トラックドライバーにも残業代はある可能性が! 退職前に請求する方法

2020年12月21日
  • 残業代請求
  • トラックドライバー
  • 残業代
トラックドライバーにも残業代はある可能性が! 退職前に請求する方法

厚生労働省北海道労働局は、令和元年8月29日に自動車運転者を使用する、事業場に対する平成30年の監督指導状況を発表しました。北海道労働局管下の17の労働基準監督署において、労働基準関係法令違反が認められたのは、180事業場で全体の84.1%にもなります。そして、労働基準関係法令違反事項のうち、労働時間に関するものが53.7%を占めることがわかります。

運送会社で勤務するトラックドライバーは、長距離を運転するという性質上、労働時間が平均よりも長くなる傾向にあります。他方、労働時間が長時間になっているにもかかわらず、それに見合った残業代をもらっていないというケースも多く存在します。ご自身の給与体系では、残業代はないと諦めてはいませんか?

トラックドライバーにも残業代がある可能性があります。今回は、トラックドライバーの残業代についてベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代請求には時効があることに注意

未払いの残業代があってもすぐに請求せずに、会社を辞めるときにまとめて請求すればよいと考えている方もいるかもしれません。しかし、残業代請求には、以下のとおり時効という期間制限がありますので、注意が必要です。

  1. (1)残業代請求の時効とは?

    一定期間権利を行使しないと権利が消滅することを「時効」といいます。残業代についても、支払われていないまま放置していると、一定期間で消滅し、会社に対して請求することができなくなってしまいます。

    残業代請求権の時効期間については、労働基準法の改正があり、以下のような変遷がありましたので、今後請求する場合には注意が必要です。

    ●従来の時効期間は2年
    改正前の民法では、債権の時効期間は10年でしたが、労働の対価についての債権は、1年という短期消滅時効が適用されていました。しかし、1年では労働者の保護に欠けるということで、労働基準法により、残業代請求権の時効は2年とされていました。

    ●現在の時効期間は当面3年
    民法が改正され、債権の消滅時効は、権利行使ができることを知ったときから5年に統一され、以前の短期消滅時効の規定は削除されました。

    これにより、改正民法では、債権の消滅時効が5年とされているにもかかわらず、労働者を保護する労働基準法では、民法の規定よりも短い2年となってしまい、矛盾が生じることになりました。

    そこで、労働基準法の、残業代の時効期間の延長が審議され、2020年4月1日から改正された労働基準法が施行されることになりました。改正労働基準法によると、残業代請求権の時効期間は、5年に延長されましたが、施行から当面の間は3年間とされています。

    いきなり5年に引き上げてしまうと、さまざまな影響が出てしまうため段階的に引き上げていくことになったようです。

    したがって、2020年4月1日以降に支払われる残業代については、改正労働基準法が適用され、3年間で時効になります。

  2. (2)残業代の時効の起算点はいつ?

    労働基準法115条は、時効の起算点として「賃金の請求権はこれを行使することができる時から」と規定しています。

    残業代請求の場合、権利を行使することができるときとは、給料日がこれにあたりますので、給料日の翌日から時効期間は進行することになります。

2、トラックドライバーによくある報酬体系と残業代の関係

トラックドライバーの場合、勤務する企業によっては、以下の歩合制や固定残業代などの給与体系がとられている場合があります。

このような給与体系の場合には、残業代を請求することができないと誤解されている方も多くいますが、実は、残業代を請求することができる場合もあります。

以下では、トラックドライバーによくある報酬体系と残業代の関係について説明します。

  1. (1)歩合制

    歩合制とは、個人の売り上げや成績によって給料が決まる給与体系のことをいいます。
    トラックドライバーの場合、このような歩合制がとられていることがあります。

    歩合制には、以下の2つの形式が考えられますが、②については、最低賃金を割り込む可能性があることから原則違法とされています。したがって、歩合制としては、①がとられていると考えていいでしょう。

    1. ①固定給+歩合給(固定給と成績に応じた歩合給が支払われる給与体系)
    2. ②完全歩合給(固定給はなく、成績に応じた歩合給のみが支払われる給与体系)


    そして、歩合制であったとしても、1日8時間もしくは週40時間の法定労働時間を超えて労働をした場合には、当然に残業代が発生します。

    このことは、歩合給のタクシードライバーが残業代を請求した事案で、最高裁判所は、会社に残業代の支払い義務があることを認めていることからも明らかです。(最判平成6年6月13日 高知県観光事件)

  2. (2)固定残業代や定額残業代

    固定残業代とは、「一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金」と定義されています。たとえば、「基本給を20万円とし、30時間分の残業代として10万円を別途支給する」といった給与体系がこれにあたります。

    固定残業代は、会社側としては、面倒な残業代の計算を省略できるメリットがあり、労働者側としても、残業時間が少なくても定額の残業代が受け取れるというメリットがあり、広く利用されているものです。

