地域特有の運転は危険運転になる? 逮捕される可能性や罰則とは?

2020年07月10日
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地域特有の運転は危険運転になる? 逮捕される可能性や罰則とは?

昨今、あおり運転などに対する批判の声は強くなっており、全国にある地域特有の運転方法についても、危険な運転としてメディアなどで取り上げられることは少なくありません。

北海道にも「なまら車間泥棒」「蝦夷ノーウインカー」という運転方法があります。
これらの運転は地元の方にとっては当たり前かもしれませんが、いつ大きな事故につながってもおかしくありません。
死傷事故を起こせば、危険運転致死傷容疑で逮捕される可能性もあります。

では全国にはどのような地域特有の運転があり、逮捕されるとどうなるのでしょうか。弁護士が解説します。

1、地域特有の運転は危険運転?

強引な右折やウインカーを出さない車線変更などを日常的にしていませんか? 周囲に同じような運転をしている方が多い場合、それは地域特有のルールかもしれません。ではそれは危険運転に該当するのでしょうか?

  1. (1)全国にある地域特有の運転方法

    全国にはさまざまな地域特有の運転方法が存在しており、これらは「ローカル交通ルール」とよばれることもあります。

    全国的に有名なものとしては、次のようなものがあります。

    • なまら車間泥棒(北海道):交差点で対向車が来る前に右折
    • 蝦夷ノーウィンカー(北海道):ウインカーを出さずに車線変更
    • 茨城ダッシュ(茨城):青信号になると対向車より先に右折
    • 山梨ルール(山梨):右折優先、横断歩道は歩行者がいても一時停止しないなど
    • 松本走り(長野):対向車が接近していても強引に右折、左折車にかぶせて右折など
    • 名古屋走り(愛知):ウインカーを出さずに車線変更、信号無視など
    • 播磨道交法(兵庫):交差点では先に入った車が優先、信号のない横断歩道で歩行者を優先しないなど
    • 岡山ルール(岡山):ウインカーをださずに右左折・車線変更
    • 阿波の黄走り(徳島):黄信号で速度を上げて交差点に進入
    • 伊予の早曲がり(愛媛):交差点で対向車より先に右折


    こういった運転方法が生まれた背景には、地理的な特徴や道路事情、地域の方の気質などがあるとされています。

  2. (2)危険運転は厳罰化の流れ

    通常、運転中の事故により相手をケガさせたり死亡させたりした場合には、過失運転致死傷罪に問われます。
    ですが危険運転が原因の場合、より刑罰の重い「危険運転致死傷罪」が適用されます。

    近年、飲酒運転やあおり運転などによる事故が頻発し、悪質な運転に対して厳罰化が進んでいます。

    令和2年7月、危険運転の適用範囲を拡大する改正自動車運転死傷行為処罰法が施行されました。走行中の車を妨害する目的で、前方で自分の車を停止させ、死傷事故を起こすケースを処罰対象に加えました。また、あおり運転の行為自体を厳罰化した改正道路交通法も同年6月に施行しており、政府は2つの法律で悪質運転に歯止めをかけたい考えです。

    地域特有の運転は、歩行者や他の運転者が恐怖を感じるものです。
    あおり運転やスピード違反にも直結しており、重大な事故につながる可能性はかなり高いといえます。
    運転の内容や事故の結果によっては、危険運転致死傷罪に問われるでしょう。

2、危険運転に関する法律と刑罰

危険運転致死傷罪に該当する運転方法については、法律で具体的に定められています。ここではその内容と刑の重さについてご説明します。

  1. (1)自動車運転死傷行為処罰法に規定

    危険運転致死傷罪は「自動車運転死傷行為処罰法」の中で定められています。

    この法律がつくられる前は、死傷事故は主に自動車運転過失致死傷罪(旧)や業務上過失致死罪、傷害罪などで処罰されていました。

    刑法に危険運転死致傷罪はありましたが適用できないケースが相次ぎ、業務上過失致死などで処罰されていました。
    ですがそれでは刑が軽すぎるとして、見直しの必要性が訴えられていました。

    そこで生まれたのが自動車運転死傷行為処罰法です。

    刑法から危険運転致死傷罪を移行し、新たな類型を追加。さらに飲酒や薬物を使った状態での運転について詳細に規定し、適用のハードルを下げました。

  2. (2)危険運転致死傷罪の8つのケース

    改正自動車運転死傷行為処罰法第2条では、危険運転に該当する行為として、次の8つのケースを規定しています。

    1. (酩酊(めいてい)運転)アルコールまたは薬物の影響で、正常な運転が困難な状態で運転
    2. (制御困難高速度)制御することが困難なほどの高スピードで運転
    3. (未熟運転)制御する技能を持たない状態での運転
    4. (妨害運転)妨害目的で、走行中の自動車の直前に進入したり、通行中の人や車に著しく接近したりし、かつ危険なスピードで運転
    5. (新設 あおり運転1)妨害目的で、危険なスピードで走行している相手の車の前で停止(令和2年6月5日改正)
    6. (新設 あおり運転2)妨害目的で、高速道路や自動車専用道路上で、走行中の車の前で停止したり、接近したりし、その車を停止・徐行させる行為(令和2年6月5日改正)
    7. (信号無視運転)赤色信号などを無視、かつ危険なスピードで運転
    8. (走行禁止道路運転)通行禁止道路を走行、かつ危険なスピードで運転


