最短で退職したい! 2週間前までに伝えれば法的には問題ない?
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令和5年7月31日に公表された「北海道労働局における『令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況』」によると、自己都合退職についての相談は1926件あり、民事上の個別労働紛争の相談内容としては全体の15.6%を占めていることがわかりました。
勤めている会社をできるだけ最短で退職したいと考えたとき、どのぐらい前に会社へ退職の旨を伝えればいいのかお悩みの方もいるでしょう。退職を告げても拒否されてしまうケースもあるかもしれません。
本コラムでは、最短で退職できる期間や退職時のトラブルの対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、最短で何日に退職可能?
まず、退職を決断した場合、最短で何日あれば退職できるかについて解説します。
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(1)退職とは? 解雇との違い
「退職」とは、労働者からの一方的な申し出によって会社との労働契約を終了させることをいいます。
これに対して「解雇」とは、会社からの一方的な申し出による労働契約の終了のことをいいます。
退職の理由は、キャリアアップのための転職、結婚・子育て、親の介護、病気など人それぞれです。
なお、自己都合で退職する場合には、失業保険の基本手当の受給の際に、会社都合による退職と比べて給付時期や給付期間が不利になる点に注意してください。 -
(2)最短2週間で退職可能
労働者が会社と期間の定めのない労働契約を締結している場合には、労働者からいつでも退職の申し出をすることができ、労働者の退職の申し出から2週間を経過することによって、退職の効力が生じます(民法627条1項)。
すなわち、退職をする場合には、法律上、最短で2週間前に会社に伝えれば足りることになります。
もっとも、会社によっては「退職する場合には1か月前までに退職の申し出をする」などの就業規則の定めがあることもあります。この場合でも、法律上の期間の定めは労働者が不当に拘束されないようにするための期間であるため、就業規則よりも法律が優先されることになると考えられます(広告代理店A社元従業員事件:福岡高判平成28年10月14日労判1155号37頁は民法627条1項を強行規定と解していますが、争いがあります。)。
そのため、就業規則で1か月前に退職の申し出をしなければならないと定められていたとしても、法律上は、最短2週間で退職することが可能と考えられます。
ただし、通常、就業規則の定めは、会社の業務の引き継ぎのために必要な期間を設定したものと考えられます。退職まで時間に余裕があるのであれば、しっかりと引き継ぎを行ってから退職したほうが、会社とのトラブルを避けやすくなるでしょう。
2、ただし雇用契約によっては無効となる可能性も
労働契約の内容によっては、退職までの期間が異なる場合もある点に注意が必要です。
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(1)期間の定めのある労働契約は要注意
契約社員は正社員と異なり、1年間などの期間を定めて会社と労働契約を締結するのが一般的です。このように期間に定めのある労働契約を締結している場合には、その期間内は会社で働くことを約束しているため、原則として労働者が一方的に退職をすることはできません。
しかし、期間の定めのある労働契約であったとしても、やむを得ない事情がある場合には、例外的に退職することが可能です。
この場合には、労働者は退職の申し入れ後、即時に退職することができます。
なお、やむを得ない事情があるかどうかについては、事案に応じて個別に判断されることになります。
具体的には、妊娠・出産、子育て、親の介護、病気などが「やむを得ない事情」にあたると判断されやすくなっています。
したがって、期間の定めのある労働契約の場合には、やむを得ない事情を主張して即時に退職をするか、期間満了を待って退職するかを選択することになります。 -
(2)年俸制や月給制の場合は関係がない
年俸制や月給制の労働契約であることを理由に、「法律上、3か月前の申告でなければ退職を認めることはできない」などと上司や会社側から告げられ、退職の申し出を無視されてしまうことがあるかもしれません。
確かに、民法627条3項では「6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申し入れは、3か月前にしなければならない。」と定められています。しかし、これは、年俸制のような給与体系を採用しているケースについて雇用者側(使用者)に対して課されたものです。
したがって、労働者の側から退職を申し出る場合には、通常の場合と同じように、最短2週間で退職できます。
