仮想通貨をつかったやり取りの結果、逮捕される可能性がある罪と刑罰

2022年07月11日
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仮想通貨をつかったやり取りの結果、逮捕される可能性がある罪と刑罰

「仮想通貨」をはじめとした暗号資産に関するトラブルが多発しており、金融庁が注意を喚起しています。令和3年には、独自の仮想通貨を売りつけて別の仮想通貨をだまし取った詐欺グループが摘発されました。北海道新聞でも「仮想通貨に300万円を投資したが相手が無登録業者で大金を失ってしまった」といった特集記事が紹介されたのです。

新たな資産のかたちとして注目を集めている仮想通貨は、特に投資の分野でトラブルに発展しやすい、という問題を抱えています。仮想通貨を用いた取引をする際には、被害に遭わないように注意を払う必要があります。また、「いいもうけ話になる」と考えて仮想通貨の分野に手出しをすると、自分が加害者として責任を問われることにもなりかねません。加害者にならないことについても、注意が必要となるのです。

本コラムでは「仮想通貨」に関する取引・やり取りが犯罪になってしまうケースや問われる罪、逮捕後の流れや刑罰の重さなどについて、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、仮想通貨に関する容疑で逮捕された実例

仮想通貨に関する取引・やり取りなどが犯罪になり、罪を問われるケースでは、状況に応じてさまざまな法令が適用されます。
以下では、実際に起きた逮捕事件の事例を紹介しながら、どのような罪に問われる可能性があるのかについて解説します。

  1. (1)無登録で仮想通貨を取引した|資金決済法違反

    大手仮想通貨取引所の調べによると、令和3年6月時点で流通している仮想通貨は、有名なものも無名なものも含めると全世界で1900種類以上が存在しています。
    これら多数の仮想通貨と「日本円」の交換や、仮想通貨同士の交換を容易にするのが「取引所」や「販売所」です。
    取引所や販売所を運営するためには、資金決済法にもとづき、内閣総理大臣による「仮想通貨交換業」の登録を受けなければなりません。

    一般に、資本金が1000万円以上の純資産にマイナスがない株式会社で、適正かつ確実に仮想通貨交換業を遂行できる体制の整備等といったものが求められますが、規制が強く新規参入は容易ではないのが実情です。

    令和3年9月には、自社で仮想通貨を作り無許可で客の取引を仲介した業者の男ら7人が、資金決済法違反の容疑で逮捕されています。

  2. (2)仮想通貨口座を第三者に売却した|詐欺罪・犯罪収益移転防止法違反

    仮想通貨の取引口座を第三者に売却する行為は、銀行などの預金口座を売却したときと同様に処罰の対象となります
    はじめから売却の目的をもって口座を開設すれば詐欺罪、すでに保有している口座情報を売却すれば犯罪収益移転防止法違反となります。

    令和3年11月には、自身がもつ仮想通貨口座を第三者に売却した女性が逮捕されています。
    売却した口座は、第三者が不特定多数のインターネットバンキング口座に不正アクセスして抜き取った約2950万円の資金洗浄に利用されていました。

    口座の売却は、罪悪感を抱きづらく、また簡単にお金が手に入るので、安易に手を出してしまう方も少なくない行為です。しかし、自分の知らないところで犯罪組織の資金洗浄として使われ共犯的な役割を果たすことにもなる、重い犯罪です。別件の捜査で発覚しやすく、思いがけず逮捕されてしまう危険な行為であるので注意してください。

  3. (3)仮想通貨投資を称して大金をだまし取った|詐欺罪

    仮想通貨に関する事件でも、特に多額の被害に結びつくことから注目されやすいのが、「投資」を称した詐欺事件です。

    冒頭で紹介した事例では、投資関連会社の社長を中心とした詐欺グループが、約1500人の顧客に自社独自の仮想通貨を売りつけたうえで、その代金を総額20億円相当の正規の仮想通貨に交換、現金化していました。
    実際には交換価値のない仮想通貨について「必ずもうかる」「1年後には20倍になる」などとうそをつき、現金や別の仮想通貨をだまし取った場合には、詐欺罪が成立します