    これらいずれかの行為により死傷事故を起こした場合、危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。

  3. (3)危険運転致死傷罪の刑罰

    危険運転致死傷罪の刑罰は、次のようになっています。
    相手を負傷させた: 15年以下の懲役
    相手を死亡させた: 1年以上の有期懲役(原則20年以下)

    罰金刑は存在しません。
    また無免許であった場合には、刑が加重されます。

    業務上過失致死罪は最大で懲役・禁錮5年または100万円以下の罰金ですので、それと比較してかなり重いといえます。

3、地域特有の運転方法で逮捕される可能性はある?

地域特有の運転は「みんなやっているから大丈夫」「事故を起こさなければいい」と考える方もいるかもしれません。ですが一度事故を起こせば、人生は一変します。危険運転致死傷容疑で逮捕されれば、刑務所に入ることになるかもしれません。

  1. (1)地域特有の運転は道路交通法違反

    地域特有の運転は、そもそもその多くが道路交通法違反です。

    たとえば交差点で直進車が近づいていても右折する(第37条)、車間距離を詰め過ぎる(第26条)、ウインカーを出さずに進路変更する(第53条)といった行為は、それぞれ道路交通法で禁止されています。

    こういった運転自体が違法ですが、死傷事故を起こした場合にはさらに重い処分の対象となります。

  2. (2)危険運転致死傷容疑で逮捕されることも

    地域特有の運転で事故を起こし、人を怪我させたり死亡させたりした場合には、自動車運転行為処罰法の過失運転致死傷罪に問われます。
    刑罰は7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金です。

    ですが前項でご紹介した、危険運転致死傷罪の6つのケースに該当する場合には、より重い危険運転致死傷容疑で逮捕されます。

    たとえば赤信号無視でも、それが「殊更」かつ「危険なスピード」であった場合には、自動車運転処罰法第2条5に該当します。

    また、ウインカーを出さずに車線変更をすることも、同法第2条4の「人や車を妨害する目的で走行中の自動車の直前に進入したり、通行中の人や車に著しく接近したりし、かつ危険なスピードでの運転」に該当すると判断される可能性があります。

    過失運転致死傷に比べて、危険運転致死傷は立件のハードルは高いといえます。

    ですが東名高速道路での夫婦死亡事故など、悪質な運転による事故が増えて取り締まりは厳しくなっており、ドライブレコーダーにより証拠もより多く残るようになりました。

    そのため今後は危険運転致死傷罪が適用されるケースは増加するとみられます。
    地域特有の運転も、死傷事故を起こせば危険運転に問われる可能性が大いにあります。

  3. (3)殺人容疑の可能性もある

    危険運転は内容によっては殺人罪や殺人未遂罪に問われることもあります。

    大阪地裁は平成31年、バイクの男性にあおり運転をしたうえに追突、死亡させた男に「衝突してもかまわないと考え、あえて衝突した」として殺人罪を適用。懲役16年の判決を言い渡しました。

    ただし殺人罪が適用されるためには単なる危険運転ではなく、殺意を持って事故を起こしたと認められる必要があり、この事件は極めてまれなケースといえます。

  4. (4)危険運転は即免許取り消し

    危険運転致死傷に該当する事故を起こした場合、行政処分も科されます。

    違反行為には一般違反行為と特定違反行為がありますが、危険運転はより重い処分が科される特定違反行為です。

    違反点数は、危険運転致傷では45〜55点、致死の場合では62点となり、一発で免許取り消しです。
    また免許を取得することができなくなる欠格期間(前歴0回の場合)は、危険運転致傷では5〜7年、危険運転致死では8年であり、過失運転致死傷のそれより一般的に長くなっています。

  5. (5)警察に逮捕された後の流れ

    危険運転致死傷で警察に逮捕されると、次のような流れで手続きが進みます。

    • 警察による逮捕
    • 検察に送検
    • 最大20日間の勾留
    • 起訴または不起訴
    • 起訴されると裁判、判決


    なお危険運転致死傷罪のうち、致死は裁判員裁判の対象事件です。

    逮捕から勾留までで最大23日間身柄が拘束され、さらに執行猶予のつかない有罪判決となれば刑務所に入ります。

4、まとめ

地域特有の運転は危険極まりないものであり、日常的に行っていればいつ検挙されてもおかしくありません。

事故を起こせば相手をケガさせたり、その命を奪ってしまったりすることがあります。重い処罰が科せられ、一生その罪と向き合っていかなければなりません。

あおり運転のような危険運転で相手をケガさせてしまい、逮捕された場合には、早期にベリーベスト法律事務所 札幌オフィスにご相談ください。

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