また、完全月給制であっても同様です。民法627条2項では「期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申し入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申し入れは、当期の前半にしなければならない。」と定められていますが、使用者側が労働者との契約を打ち切るときの期間期限です。
したがって、たとえ月給制の労働契約を結んでいたとしても、労働者の側から退職の申し出をする場合には、最短2週間で退職することができます。
お問い合わせください。
3、退職するまでの基本的な流れ
会社を退職する場合には、一般的に以下のような流れで行います。
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(1)退職の意思表示
退職を決断した場合には、まずは直属の上司にその旨を伝えるようにしましょう。
法律上は2週間前に退職の申し出をすれば足りることになりますが、急な退職は業務の引き継ぎや後任者の手配が間に合わない可能性もあり、会社に対して迷惑をかけることになります。
そのため、退職を決断した場合には余裕のあるタイミングで早めに伝えることが大切です。 -
(2)退職届の提出
法律上は退職届や退職願の提出は義務付けられていないため、退職の意思表示をすれば2週間の経過で退職をすることができます。
もっとも、多くの企業では、就業規則などで退職にあたって退職届の提出を義務付けています。円満に退職をするためには、会社のルールに従って退職届を提出するのがよいでしょう。
また、会社が退職することを認めてくれないなどトラブルが生じた場合には、いつ退職の意思表示をしたのかが重要になります。提出された退職届は「退職の意思表示をした」という証拠になるため、トラブルの際に労働者にとって有利な材料となるでしょう。 -
(3)業務の引き継ぎ
自分が担当していた業務については、後任の担当者に引き継ぎを行う必要があるでしょう。
後任の担当者に同行して取引先をまわったり、引き継ぎのための資料を作成したりすることで、引き継ぎがスムーズに進みます。
「業務の引き継ぎが面倒だから」という理由で一切業務の引き継ぎをせずに会社を辞めてしまった場合には、それによって会社に損害が生じると会社から損害賠償請求をされるおそれがある点に注意してください。 -
(4)有給休暇の消化
未消化の有給休暇がある場合には、退職希望日までに消化をすることができるよう、会社に申し入れをしましょう。
「引き継ぎのために出社をしなければならない」などの理由で、退職希望日までに有給消化ができないという場合には、退職希望日をずらすか、会社に有給休暇を買い取ってもらえるように交渉するとよいでしょう。 -
(5)退職
退職の申し出から2週間または労働者と会社の間で決めた退職日に、労働契約は終了となります。
退職後は、失業保険の手続きを忘れずに行うようにしましょう。
4、退職の申し出や退職届の受理を拒否されたら
労働者から退職の申し出や退職届の提出をしたとしても、会社側からそれを拒否されることもあります。たとえば、「後任がいないから退職は認めない」、「こんな忙しい時期に退職するなんて非常識だ」などといわれて、退職を却下されるケースです。
しかし、期間の定めのない労働契約を締結している場合には、労働者はいつでも退職の申し出をすることができます。退職するかどうかは労働者が自由に決められることであるため、会社の承諾は必要とされません。つまり、会社が労働者からの退職の申し出を拒否する行為自体には、何ら法的根拠がありません。
このような場合には、「退職の申し出をしたこと」およびその時期を明確にする証拠を残すためにも、会社に対して内容証明郵便で退職届を送ることをおすすめします。
会社が退職を拒否していたとしても、退職届を受領した日の翌日から2週間を経過した時点で退職の効果が生じます。ご自身で対応することが難しいという場合には、弁護士による退職代行サービスを利用することも検討してください。
なお、「退職したら損害賠償請求をする」と会社にいわれたとしても、法律上の予告期間である2週間前に退職の意思表示をして退職する行為自体は何ら違法な行為ではなく、契約違反にもなりません。
そのため、原則として、「退職すること」そのものが理由で損害賠償請求を受けるということはないのです。
5、まとめ
正社員のように期間の定めのない労働契約を締結している場合には、退職の申し出から2週間を経過することによって退職することができます。つまり法律上、最短2週間で退職することが可能です。
しかし、一般的には、業務の引き継ぎなどを行うためにも余裕をもって退職の申し出をしたほうが無用なトラブルを防げるでしょう。
もし、「会社が退職を認めてくれない」「退職金を支払ってくれない」「未払いの残業代がある」などのトラブルが生じた場合には、労働者個人で対応することが難しい可能性があります。
その際には、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスへ、お気軽にご相談ください。労働問題についての知見が豊富な弁護士が、あなたのトラブルを解決までサポートします。
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