長年引きこもりの兄弟姉妹に遺産を相続させない方法はある?
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2018年1月、札幌市のアパートで82歳の母親と52歳の娘の遺体が見つかりました。娘は長年引きこもりで、母親の死後、飢えなどから衰弱死したとみられています。
近年、中高年の引きこもり問題がクローズアップされています。
高齢の親が引きこもりの子どもを養っているケースでは、引きこもりの子に遺産が多めに配分される遺言が残されるなど、相続にも影響することがあります。
ですがほかの相続人からすれば「親に苦労をかけているのにおかしい」と不満に思う人もいるでしょう。
では引きこもりの兄弟姉妹に相続させない方法はあるのでしょうか? また親の死後、ほかの家族が扶養しなければいけないのでしょうか? 詳しく解説します。
目次
1、中高年の引きこもり問題が深刻化
「引きこもり」というと若者が多いイメージをもたれがちですが、実は中高年の引きこもりの方が多いということがわかってきました。
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(1)中高年の引きこもりは61万人
内閣府の「平成30年度 生活状況に関する調査」によると、全国で引きこもりの状態にある40?64歳の人数は推計で61万3000人。
5年以上という長期間ひきこもっている人が半数以上を占めました。
別の調査で15?39歳の引きこもりの推計は54万1000人であったため、中高年の方が多いことが判明したのです。
きっかけは「退職」がもっとも多く、次いで「人間関係がうまくいかなかった」「病気」となっています。 -
(2)8050問題と相続
中高年の引きこもりの人は、高齢の親に養ってもらっているケースが少なくありません。
その場合、親の死亡により生活費が途絶えて困窮したり、外出の機会が減って孤立が深まったりする恐れがあります。
これは80代の親が50代の子どもの面倒をみる、いわゆる「8050問題」に関係しています。
そのため親は「せめて遺産は多めに渡してあげたい」と考え、引きこもりの子に有利な遺言を準備するかもしれません。
ですが、それはほかの兄弟姉妹間の相続トラブルの元となる可能性があります。
2、引きこもりの兄弟姉妹に相続させない方法
引きこもりの兄弟姉妹がより多く相続することには、ほかの相続人は納得がいかないかもしれません。まして親にDVを加えていたりギャンブルで散財していたりすれば、なおさらです。では実際に相続をさせないことはできるのでしょうか。
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(1)相続放棄
引きこもりの本人に相続の意思がない場合には、相続放棄が可能です。
相続放棄をする場合には、相続の開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所への申し立てが必要です。
認められると最初から相続人ではなかったとされるため、相続分はゼロになり、ほかの相続人がその分を受け取ります。
兄弟間の話し合いなどの結果、本人が放棄に納得したのであれば、自ら放棄してもらうというのもひとつの手です。 -
(2)遺産分割協議
本人が納得するのであれば、遺産分割協議で相続をゼロにする方法があります。
遺産分割協議は遺言書が残っていない、遺言書の内容に納得できないといった場合に行われます。
話し合いにより全員の合意が得られれば、その内容で分割します。
遺言書に引きこもりの兄弟姉妹に多めに遺産を配分すると記載されていたとしても、本人が相続分ゼロに納得し、全員が合意した場合には相続させないことができます。
ゼロに納得しなかった場合でも、引きこもりの兄弟姉妹に多めに配分されていた遺産を均等にすることには合意が得られる可能性はあります
なお相続人である引きこもりの兄弟姉妹をわざと排除して遺産分割協議を行った場合、分割は無効となりますので注意してください。 -
(3)相続人から排除
相続の割合をゼロにするのではなく、そもそも相続人から外すという方法があります。それが「相続人の排除」です。
推定相続人が次のような人の場合、相続人としての適格性を欠くとして、家庭裁判所への申し立てや遺言書を活用することで排除することができます。- 被相続人を虐待したり、重大な侮辱を加えたりしていた
- 著しい非行があった
また被相続人やほかの相続人を殺害するなどした場合には、そもそも相続人にはなれません。
相続人の排除はあくまで被相続人の意思のもとに行われます。相続人が独断で別の相続人の排除をすることはできません。 -
(4)信託で財産を管理
これは引きこもりの兄弟姉妹への相続をゼロにしたり、少なくしたりする方法ではありません。
ですが相続がゼロにならないのであれば、引きこもりの兄弟姉妹が遺産をギャンブルに使うなどしないよう、適切に管理することを考えてみましょう。
活用できるのが「信託」です。
信託とは親などの「委託者」が子どもなどを「受託者」として指定し、「受益者」のために財産管理を任せるという方法です。
たとえば長男が引きこもりの場合、委託者である親が次男を受託者として財産を信託。次男はそれを管理し、受益者である長男に生活費をわたすという仕組みが考えられます。
長男が散財する心配はなくなり、十分な額があれば生活に困ることもないでしょう。
3、一人に「全財産相続させる」と書かれた遺言書が出てきたら?
引きこもりであっても親にとって子どもは子ども。自分の知らないところで「(引きこもりの)兄に全財産を相続させる」という遺言書を書いているかもしれません。その場合はどうしたらいいのでしょうか。
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(1)遺留分を請求する
法定相続人である子どもには、最低限の取り分である「遺留分」があります。
たとえ遺言書に自分の分の遺産はゼロと書いてあったとしても、「遺留分減殺請求」をすることで、法律で認められている分を受け取ることができます。
遺留分の割合は財産の2分の1で、親や祖父母などの直系尊属だけの場合は3分の1です。
親は引きこもりの兄弟姉妹の将来を心配して、全財産を渡すと書いたのかもしれません。ですが受け取る権利は法律で認められていますので、きっちり請求しましょう。 -
(2)遺産分割協議をする
遺言書は故人の意思ではありますが、絶対に従わなければいけないというものではありません。
内容が相続人にとって受け入れがたいものである場合や、そもそも遺言書が残っていないという場合には、遺産分割協議をして遺産を分けることができます。
遺産の配分が自分にとって不利な場合には受け入れずに、遺産分割協議を提案しましょう。
4、引きこもりの兄弟姉妹を扶養しなければならない?
親の死後、引きこもりの兄弟の面倒を見る人が必要になるかもしれません。「家族同士は扶養しなければいけない」と聞いたことがあるかもしれませんが、実際どうなのでしょうか。
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(1)兄弟間にも扶養義務がある
扶養義務と聞くと「親が子どもを養う義務」と考えられがちですが、実は兄弟間にも扶養義務があります。
民法877条1項には、次のように規定されています。
「直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」 -
(2)生活保持義務と生活扶助義務
一口に扶養義務といっても、その内容には次の2種類があります。
- 生活保持義務
- 生活扶助義務
生活保持義務とは、自分の生活を犠牲にしてでも自分と同じ水準の生活ができるように支援しなければいけないというものです。
未成年の子どもや夫婦間に適用されるもので、離婚後の子どもの養育費はこれに当たります。
一方で生活扶助義務とは、自分の生活に余裕がある場合には相手を助けるというものです。兄弟姉妹に対する扶養義務とは、これをさします。
そのため余力がない場合には、無理をして引きこもりの兄弟姉妹を養う義務はありません。自立を促したり、生活保護の申請をしたりするなどの手段を考えましょう。
5、兄弟姉妹が遺産分割協議に応じない場合は?
引きこもりの兄弟姉妹との仲が悪ければ、遺産分割協議に応じてもらえない可能性があります。ですがいつまでもその状態では話が前に進みません。どうしたらよいのでしょうか?
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(1)遺産分割協議は全員参加、全員合意
遺産分割協議は共同相続人全員が参加し、全員が合意しなければ成立しません。
これは必ずしも全員が一堂に会さなければいけないという意味ではなく、相続人が遠方に住んでいる場合などは、文書を送って合意をもらうこともできます。
ただし全員合意は必須です。誰か一人でも納得しなければ成立しません。
なお遺産分割協議に期限はありませんが、相続税の納税・申告や相続放棄には期限がありますので、注意してください。 -
(2)協議に応じてもらえないときは調停・審判へ
何度「話し合いをしよう」と連絡をしても応じてもらえない場合や、話し合いが決裂した場合には、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。
調停では調停委員と裁判官が各相続人から事情を聞くなどして、解決を目指します。分割に合意ができて調停が成立すれば、その内容で遺産分割ができます。
調停が成立しなかった場合には自動的に審判に移行し、審判内容によって分割をします。
6、まとめ
中高年の引きこもり問題が深刻化するなか、親が亡くなった後の引きこもりの子どもの生活のあり方は、家族にとって大きな問題です。
だからといって偏った遺産の配分になれば、ほかの相続人が不満に思うのも当然です。
相続トラブルは家族内では解決できないケースも多いもの。相続でお困りの際は、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士にご相談ください。遺産分割協議のサポートや調停・審判の実務も可能ですので、まずは一度お話をお聞かせください。
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