  4. (4)仮想通貨を使用したマネーロンダリングに関与|組織犯罪処罰法違反

    国内の事例ではありませんが、中国では令和3年6月までに仮想通貨を使用したマネーロンダリング=資金洗浄の容疑で、約31万人が逮捕されています。
    日本国内でも、組織犯罪処罰法第2条2項の規定があるため、懲役・禁錮の上限が4年以上の犯罪によって生じた資金は「犯罪収益」となり、「団体」としてその資金洗浄した場合には処罰の対象となります。
 具体的に言いますと、資金洗浄をしようという共同の目的をもった人たちが、組織的に仮想通貨の口座を使用して資金洗浄を行った場合には、組織犯罪処罰法違反となります。
    マネーロンダリングは、投資詐欺に関連して発覚するケースが多い類型だといえます

  5. (5)仮想通貨口座をハッキングした|電子計算機使用詐欺罪・不正アクセス禁止法違反

    仮想通貨交換業者や仮想通貨を保有している個人のアカウントに不正アクセスすると、不正アクセス禁止法違反となります

    令和2年1月には、IT関連会社のアカウントに不正アクセスした男ら2名が逮捕されました。
    なお、この事例では、不正アクセスしたうえで、約7800万円の仮想通貨を自身の管理する口座に移動させた疑いがもたれています。
    不正な指示を与えてコンピューターをだまし、不正な利益を得る行為は、刑法第246条の2「電子計算機使用詐欺罪」もあわせて成立します。

    なお、これら2つの罪は観念的競合となります。
    このような場合には、両方の罪を問われるのではなく、より刑が重い電子計算機使用詐欺罪のみが罪に問われることになるのです。

  6. (6)管理を任されていた仮想通貨を着服した|業務上横領罪

    仮想通貨の販売所や取引所の運営側が、顧客から預かった仮想通貨購入資金や仮想通貨そのものを着服すると、刑法第253条の「業務上横領罪」が成立します

    平成27年には、大手仮想通貨取引所の社長が顧客から預かった資金2000万円を着服した容疑で逮捕されました。
    交際費や自身の支払い、生活費などに費消したとのことです。

2、有罪になった場合に科せられる刑罰

仮想通貨に関して刑事事件に発展するおそれがあるのは、先に挙げた事例に照らすと次のような罪が考えられます。
法律で規定されている刑罰とともに、列挙しましょう。

  • 詐欺罪(刑法第246条)
    10年以下の懲役
  • 電子計算機使用詐欺罪(刑法第246条の2)
    10年以下の懲役
  • 業務上横領罪(刑法第253条)
    10年以下の懲役
  • 犯罪収益移転防止法違反(第28条2項・3項)
    1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらを併科(業としておこなった場合は3年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらを併科)
  • 組織犯罪処罰法違反(第9~11条)
    ・法人等経営支配(第9条)
    5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらを併科
    ・犯罪収益等隠匿(第10条)
    5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらを併科
    ・犯罪収益等収受(第11条)
    3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらを併科
  • 資金決済法違反(第63条の2・第107条6号)
    3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらを併科
  • 不正アクセス禁止法違反(第3条・第11条)
    3年以下の懲役または100万円以下の罰金


いずれも、かなり厳しい刑罰が規定されている犯罪といえます。
なお、併科とは、2つ以上の刑罰を同時に科すことを指します。
 犯罪収益移転防止法違反を例にあげますと、1年の懲役に加えて100万の罰金が科されることがあるということになります。

仮想通貨に関する犯罪行為をはたらいてしまうと、厳しく処罰される事態は避けられないと考えるべきでしょう

3、仮想通貨に関する犯罪で逮捕された場合の流れ

仮想通貨に関する犯罪の容疑をかけられて逮捕されるまでの流れについて、確認します。

  1. (1)事情聴取を受けたうえで逮捕されるケースも多い

    仮想通貨に関する犯罪では逮捕に至る前段階で任意の事情聴取がおこなわれるケースが多いといえます。
    冒頭で紹介した、投資関連会社の社長を中心とした詐欺グループが自社独自の仮想通貨の販売名目で顧客から正規の仮想通貨をだまし取った事例でも、事前に任意の事情聴取や家宅捜索がおこなわれていました。

