の通知がないケースは珍しくありません。それを黙って受け入れれば、給与や勤務時間を会社に有利なように変えられてしまうかもしれません。
「雇われている」という立場から、泣き寝入りしてしまう方も少なくありませんが、それでは何も変わりません。
一人で抱え込まず、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスにご相談ください。

弁護士はお客様のお話を丁寧に聞き、会社に雇用契約書の交付を求めるなど、改善に向けて全力で対処します。会社の対応に疑問を感じたら、すぐにご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています