やりがい搾取とは? 搾取されていたとき行うべき法的な対応方法
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北海道労働局が公表している、「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、令和2年度の総合労働相談件数は、4万1846件であり、前年度と比べると2909件も増加し、過去最多の数字となっています。総合労働相談は、あらゆる労働問題に関する相談に対してワンストップで対応するための相談窓口であることから、北海道では労働問題に悩む労働者の方が多いことがわかります。
好きなことを仕事にしている人に対しては、「毎日が楽しく満足度が高そう」などのイメージを持たれる方も多いかもしれません。たしかに、好きなことを仕事にすることできれば、楽しくてやりがいも得られそうです。しかし、長時間労働や休日出勤を強いられる、低い労働条件で働かなければならなくなると、次第に仕事がつらくなってくることがあります。
最近では、このような労働者のやりがいを利用して、不当に低い労働条件で働かせることは「やりがい搾取」と呼ばれるようになりました。本コラムでは、やりがい搾取をされた場合に労働者がとれる法的な対応について、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、「やりがい搾取」とはどういう意味か
まず、「やりがい搾取」という単語の意味や、やりがい搾取が起こる原因について解説します。
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(1)やりがい搾取とは
やりがい搾取とは、仕事に対して有する労働者のやりがいを利用して、長時間労働や低賃金といった不当に低い労働条件で労働者を働かせることをいいます。
仕事に対してやりがいを持つということは、仕事へのモチベーションの向上やスキルアップにつながるため、働くうえではとても重要な要素となります。
労働者をやりがいのある仕事に就かせることには、充実感や達成感といった労働者側にとってのメリットだけでなく、優秀な人材の確保や人材育成に寄与して企業の競争力の向上にもつながるなど、会社にとってのメリットもあります。
しかし、労働者のやりがいにつけこんで不当に労働力の搾取が行われると、労働者は劣悪な労働環境の下で働かされることになり、労働者の心身の健康を害してしまうという事態が生じてしまいます。
やりがい搾取の被害にあうと、正当な対価を受け取ることなく働くことになります。結果として、その業界全体の賃金相場を下げてしまうことにもなりかねません。 -
(2)やりがい搾取が生じる原因
やりがい搾取が生じる原因としては、主に以下のような理由が挙げられます。
① 人件費削減
やりがい搾取をすることによって、会社側としては低賃金で労働者を雇うことができ、結果として人件費を削減することができます。
いわゆるブラック企業では、仕事に対するやりがいを理由として不当に低い労働条件で労働者を働かせていますが、この背景には、「人件費を削減して、会社の利益を上げたい」という経営者の意図があります。
② 職場環境
能力や成果が適切に評価されない職場環境は、やりがい搾取が生じる一因です。
昇進や昇給が望めないような職場環境では、仕事自体にやりがいがあったとしても、将来に希望を持つことができません。その結果、せっかく夢であった仕事に就くことができた方が、やりがい搾取によって挫折してしまう事例もあるのです。
③ 経験の乏しさ
社会経験の乏しい新入社員や未経験の職種に転職したばかりの方などは、やりがい搾取に遭いやすいといえます。
このような方々は、「早く仕事に慣れたい」という気持ちから仕事に対して前向きな気持ちを持っていることが多いでしょう。そのため、会社からすると、やりがいを理由に不当な労働条件で働かせやすい人材であると見なされるおそれがあるのです。
また、社会人としての経験が乏しいことから、やりがい搾取にあっていたとしても、それが不当な労働条件であることを意識することができない場合があることも、やりがい搾取を受けやすい一因となります。
2、やりがい搾取されている可能性があるケース
以下のようなケースでは、やりがい搾取をされている可能性がありますので注意が必要です。
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(1)残業や休日出勤をしても手当が支払われない
労働基準法では、原則として1日8時間1週40時間を法定労働時間としており、これを超えて使用者が労働者を働かせる場合には、時間外労働に対して残業手当などの割増賃金を支払わなければなりません。
また、労働基準法では、毎週少なくとも1回または4週間を通じて4日以上の休日を与えることが義務付けられており、休日出勤をさせる場合には、休日手当などの割増賃金を支払わなければならないのです。
しかし、やりがい搾取が行われている職場では、定時以降も当然のように残業が行われており、それに対する正当な対価が支払われていません。さらに、休日であっても「スキルアップのため」といった理由で出勤を強要されて、それに対する手当の支払いもない場合があるのです。
「こんなにやりがいのある仕事だから、サービス残業も仕方ない」などと思い込まされて、毎日のように長時間労働や休日出勤を強いられているなら、まぎれもなく「やりがい搾取」であると言えるでしょう。 -
(2)賃金が最低賃金を下回っている
最低賃金とは、最低賃金法に基づいて国が定めた最低限度の賃金額のことをいいます。
法律上、会社が労働者を働かせる場合には、最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。
