教員も変形労働時間制の残業代請求ができる? 計算方法や請求条件は

2021年12月14日
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教員も変形労働時間制の残業代請求ができる? 計算方法や請求条件は

平成29年12月に、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(以下では「給特法」といいます)が改正され、公立学校の教職員にも、変形労働時間制を取り入れることが可能となりました。

もっとも実際に変形労働時間制を採用するかは都道府県の判断であったところ、北海道では全国に先駆けて、変形労働時間制を採用する条例を制定・施行しており、関心が高まっています。

他方、すでに変形労働制で働いている私立の教職員は多数います。そこで今回は、変形労働時間制の概要、変形労働時間制の残業代の計算方法を、公立学校の教職員の方の場合とも関連させ、札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、変形労働時間制とは

  1. (1)使用者側から見た変形労働時間制の概要

    使用者とは、労働者を雇用する方を指します。一般的には会社や雇用主などと呼ばれることが多いかもしれません。

    そもそも変形労働時間制とは、単位となる一定の期間において、その単位期間内の所定労働時間数の平均が、週の法定労働時間(40時間)の範囲に収まっていれば、1週や1日の法定労働時間を超える週や日があったとしても、法定労働時間を超えたものとしては扱わないことを認める制度のことをいいます。

    変形労働時間制を採用することで、使用者にとっては以下のメリットがあります。

    • 繁忙期の所定労働時間が法定労働時間を超えていたとしても、繁忙期以外の週の所定労働時間をその分短く設定し、変形労働時間制を採用する基準を遵守すれば、割増賃金の支払いは不要(労基法37条)。
    • 法定労働時間の規制(労基法32条)に違反しない。


    よって、変形労働時間制は、業務量が増え労働時間が増加する時期とそうでない暇な時期があるような業態の場合、メリットがある制度といえます。

    そして、労基法では、1か月単位、1年単位、1週間単位の3類型の変形労働時間制が認められています。いずれもそれぞれ単位となる期間についての所定労働時間の平均が週40時間以内であれば、個別に法定労働時間を超える日や週があったとしても、労働させることができます。

    具体的には以下の通りです。

    ● 1か月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)
    労基法32条の2で定められています。使用者は、当該事業場の過半数労働組合または過半数代表者との労使協定または就業規則などで、1か月以内の一定の期間を平均し1週間あたりの労働時間が40時間を超えない定めをしたときは、特定された週や日において、1週40時間、1日8時間を超えて労働させることができるとされています。

    就業規則などで単位となる一定の期間における各週や各日の所定労働時間を具体的に定める必要がある点には、注意する必要があります。

    ● 1年単位の変形労働時間制
    1年単位の変形労働時間制は労基法32条の4で定められています。使用者は、当該事業場の過半数労働組合または過半数代表者との労使協定により、1か月を超えて1年以内の一定の期間を平均した1週間あたりの労働時間が40時間を超えない定めをした場合には、特定の週や日において1週40時間、1日8時間を超えて労働させることができるとされています。

    ● 1週間単位の変形労働時間制
    1週間単位の変形労働時間制は、労働者数・職種などによる制限があります。たとえば、労働者が30人未満の小売業や旅館、飲食店などでは、事業場の過半数労働組合、過半数代表者との労使協定によって、1週間の単位で労働時間が法定労働時間内である限り1日について10時間まで労働させることができます(労基法32条の5第1項)。

  2. (2)教員側から見た変形労働時間制と残業

    労働者は、変形労働時間制であっても、時間外勤務手当、つまり残業代を請求できるケースがあります。

    ただし、公立学校の教職員は、給特法3条2項の規定によって、時間外勤務手当などは支給しないこととされており、残業代を請求することは認められていません

    給特法3条2項
    教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。


    その代わり、公立学校の教職員には教職調整額が支給される(給特法3条1項)という仕組みになっています。

    給特法3条1項
    教育職員(校長、副校長及び教頭を除く。以下この条において同じ。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額を基準として、条例で定めるところにより、教職調整額を支給しなければならない。


    他方、すでに変形労働時間制が採用されている私立学校は多数あります。私立学校の教員には前述の給特法は適用されません。学校で勤務する教職員であっても、雇用される側ですので、労働基準法における労働者に該当します。したがって、特定の条件を満たしていれば未払い分の残業代を請求することができます。

2、教員に変形労働時間制が導入されやすい理由

変形労働時間制は、前述のとおり、業務の忙しさなどによって労働時間を日ごとに設定できる制度です。1か月や年間で見れば総労働時間が増えるという制度ではないため、時期によって繁閑の差がある業態では、特に採用するメリットが大きい制度であるといえます。

一般的に教員の業態では、繁忙期である3・4月がある一方で、夏季休暇の時期があります。そのため、その時期の教職員にまとまった休暇を取得できるようにすることを目的に、変形労働時間制を採用するケースが多いようです。

公立学校の教職員については、令和元年12月に給特法が改正され、変形労働時間制を採用することが可能になり、北海道では全国に先駆けて条例を制定したことは前述のとおりです。本来の目的通りに変形労働時間制が機能するのであれば、教員自身にとっても繁閑にあわせた勤務時間を実現できるため、メリットがあるといえます。

他方で、変形労働時間制を機能させるためには、勤務時間を慎重に管理することが求められます。さらに実務上、児童や生徒の登下校時間の対応・部活動等の対応、昼休み中の生徒指導や教材研究などがあることなどから、現実的に機能するのか、運用としてうまくいくのか疑念を呈する声もあがっています。公立校においては、この制度が導入されたばかりなので、今後どうなるのか、実際の運用状況を確認する必要があるかもしれません。

3、変形労働時間制における「残業」とは

一定の条件の下、繁閑にあわせて労働時間を柔軟に扱う変形労働時間制であっても、時間外労働があれば残業代(割増賃金を含む)が発生する場合があります

たとえば、以下のそれぞれのケースを見てみましょう。
● 1日の所定労働時間が10時間と定められている日に10時間労働した(1週間の労働時間が40時間以内のとき)
⇒残業代(時間外手当)はつかない
法定労働時間は8時間なので、1日の労働時間が法定労働時間を2時間超えています。しかし、変形労働時間制によって1日の所定時間が10時間と定められている日なので、時間外手当はつきません。

● 1日の所定労働時間が6時間と定められている日に10時間労働した
⇒残業代(時間外手当)はつく
所定労働時間を4時間超え、さらに法定労働時間を2時間超えて働いているため、2時間分の残業代(基本給2時間分と、2時間分の時間外手当)を求めることができます。

4、変形労働時間制の残業代計算方法

変形労働時間制であっても基本的な残業代計算方法は変わりません。すなわち、所定時間外労働時間数×基礎となる賃金、もしくは法定労働時間外の労働時間数×基礎となる賃金×割増率によって計算します。

したがって、変形労働時間制ではどの部分が時間外労働に該当するのか、という点が時間外労働によって生じる残業代を算定するポイントになります。なお、変形労働時間制であっても、深夜労働や休日労働があった場合には、通常の場合と同様に割増賃金が発生します。

  1. (1)1か月単位の変形労働時間制の場合

    ①(日ごと)→②(週ごと)→③(単位期間)の順序で計算を行います。

    ①所定労働時間が8時間を超えている日は、所定労働時間を超えた分すべてが時間外労働となり、所定労働時間が8時間に満たない日は、8時間を超えた分だけが時間外労働となります。

    ②所定労働時間が週40時間を超える週がある場合、実労働時間が所定労働時間を超えた部分から①で計算した当該週の時間外労働時間を差し引いた時間が時間外労働に該当します。他方、所定労働時間が週40時間を超えない週は、40時間を超えた実労働時間のうちで①で計算した当該週の時間外労働時間を差し引いた時間が時間外労働になります。

    ③さらに、①日ごと、②週ごとに計算した時間外労働を除外し1か月の法定労働時間を超えた分を時間外労働として加算します。

  2. (2)1年単位の変形労働時間制の場合

    この場合も基本的な考え方は1か月単位の場合と同様です。

    ①所定労働時間が8時間を超えている日は、所定労働時間を超えた分すべてが時間外労働となり、所定労働時間が8時間に満たない日は、8時間を超えた分だけが時間外労働となります。

    ②所定労働時間が週40時間を超える週は、実労働時間が所定労働時間を超えた部分から①で計算した当該週の時間外労働時間を差し引いた時間が時間外労働に該当します。他方、所定労働時間が週40時間を超えない週は、40時間を超えた実労働時間のうちで①で計算した当該週の時間外労働時間を差し引いた時間が時間外労働になります。

    ③このように、①日ごと、②週ごとに計算した時間外労働を除外し1年の法定労働時間を超えた分が時間外労働となります。

  3. (3)1週間単位の変形労働時間制の場合

    ①所定労働時間が8時間を超えている日は、所定労働時間を超えた分すべてが時間外労働となり、所定労働時間が8時間に満たない日は、8時間を超えた分だけが時間外労働となります。

    ①で算出した時間外労働を控除し、週40時間を超えた部分が時間外労働となります。

5、まとめ

教職員の労働現場で採用されやすい変形労働時間制の場合、通常の割増賃金の対象となる残業代請求を行う場合よりも、計算が複雑となります。未払い残業代があるのではないかとお考えの場合は、豊富な対応経験や知見を持つベリーベスト法律事務所 札幌オフィスへご相談ください。

公立学校の教員の場合、現状は給特法によって残業代請求できないものの、近年は割増賃金の支払いを求める訴訟が提起されています。過酷な労働環境などがあるのであれば、残業代請求とは別の観点から損害賠償を求める方法も検討できます。まずは弁護士にご相談ください。

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