    固定残業代を導入するには、従業員に周知をし、残業代の金額と残業時間を明確にしなければなりません。

    固定残業代を導入した場合、予定していた残業時間の範囲内であれば、固定残業代以外に残業代を支払う必要はありませんが、予定していた残業時間を超えて労働をした場合には、固定残業代とは別に残業代を支払う必要があります。

    会社側から「固定残業代を支払っているから、残業代を支払う必要はない」と言われたとしても、それは誤りですので気を付けましょう。

  3. (3)荷待ち時間は労働時間

    トラックドライバーの場合、荷待ち時間が休憩時間として扱われ、その時間に対しては給料が支払われないというケースも少なくありません。

    労働基準法において、労働時間とは、使用者による指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。荷待ち時間についても、使用者の指揮命令から完全に解放された自由な時間というわけではなく、その間も会社の命令でその場にとどまることを強いられているのであれば、労働基準法の労働時間に該当します。

    したがって、荷待ち時間も労働時間であることになります。

3、残業代請求の準備方法とは

トラック運転手の残業代はどのように計算したらよいのでしょうか? 以下では、残業代計算の方法と証拠の集め方について説明します。

  1. (1)残業代の計算方法

    歩合制がとられているトラックドライバーの残業代計算方法は、次のとおりです。

    残業代=(固定給部分の1時間あたりの基礎賃金×125%×残業時間)+(歩合部分の1時間あたりの基礎賃金×25%×残業時間)


    歩合制の場合、1時間あたりの基礎賃金は、固定給部分と歩合部分を分けて計算します。

    <固定給部分>
    1時間あたりの基礎賃金=月給÷月平均所定労働時間
    なお、以下の手当ては、基礎賃金計算の際の月給には含まれません。(もっとも、手当の計算方法によっては、含まれることもあります。)

    • 家族手当
    • 通勤手当
    • 別居手当
    • 子女教育手当
    • 住宅手当
    • 臨時に支払われた賃金
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

    <歩合部分>
    1時間あたりの基礎賃金=歩合給÷総労働時間
  2. (2)残業代の請求には証拠が必要

    残業代を請求しようとする場合には、残業時間を証拠により立証することが何よりも重要となります。トラックドライバーの場合には、以下のような証拠を集めるとよいでしょう。

    • タイムカード
    • 業務日報
    • デジタルタコグラフ、タコメーター
    • 車両無線の記録
    • 高速道路料金の領収書、ETCの利用明細
    • アルコール検知の実施記録
    • 業務報告のメール
    • ドライブレコーダーの記録
    • メモ、日記など

4、長時間労働で病気になってしまった場合、会社を訴えることはできる?

長時間労働をした場合に、残業代を請求することができることは、すでに説明したとおりです。それに加えて、長時間労働を強いられたために、健康面や精神面に支障をきたすようになった場合には、会社に対して慰謝料を請求することができる場合があります。

労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定し、会社には労働者に対し、安全配慮義務があることを認めています。

会社によって長時間労働を強いられ、うつ病などの症状を発症したような場合には、この安全配慮義務違反を理由に、会社を訴えることが可能です。

この場合、長時間労働と、うつ病発症との因果関係の立証が必要になります。立証には専門的な判断が必要になりますので、弁護士に相談するとよいでしょう。

5、残業代請求を弁護士に依頼したほうがいい理由

残業代請求を弁護士に依頼すると、以下のようなメリットがあります。

  1. (1)正確な残業代計算ができる

    トラックドライバーの場合には、歩合制や固定残業代など通常とは異なる給料体系がとられている場合が多く、残業代計算の方法も通常の月給制の場合に比べて複雑なものとなります。残業代と併せて深夜労働もしている場合には、割増率も変わってきて、さらに複雑な計算となります。

    残業代を正確に計算するためには、法律の正確な理解と知識が不可欠となりますので、ご自身で正確な計算をすることは難しい場合が多いです。
    そのような場合には、法律の知識経験が豊富な弁護士に依頼することが、最善の方法といえるでしょう。

  2. (2)会社との交渉を一任できる

    労働者は、会社に比べて弱い立場にあります。そのため、労働者自身で残業代請求の交渉をしてもまともに取り合ってもらえないという場合も少なくありません。

    弁護士であれば、労働者に代わって会社と交渉をすることができます。交渉により解決できない場合であっても、労働審判や訴訟の代理人として対応することもできます。

    残業代が未払いになっている可能性があるのであれば、弁護士に依頼し手続きを一任することで、安心して次の転職先を探すことができるといえるでしょう。

  3. (3)証拠収集を的確に行うことができる

    残業代請求をするためには、残業をしたことを証拠により立証する必要があります。どのような証拠が必要となるかについては、事案によって異なってくるため、正確に取捨選択するためには、法律の知識と経験が不可欠となります。

    弁護士であれば、的確な証拠選択を行うことができますし、会社によって証拠の隠滅のおそれがあるようであれば、証拠保全の手続きを行うこともできます。

6、まとめ

運送業は、統計からみても労働時間が長時間化している業種のひとつです。そのため、トラックドライバーの場合には、正確に残業代を計算すると相当な残業代が未払いになっているということも珍しくありません。

残業代のことでお悩みの場合には、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています