交通事故でむちうちになったとき示談金を適切に請求する方法
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北海道警察が公表する「令和2年中の交通事故概況(確定数)」によると、令和2年中に北海道で発生した交通事故の件数は7898件で、負傷者数は9043人でした。
交通事故によるケガの中では、むちうちは比較的軽傷の部類に思えますが、それでも被害者にはさまざまな損害が発生します。被害者としては、請求できる可能性のある損害項目を漏れなく把握して、加害者側に適切な支払いを求めたいところです。
この記事では、交通事故によってむちうちになった際、加害者側に適切な示談金を請求する方法について、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、交通事故でむちうちになった場合の示談までの流れ
交通事故で頸部(首)に強い衝撃を受けた場合、むちうちになってしまう可能性があります。むちうちは一見軽傷のように思えますが、さまざまな損害が発生することもあります。加害者に対して適切な賠償を請求しましょう。
まずは、交通事故でむちうちになった被害者が、加害者から賠償金(示談金)を受け取るまでの流れを解説します。
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(1)むちうちの治療を病院で受ける
示談の際には、交通事故によって生じた損害を全て確認し、清算します。
そのため、損害の全体像を確定させるために、まずはむちうちの治療を行い、その経過を観察しなければなりません。治療の過程で、後述する治療費や通院費がどの程度かかるのか、仕事は何日休まなければならなかったのか、後遺障害はあるかなど、損害額を算定するための要素が徐々に確定します。
なお、むちうちを軽傷と思い込んで医療機関にかからない、継続して通院しない、整体などにしか行かない、という方がいらっしゃいます。しかし、思いがけず重篤な症状が残ってしまう可能性は否定できません。
また、初めて病院へ行ったタイミングが事故から相当期間空いてしまった場合や、整体や接骨院の通院記録しかない場合、「事故の結果、頸椎(けいつい)捻挫になった」(むちうちになった)ということ自体を証明できなくなる可能性が高くなります。事故との因果関係が認められない場合、たとえ苦しい思いをされていても適切な賠償金を受けられないという結果になりかねません。必ず事故直後に病院で診察を受け、治療を開始しておきましょう。 -
(2)むちうちが完治しない場合、後遺障害等級認定を申請する
むちうちを治療しても、完治せずに痛みやしびれなどが残ってしまうことがあります。治療によっても症状がこれ以上改善しない状態を「症状固定」といいます。
医師から症状固定の診断を受けた場合、その時点で残った痛みやしびれなどは、後遺障害等級認定の対象となり得ます。
むちうち後に生じる痛みやしびれなどは神経症状と呼ばれています。神経症状について認定される可能性がある後遺障害等級は、以下のとおりです。
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの 14級9号 局部に神経症状を残すもの -
(3)加害者側と示談交渉をする
加害者側に請求すべき損害の内容が確定したら、加害者側と示談交渉を行います。
加害者が任意保険に加入している場合、示談交渉の相手方は任意保険会社です。ただし、加害者側の任意保険会社は、独自の「任意保険基準」により、裁判例の集積による金額をベースとした「裁判所基準(弁護士基準)」よりも低額の示談金を提示します。
被害者としては、自身が受け取るべき正当な示談金額を算定してほしいところですが、個人による交渉の場合、任意保険会社は裁判所基準による算定を受け入れてはくれません。弁護士に示談交渉を依頼することによって、裁判を行わなくても裁判所基準により近い金額で示談をまとめられる可能性が高くなります。
2、交通事故によるむちうちについて、加害者側に請求できる損害項目
交通事故によってむちうちの状態になった場合、加害者側に請求できる損害項目は多岐にわたります。
以下では、各損害項目の概要と算定方法を解説しますので、ご自身に生じた損害を正確に把握し、漏れのないように請求を行いましょう。
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(1)治療費
「治療費」とは、入院や通院をした際に、医療機関に支払った費用を意味します。
治療費は、怪我の治療をするために必要性が認められる限り、基本的には実費全額が損害賠償の対象となります。医療機関による正確な診断が求められるため、自己判断で通い始めた整体などの費用は認められない可能性があります。整体に通いたい場合は、医師に必要性を確認してからのほうがよいでしょう。 -
(2)通院費
「通院費」とは、怪我の治療をするため、医療機関に通院するために支出した交通費などを意味します。
基本的には実費が損害賠償の対象ですが、タクシー代などは必要性が認められる場合に限られます。また、自家用車による通院の場合、1キロ当たり15円がガソリン代として補償されます。 -
(3)休業損害
「休業損害」とは、怪我の影響で働けなかった日や治療するための入院・通院により、仕事を休む必要が生じた場合に、休業期間にもらえるはずだった賃金などを意味します。