しかし、やりがい搾取が行われている職場では、「好きなことを仕事にしているのだから仕方ない」、「スキルアップによって給料以上の経験ができる」などを名目にして、最低賃金を下回る賃金で働かされていることがあるのです。
最低賃金の対象となる賃金は、基本給と諸手当から時間外勤務手当、休日出勤手当、深夜勤務手当、通勤手当、家族手当、精皆勤手当などを除外したものとなります。
会社によっては、複雑な給料形態とすることによって、最低賃金を下回る賃金であることを労働者に気付かせないようにしているところもあります。 -
(3)有給休暇をとることができない
有給休暇とは、一定期間継続して勤務をした労働者に対して、心身の疲労回復を目的として付与される休暇のことです。そして、休暇を取得したとしても賃金を減額されることはありません。有給休暇の取得は、労働者の権利であり、労働者から有給休暇の取得の請求があった場合には、事業の正常な運営を妨げるといった事情がない限り、請求された時季に付与しなければならないのです。
やりがい搾取が行われている職場では、労働者から有給休暇の取得の請求があったとしてもそれを拒否されたり、そもそも法律上保障されているはずの有給休暇が付与されなかったりする、ということがあります。 -
(4)昇給や昇進がない
定期的な昇給や昇進がなかったからといって、直ちに法律違反となるわけではありません。しかし、労働者の能力や仕事の成果などを適切に評価して、それに応じて昇給や昇進を行うことは、労働者のモチベーションを向上させることになります。そのため、会社としても、本来は定期的な昇給や昇進が行われるのが望ましいといえます。
長期間継続して勤務しているにもかかわらず、まったく昇給や昇進が行われないという場合には、「やりがいを与えているのだから、これ以上の給与は与えなくていい」と会社に判断されている、やりがい搾取が行われている可能性があるといえます。
3、法的に問題がありそうなときの相談先
違法なやりがい搾取が行われている可能性がある場合には、以下の窓口にまでご相談ください。
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(1)労働基準監督署
労働基準監督署は、労働者からの申告に基づいて、労働基準法違反があるかどうかを調査する期間です。違反が認められる場合には、是正のための指導勧告などが行われます。
違法な長時間労働や休日出勤を強いられている、最低賃金を下回る賃金で働かされているなどの場合には、労働基準監督署に相談をすることによって、そのような状態が改善される可能性があります。
ただし、労働基準監督署による指導勧告は、あくまでも行政指導として行われるものです。したがって、強制力はなく、会社側が任意に従わなければ改善が見込めません。
また、労働基準監督署で扱うことができる労働問題は限られているため、相談に行ったとしても対応してもらえない場合もあります。 -
(2)弁護士
弁護士であれば、労働者の方に代わって会社と交渉を行うことができます。
また、弁護士に相談すれば、違法な労働条件の改善を求めていくことや未払いの残業代などを請求していくことについて、専門的な観点から検討・実行することができます。
4、弁護士に相談したとき行えるアドバイスと対応
弁護士に相談をした場合には、以下のような対応をしてもらうことができます。
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(1)未払いの残業代の請求
やりがい搾取によって、サービス残業を強いられている場合には、会社に対して未払いの残業代を請求することができる場合があります。
しかし、残業代請求をするためには、労働者の側で、「残業をした」という事実と「残業時間」を、証拠によって証明しなければならないのです。
弁護士に相談することによって、どのような証拠が必要となるか、アドバイスを受けることができます。また、弁護士に依頼をすることよって、具体的な証拠収集、残業代の計算、会社への請求といった一連の手続きをすべて任せることができます。
やりがい搾取によって心身ともに疲弊した状態では、会社と対等に話し合いを進めていくことも困難でしょう。ぜひ、弁護士にお任せください。 -
(2)解雇無効の確認
やりがい搾取によって不当な労働条件で働かされている労働者のなかには、労働条件の改善を求めて、会社に話し合いを求める方もおられます。
しかし、やりがい搾取をしている会社としては、「そのような要求をする労働者は会社にいても面倒だ」として、すぐに解雇してしまうことがあるのです。
解雇をするためには、法律で定められている厳格な要件を満たさなければなりません。そのような要件を満たしていない場合には、不当解雇として無効となります。
弁護士に相談をすれば、不当解雇であるかどうかを判断してもらうことができます。そして、不当解雇である場合には、弁護士が会社に対して解雇無効を主張して、職場への復帰を求めたり損害賠償を請求したりすることができるのです。
5、まとめ
やりがい搾取は、仕事へのやりがいにつけ込んで、不当に低い労働条件で労働者を働かせる行為です。
労働者の権利は労働基準法で保障されており、残業代などについても、正当な対価を受け取る権利があります。
「自分はやりがい搾取を受けていた」と気が付いたら、毅然(きぜん)として労働者としての権利を主張することが大切です。
北海道にご在住で、ご自身の労働環境に疑問を感じている方は、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスにまでご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています