振替休日に期限はあるのか? 代休・有給休暇との違いや賃金の計算方法
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北海道労働局が2020年に監督指導を行った6452事業場のうち、何らかの労働基準関係法令違反が認められた事業場は4003件でした。
会社は、本来は休日である日に労働者を働かせる代わりに、労働日を「振替休日」に指定するという施策を行うことが採用することができます。ただし、振替休日は代休や有給休暇などの休日制度とは法的に異なるものであり、期限や賃金の計算方法のルールにも違いがあります。
企業の経営者や労務担当者の方は、労働基準法に沿った適正な労務管理を行うため、弁護士に相談することをご検討ください。本コラムでは、振替休日の期限や賃金の計算方法、代休や有給休暇の制度との違いについて、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、振替休日とは? 期限はある?
労働者が休日に働く場合には、別の労働日(勤務日)を「振替休日」とすることができます。
まず、振替休日の制度について、基本的な概要を解説します。
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(1)振替休日とは
振替休日とは、労働者を休日に働かせる代わりに、労働日をあらかじめ休日に振り替えた日のことです。
たとえば、休日である令和4年7月9日(土)に労働者を働かせる代わりに、労働日である令和4年7月11日(月)を振替休日にする、ということが考えられます。
このとき、休日と労働日の振替は、元々休日であった日が到来する前に行わなければなりません。
たとえば、上記のケースでは、7月8日(金)までに振替を決定する必要があるのです。
なお、労働基準法第35条に基づき、会社などの「使用者」は労働者に対して、週1日以上(または4週間のうち4日以上)の休日を与えることが義務付けられています。
これを「法定休日」といいます。
労働日と休日を振り替えた結果、法的休日の要件に抵触してしまう場合がある点に注意してください。
ただし、三六協定で休日労働のルールを定めている場合には、その範囲内で休日労働をさせることができます(同法第36条第1項)。 -
(2)振替休日はあらかじめ決められる|期限は問題にならない
振替休日については、期限が問題になることはありません。
振替休日は、事前にあらかじめ日付を指定して与えるものであり、労働者の裁量によって取得日を決めるものではないためです。
一方で、代休や有給休暇などの制度については、後述するように取得期限が問題になることがあります。
2、代休・有給休暇とは|振替休日との違い・取得期限
振替休日のほかの労働者が取得する休暇に関する制度として、「代休」と「有給休暇」が挙げられます。
以下では、代休と有給休暇それぞれの概要や取得期限、振替休日との違いについて解説します。
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(1)代休とは
「代休」とは、休日労働が行われた場合に、その代償として以後の特定の労働日を休みとすることです。
労働日と休日を入れ替える点では、代休は振替休日と共通しています。
しかし、振替休日は事前に指定する必要があるのに対して、代休は休日労働が行われてから事後的に指定する、という点が大きな違いになります。
たとえば、休日である令和4年7月9日(土)に労働者を働かせるとき、代休取得日は7月9日以降の段階で指定することになります。
さらにもう一つの違いとして、振替休日の場合は休日労働の割増賃金が発生しないのに対して、代休の場合は休日労働の割増賃金が発生する、という点が挙げられます。 -
(2)代休の取得期限は会社のルールに従う
代休制度を設けることは、労働基準法などに基づく使用者の義務ではありません。
したがって、代休制度の有無や内容は、会社が定めたルールに従うことになるのです。
代休の取得期限についても、就業規則その他の社内規程の定めに従います。
ただし、代休制度の趣旨は「長時間労働や連続勤務による疲労を回復させる」という点にあるため、休日労働が行われてから間近なタイミングで代休を与えることが望ましいでしょう。 -
(3)有給休暇とは
「有給休暇」とは、継続勤務期間や出勤率などの要件を満たす労働者に対して、労働基準法に基づき付与されるもので、給料が発生する休暇です。
雇い入れの日から起算して6カ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、各継続勤務期間に合わせて以下の日数の年次有給休暇が付与されます(労働基準法第39条第1項、第2項)。
<年次有給休暇の日数(原則)>
継続勤務期間 年次有給休暇の日数 6カ月以上1年6カ月未満 10日以上 1年6カ月以上2年6カ月未満 11日以上 2年6カ月以上3年6カ月未満 12日以上 3年6カ月以上4年6カ月未満 14日以上 4年6カ月以上5年6カ月未満 16日以上 5年6カ月以上6年6カ月未満 18日以上 6年6カ月以上 20日以上
<年次有給休暇の日数(パートタイム等)>
週所定労働時間 4日 3日 2日 1日 年所定労働時間 169日以上216日以下 121日以上168日以下 73日以上120日以下 48日以上72日以下 継続勤務期間 6カ月以上1年6カ月未満 7日以上 5日以上 3日以上 1日以上 1年6カ月以上2年6カ月未満 8日以上 6日以上 4日以上 2日以上 2年6カ月以上3年6カ月未満 9日以上 6日以上 4日以上 2日以上 3年6カ月以上4年6カ月未満 10日以上 8日以上 5日以上 2日以上 4年6カ月以上5年6カ月未満 12日以上 9日以上 6日以上 3日以上 5年6カ月以上6年6カ月未満 13日以上 10日以上 6日以上 3日以上 6年6カ月以上 15日以上 11日以上 7日以上 3日以上
有給休暇の取得時期は、原則として、労働者が自由に指定できます(同条第5項本文)。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は労働者の希望日を却下して他の時季に有給休暇を与えることができます(時季変更権。同項ただし書き)。 -
(4)有給休暇の取得期限は2年間
有給休暇の取得期限は、付与日から2年間です(労働基準法第115条)。
2年間が経過すると、有給休暇の取得請求権は時効消滅してしまいます。
3、休日に出勤した場合における賃金の計算方法
休日出勤をした場合には、その日が「法定休日」と「法定外休日」のどちらであるかによって、賃金の計算方法が異なります。
また、振替休日や代休を取得した場合には、それぞれ賃金の計算方法に変化が生じる点にも注意してください。
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(1)法定休日と法定外休日|どちらに該当するかを把握する
「法定休日」とは、労働基準法第35条に基づき付与が義務付けられている、週1日(または4週間のうち4日)の休日です。
これに対して「法定外休日」とは、会社が定めた休日のうち、法定休日ではない日を指します。
法定休日の労働には、休日労働の割増賃金率(35%以上)が適用されます。
一方、法定外休日の労働には、時間外労働の割増賃金率(原則として25%以上)が適用されます。
このように、法定休日と法定外休日では適用される割増賃金率が異なるため、労働者を働かせた休日がどちらに該当するかを正しく把握することが大切です。
なお、1週間当たりの休日が2日以上ある場合に、各休日が法定休日・法定外休日のどちらに当たるかは、以下のように決まります。
① 労働契約や就業規則に定めがある場合
その定めに従って法定休日と法定外休日を振り分けます。
② 労働契約や就業規則に定めがない場合
日曜日を起算日とする場合、日曜から土曜を1週間として、もっとも降順(後ろ)に位置する休日が法定休日、それ以外の休日が法定外休日となります。 -
(2)振替休日を取得した場合の計算方法
労働者が振替休日を取得する場合、本来法定休日であった日に行われた労働については、休日労働の割増賃金は発生しません。
労働が行われる段階で、その日はすでに法定休日から労働日に振り返られており、休日労働の取り扱いにはならないためです。
したがって、振替休日の場合には、別途時間外労働や深夜労働が発生しない限り残業代などの精算は生じないことになります。 -
(3)代休を取得した場合の計算方法
労働者が代休を取得する場合、法定休日に行われた労働については、休日労働の割増賃金が発生します。
労働が行われる段階では、その日は依然として法定休日であり、休日労働として取り扱われるためです。
したがって、代休の場合には、振替休日とは異なり、休日労働の割増賃金と通常の賃金の差額について精算する必要がある点に注意してください。
4、労務管理に関するご不明点は弁護士にご相談を
振替休日や代休が関係する場合、賃金計算は複雑なものとなります。
また労働基準法では、法定労働時間・休憩・休日・残業代などに関して細かくルールが定められています。
すべてを正しく遵守するために、専門家に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、労働基準法の規定をふまえたうえで、企業ごとの状況に適した労務管理の方法を提案することができます。
従業員との労務トラブルを予防したい場合には、労務管理について、まずは弁護士にご相談ください。
5、まとめ
振替休日は、休日と労働日を振り替える形であらかじめ指定されるため、取得期限が問題になることはありません。
これに対して、代休や有給休暇については、振替休日とは違って取得期限が問題になることがあります。
振替休日・代休・有給休暇を適切に取り扱い、労働基準法違反が生じないような労務管理を行うためには、弁護士に相談することが最善です。
自社の労務管理やコンプライアンスを改善したいとお考えの企業経営者や担当者は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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