サラリーマンや自営業の方はもちろん、専業主婦・専業主夫の方でも休業損害を請求できます。
計算方法などの詳細は、以下の記事をご参照ください。
(参考:休業損害ってどうやって計算するの?その計算方法と適切な額の休業損害を受け取るためには) -
(4)入通院慰謝料
「入通院慰謝料」とは、むちうちを治療するために入院・通院を強いられたことに伴う、被害者の精神的損害を補償する金銭を意味します。
入通院慰謝料の金額は、入院期間と通院期間に応じて、『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』の別表を用いて求められます。
詳しい計算方法については、以下の記事をご参照ください。
(参考:慰謝料の計算方法) -
(5)後遺障害慰謝料
「後遺障害慰謝料」とは、怪我が完治せず後遺障害が残ったことに伴う、被害者の精神的損害を補償する金銭を意味します。
むちうちで認定され得る後遺障害等級第14級の場合は110万円(12級の場合は290万円)が裁判所基準を用いた場合の金額になります。 -
(6)逸失利益
「逸失利益」とは、むちうち後の後遺障害によって労働能力が喪失した場合に、後遺障害がなければ将来得られるはずだった将来の収入を意味します。
逸失利益は、むちうちによって生じる神経症状の場合、多くのケースで以下の式・表によって計算されます。
逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 労働能力喪失率 労働能力喪失期間 12級 14% 10年程度 14級 5% 5年程度
3、後遺障害等級認定を受けるための手続き
交通事故の損害項目のうち、金額が大きくなりやすい「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」を請求するには、症状固定後に後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
申請方法には「事前認定」と「被害者請求」の2種類がありますが、基本的には被害者請求の方法によることをおすすめいたします。
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(1)医師に後遺障害診断書を作成してもらう
後遺障害等級認定の申請を行う前提として、後遺障害の症状を確定しなければなりません。申請にあたっては、「後遺障害診断書」の提出が求められるうえ、そこに記載された内容は、後遺障害等級の認定にあたって重視されるため、後遺障害診断書の作成にあたっては注意が必要です。
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(2)申請方法①|事前認定
後遺障害等級認定の申請は、損害保険料率算出機構に対して行います。
(参考:損害保険料率算出機構ホームページ)
その際、申請を加害者側の任意保険会社に任せてしまうのが「事前認定」です。
事前認定の場合、被害者が自分で提出書類を準備しなくてよいため、被害者の労力は軽く済みます。その反面、被害者にとって手続きの透明性に欠ける点や、被害者に有利な書類を積極的に揃えることができない点などがデメリットとしてあげられます。 -
(3)申請方法②|被害者請求
事前認定とは異なり、被害者自身が後遺障害等級認定の申請を行うことを「被害者請求」といいます。
被害者請求の場合、申請準備の手間はかかりますが、審査の過程で被害者に有利な書類を提出することができます。結果的に正当な後遺障害等級の認定を受けられる可能性が高まるでしょう。
申請準備についても、弁護士に依頼することで、被害者自身の労力を相当程度軽減することが可能です。
4、交通事故の加害者側との示談交渉は弁護士に相談を
交通事故の被害に遭い、加害者側と示談交渉をすることになった場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
特に任意保険会社が交渉相手の場合、任意保険基準を用いて、被害者が本来受け取るべき金額よりも低額の示談金を提示してくる可能性が高いでしょう。その際、弁護士に交渉の代理を依頼すれば、裁判所基準によって、加害者側に正当な示談金を支払うよう強く求めることが可能です。
また、弁護士に相談すれば、請求すべき損害項目を漏れなく洗い出すことで、示談金の総額をアップできる可能性もあります。
このように、弁護士に相談することが、加害者側から正当な補償を受けるための近道になります。交通事故の被害に遭い、むちうちの症状でお悩みの方はお早めに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
交通事故によるむちうちは、軽傷のように思えても、実際にはさまざまな費目の損害賠償を加害者側に請求できます。特に治療後も痛みやしびれが残る場合には、後遺障害等級の認定を受けることで示談金の増額が期待できるので、弁護士のサポートを受けながら申請を行いましょう。
交通事故の被害でお困りの方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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