    仮想通貨の分野は捜査機関にとっても不明確な点が多いため、有効な供述や明確な証拠を手に入れたうえで強制捜査に踏み切ることが一般的だといえます。

  2. (2)逮捕後は逮捕・勾留による身柄拘束を受ける

    警察に逮捕されると、取り調べのために警察・検察官の段階で72時間以内の身柄拘束を受けます。
    検察官が「さらに身柄を拘束して捜査する必要がある」と判断した場合は勾留によって最長20日間の身柄拘束を受けるので、ひとつの事件による身柄拘束は逮捕・勾留をあわせて23日間です。
    勾留が満期を迎えても、別件の容疑があれば「再逮捕」されることもあります。
    仮想通貨に関する事件では、まずは資金決済法違反などの容疑で逮捕されて、詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪で再逮捕といったケースになることも多々あります

  3. (3)起訴されると刑事裁判に発展する

    警察や検察官による捜査の結果、検察官が「起訴」した場合には、刑事裁判が開かれます。
    刑事裁判では裁判官がさまざまな証拠を取り調べたうえで、有罪・無罪を判断し、有罪の場合には法律が定めた範囲内で適当な量刑が言い渡されることになります。

4、厳しい刑罰を回避するために大切なこと

仮想通貨に関する事件では、被害額が多額になりやすいうえに社会的な反響も大きいことから、捜査機関が逮捕や起訴に踏み切りやすい傾向があります。
厳しい刑罰を回避するためには、早期から弁護士に相談して対策を講じておくことが重要になります

  1. (1)容疑をかけられた段階で直ちに弁護士に相談する

    仮想通貨に関する事件では、警察が逮捕に踏み切るよりも前のタイミングで、「容疑をかけられている」と察知できる場合があります。
    「警察から任意で出頭を求められた」「任意の事情聴取を受けた」「会社や自宅の捜索を受けた」といった事情がある場合には、直ちに弁護士に相談して、サポートを受けましょう。

    事件化される前から弁護士に相談しておくことで、時間的な余裕を得ることができ、逮捕や厳しい刑罰を回避するための対策を十分に尽くすことができます

  2. (2)被害者との示談成立を目指す

    仮想通貨に関する事件を穏便なかたちで解決するための最善策は、「被害者との示談成立」です。
    謝罪のうえで被害者が受けた金銭的な損害を賠償することで、被害届や刑事告訴の取り下げを目指すことができます。
    被害者との示談が成立すれば、検察官が不起訴処分とする可能性が高まるでしょう。

    また、もし検察官が起訴に踏み切ったとしても、すでに謝罪や賠償が尽くされているという事実は加害者にとって有利な事情となり、刑罰が軽い方向へと傾く材料になるのです。

    ただし、被害者との示談交渉は容易ではありません。
    特に、「大きな金銭被害をこうむった」という意識が強い被害者に対して加害者が交渉を行おうとしても、門前払いされたり、建設的に交渉が進行しなかったりする可能性が高いのです。

    被害者の憤りを鎮めながら穏便な解決を図るためには、弁護士を代理人として交渉することをおすすめします

5、まとめ

新たな資産のかたちとして、あるいは投資商品として、仮想通貨が注目を集めています。
仮想通貨を取り巻く法律は多岐にわたって存在するため、利益のために安易に扱うと、犯罪になってしまうおそれがあります。
そして、仮想通貨に関する犯罪で起訴されると、逮捕や厳しい刑罰が科せられる事態は避けられません。
できる限り穏便な解決を図るためには、早期の対策が重要になります。

仮想通貨に関する犯罪の容疑をかけられてしまった場合には、弁護士のサポートが欠かせません
北海道にご在住の方は、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスにまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています