管理監督者にも労働時間・残業時間の上限規制はあるのか

2024年09月02日
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管理監督者にも労働時間・残業時間の上限規制はあるのか

北海道労働局が発表した『令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況』によると、令和4年度の総合労働相談件数は3万9841件で、前年度より3097件増加しました。

会社内で管理職の地位にある方のなかには、会社から「管理職だから残業手当は支払われない」などといわれている人もいるでしょう。

しかし、管理職の地位にある労働者であっても、労働基準法上の「管理監督者」には該当しない場合には、労働基準法上の規制が適用されます。また、労働基準法上の管理監督者に該当する場合には、一般労働者と異なり労働基準法上の規定が適用除外となりますが、すべての規制が適用除外となるわけではありません。

管理監督者の地位にある方や、これから管理監督者になる予定という方は、労働基準法上の管理監督者に対するルールについて正しく理解しておきましょう。本コラムでは、管理監督者と労働基準法上の規制との関係について、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。


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1、管理監督者に労働時間の上限規制はあるのか

まず、管理監督者である労働者に対して、労働基準法上の労働時間の上限規制が適用されるのかについて解説します。

  1. (1)労働時間の上限規制とは

    労働基準法では、1日8時間、週40時間を法定労働時間と定めており、法定労働時間を超えて労働をさせることを原則として禁止しています。

    法定労働時間を超えて労働させるためには、三六協定の締結と労働基準監督署への届け出が必要となります。
    そして、三六協定の締結・届け出をしたとしても、時間外労働は月45時間、年360時間が上限です。臨時的な特別の事情がなければ、この上限を超えることはできません。

  2. (2)管理監督者には労働時間の上限規制の適用はない

    管理監督者に対しては、労働基準法上の労働時間の上限規制の適用はありません。
    そのため、時間外労働をすることになったとしても上限はなく、時間外労働に対する残業手当も支給されることはありません。

    一般労働者から管理監督者になることによって、残業手当の支給がなくなることから、給与が減ってしまうという事態も起こり得ます。
    しかし、管理監督であるかどうかの判断基準のひとつは「一般労働者に比べて手厚い待遇を受けているか」という点です。
    管理監督者になったことによる昇給分や役職手当などを踏まえても、一般労働者のときの残業代よりも少なくなったという場合には、管理監督者性が否定されることもあります。

    なお、管理監督者に対しては、労働時間の上限規制のほかにも、休日や休憩に関する労働基準法上の規定が適用除外とされています
    そのため、休日に働いたとしても休日出勤手当の支給はなく、仕事中に休憩を与えられなかったとしても違法とはなりません。

    ただし、労働時間の上限規制・休日・休憩の規定が適用されないからといって、際限なく働かせてよいというわけではありません。
    長時間労働となった場合には、労働安全衛生法に基づく医師の面接指導などの健康管理が必要になることもあります。

2、管理監督者と管理職の違い

労働基準法上の「管理監督者」とはどのような立場であるのか、管理職とはどのような違いがあるのかについて解説します。

  1. (1)管理監督者とは

    「管理監督者」とは、会社内で重要な地位や権限を有し、経営者と密接な関係にある労働者のことをいいます。たとえば、経営方針に対する発言権を有する立場の人や、部署の決裁権を有する立場の人が管理監督者にあたります。
    これに対して、「管理職」とは、一般的に一定の決裁権を有する立場にある人のことをいいます。

    管理監督者も管理職も一定の権限を有するという点では共通しますが、法律上はまったく別の概念であるため、しっかりと区別することが大切です

    管理監督者は、労働基準法上の要件を満たすことによって初めて認められるものです。
    一方で、管理職にはそのような明確な定義は存在していません。
    また、管理監督者に該当するかどうかはその人に与えられた肩書ではなく、実質面で判断することになります。一方で、管理職は、「部長」「課長」「マネジャー」などの肩書の有無で判断されます。

    管理監督者になった方は、労働基準法上の規制の一部が適用除外になります。
    しかし、管理監督者に該当しない管理職に対しても、労働基準法上の規制を適用しないという扱いをしている会社もあります。これがいわゆる「名ばかり管理職」の問題です

  2. (2)管理監督者の判断基準

    労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、単に肩書や役職名といった形式面ではなく、「経営者と一体的な立場にあるか」といった実質面で判断されます。
    管理監督者の具体的な判断基準としては、以下のようなものが挙げられます。

    ① 重要な職務内容を有していること
    管理監督者といえるためには、労働条件の決定などの労務管理について、経営者と一体的立場にあり、労働基準法による労働時間などの規制の枠を超えて活動する必要があるような、重要な職務内容を有していることが必要になります。
    たとえば、経営方針に対して発言権を有していたり、採用や解雇などの人事権を有していたりするなど、一定の重要な職務内容であることがポイントです。

    ② 重要な責任と権限を有していること
    管理監督者といえるためには、経営者から重要な責任と権限を与えられていることが必要となります。
    自らの裁量によって判断することができる事項が少なく、上司の決裁を仰ぐ必要があるような立場の人では、管理監督者とはいえません。

    ③ 労働時間などの規制になじまない勤務態様であること
    管理監督者は、時間を問わず常に経営上の判断や対応が要請されるため、実際の労務管理においても一般の労働者とは異なる立場になることが必要となります。
    したがって、労働時間について会社から厳格な管理を受けているような立場の人では、管理監督者とはいえません。

    ④ 管理監督者にふさわしい待遇がなされていること
    管理監督者に該当する場合には、労働基準法上の規制の一部が適用除外となるため、一般の労働者のような手厚い保護を受けることができません。
    したがって、管理監督者といえるためには、給与、賞与、その他の待遇において相応の待遇がなされていることが必要となります。
    一般労働者と同程度または多少上回る程度の給与水準では、管理監督者性は否定される可能性が高いでしょう。
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3、管理監督者の深夜労働や有給休暇の規定は?

管理監督者となった労働者について、労働基準法上の深夜労働や有給休暇の規定が適用されるかについて解説します。

  1. (1)一般労働者に適用される深夜労働・有給休暇の規定とは

    労働基準法では、午後10時から翌日午前5時までの労働を「深夜労働」とし、深夜労働に対しては、25%以上の割増率によって計算した割増賃金の支払いを義務付けています。
    また、「半年間継続して雇用されており、かつ、全労働日の8割以上出勤している労働者」に対しては、年次有給休暇を取得することができるとも定められています。

  2. (2)管理監督者にも時間外労働・有給休暇の規定は適用される

    管理監督者に対しては、労働時間の上限規制の適用はないため、残業手当を支払う必要はありません。
    しかし、一般労働者と同様に管理監督者にも労働基準法上の深夜労働に関する規定は適用されるため、深夜残業手当については支給されることになります

    また、管理監督者に対して休日の規定が適用されることはありませんが、労働基準法上の年次有給休暇についての規定は適用されます。したがって、法定の要件を満たす管理監督者に対しては、年次有給休暇が付与されます。

    「管理監督者であるから時間外労働や有給休暇の規定も適用されない」と誤解している場合もありますが、実際には、一部の規定を除いて一般労働者と同様に労働基準法上の保護が及ぶのです。

4、適切に賃金が支払われていない場合は弁護士へ

管理監督者であるとされていても、実際には「名ばかり管理職」であるという場合があります
「自分には適切に賃金が支払われていない」といった懸念がある場合には、弁護士にご相談ください。

  1. (1)管理監督者の該当性を適切に判断できる

    管理監督者に該当するかどうかは、肩書や役職名ではなく経営者と一体的な立場にあるかどうかといった実質面で判断をすることになります。
    そのため、労働者個人では管理監督者の該当性を正確に判断することは困難です

    会社から「管理監督者にあたるため残業手当は支給されない」といわれた方は、本当に自分が管理監督者に該当するかどうかを判断するためにも、弁護士に相談することを検討してください。

  2. (2)未払いの残業代を請求することができる

    労働基準法上の管理監督者に該当しないにもかかわらず、名ばかり管理職として残業代が不支給となっている方は、過去にさかのぼって未払いの残業代を請求することができます。
    しかし、残業代を請求する場合には、労働者の側で「残業をした」という事実を立証する必要があります。

    特に名ばかり管理職の場合には、一般労働者のような勤怠管理がなされておらず、残業時間の立証が困難であるケースも多々あります。
    このような場合には、個人で対応することは困難であるため、専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくようにしましょう

    さらに、過去の残業代を請求する場合には、「時効」という問題もあります。
    「自分が名ばかり管理職である」という可能性に気が付いた方は、お早めに弁護士にご相談ください。

5、まとめ

管理監督者は、経営者と一体的な立場にあるため、一般労働者に適用される労働時間規制などが適用除外となっています。
管理監督者の要件を正しく理解していない会社では、単に肩書や役職名だけで管理監督者性を判断されている場合もあるため、心当たりのある方は早めに弁護士に相談しましょう。

名ばかり管理職にされていることや、未払い賃金など、労働問題についてお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスまでご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています