交通事故の被害に遭ったとき、確認すべき弁護士費用特約のメリットとは
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2019年3月、北海道知事選の選挙期間中に選挙カーが相次いで交通事故に遭うというニュースがありました。シャーベット状になった雪が原因だったようです。北海道の冬はスリップ事故も多発しますし、積もった雪で道幅が狭くなっていたり、センターラインが見えなくなっていたりと、交通事故の危険でいっぱいです。
不慮の交通事故に遭えば、大切な車のこと、ケガのこと、仕事のことなどたくさんの不安が出てきます。誰に相談しようか、家族、恋人、友人、同僚などに誰か詳しい人がいないか、色んな顔が思い浮かびます。そんなとき、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。弁護士に相談すると多額のお金がかかってしまうという心配があるかもしれません。そのときはぜひ加入する自動車保険に弁護士費用特約が付いていないか、確認してください。弁護士費用特約さえあれば、費用の心配がなくなることがほとんどです。今回は、その弁護士費用特約についてベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が説明します。
1、弁護士費用特約とは
弁護士費用特約は、自動車保険に任意で付帯する特約条項です。特約条項というのは、保険の基本的な決まりごとに追加して、保険会社との間でする特別な決めごとをいいます。そして、弁護士費用特約は、その名のとおり、交通事故に遭って、弁護士に相談や依頼をしたときにかかる費用を保険会社が補償してくれるというものです。では、弁護士費用特約について、もう少し詳しく解説していきましょう。
弁護士に相談、依頼するときの費用ということですが、知っておいていただきたいことがあります。それは、交通事故に遭って保険の適用対象となる人に損害が生じたときに、その損害の賠償を請求するために弁護士に相談、依頼した際に要することとなった弁護士に支払う費用を補償してくれるのが弁護士費用特約であるということです。
たとえば、交通違反で捕まったときに免停になるのかどうかについて相談したいときや、加害者になってしまって被害者からの請求に対応しなければいけないという場合は、自身の損害の賠償を求める場面ではありませんので、弁護士費用特約は使えません。あくまで、自身の損害の補償を、加害者に対して求めるときにだけ使えるわけです。
なお、自身の損害の補償を求めるためであれば、過失割合は問われません。よく、0:100の被害者でないと弁護士費用保険は使えないと勘違いされることも多いですが、そうではなくて、極端な話、99:1で事故の加害者の立場であっても、自身に何らかの損害が生じていて、その1%分の責任を相手方に追及できる立場にあるのであれば、弁護士費用特約を使うことができます。
弁護士費用特約で補償される弁護士費用の金額は、多くの保険会社で、弁護士に相談する費用について10万円、弁護士に依頼するための費用(着手金・報酬金等)として300万円が上限に設定されています。
10万円の相談費用というと、依頼する前に10回前後は弁護士に相談できる金額になりますし、交通事故を弁護士に依頼したときに必要となる弁護士費用が大体のケースで数十万円から100万円程度であることを考えると、300万円の補償というのが、かなり手厚い補償であることが分かるでしょう。ちなみに、加害者から受け取る賠償額が1500万円を超える金額になれば弁護士費用が300万円を超えてしまうこともあり得ますが、そういった場合でも、被害者が自己負担するべき弁護士費用は300万円を超えた部分になりますので、被害者の負担は相当軽減されることでしょう。
また、弁護士費用特約を使うことのできる人は誰かというと、保険契約者だけではありません。多くの保険会社では、次の方が弁護士費用特約の適用を受けることができます。
- ①自動車保険に加入するときは、保険が適用される代表者を一人決めることになっています。これを記名被保険者といいます。当然ながら、記名被保険者は弁護士費用特約を使うことができます。
- ②記名被保険者の配偶者も弁護士費用特約を使うことができます。
- ③記名被保険者の同居の親族も弁護士費用特約を使うことができます。
- ④記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子も弁護士費用特約を使うことができます。
この①~④に該当する方であれば、他人の車に乗っているときでも、弁護士費用特約の適用が受けることができるのです。他にも、①~④の方が運転している車の同乗者も保険の適用を受けますし、保険を掛けた車に同乗していた人も、その保険の弁護士費用特約を使うことができます。
このように、自身が保険の契約をしていなくても、配偶者、親、同居の親族、運転者などが弁護士費用特約に加入していれば、弁護士費用特約の適用を受けることができるわけです。
2、弁護士費用特約を利用するメリット
弁護士費用特約を使うメリットというと、それは弁護士に依頼するための費用負担を極力減らしたうえで、弁護士に依頼することができるということに尽きます。弁護士に依頼すれば、事故に遭った後の対応方法について専門的なアドバイスを受けることができますし、慰謝料の増額の交渉にもあたってもらえます。万が一、後遺症が残ってしまったような場合には後遺障害申請といった専門的な手続きもお願いできますし、わずらわしい相手方との交渉の窓口になってもらうこともできます。訴訟まですることになったときには、複雑な訴訟手続きを一般の方がすることは極めて困難ですが、弁護士に依頼すれば、訴訟の対応を全て任せることができます。
このように、弁護士に依頼することには多くのメリットがあるわけですが、反面、それなりの費用がかかってしまうのが通常です。しかし、弁護士費用特約を利用すれば、弁護士に依頼するための費用の負担をなくしたり、グッと圧縮することができるわけです。
また、通常、保険を使うと保険等級がダウンして、次年度の保険料が増加してしまうのですが、この弁護士費用特約は使っても保険等級はダウンしませんので、次年度の保険料にも影響は生じません。つまり、弁護士費用特約を使うデメリットは全くないわけです。
3、弁護士費用特約を利用する場合の注意点
弁護士費用特約を使うときに、いくつか注意してほしいこともあります。
まず、弁護士費用特約を使うときには、相談する弁護士、依頼する弁護士を自分で決めることができるということです。
保険会社によっては、弁護士を紹介しますよと言ってくることがあります。ですが、保険会社と日頃付き合いのある弁護士は、そのマインドが保険会社寄りになっていることもあるので、保険会社寄りではなく、被害者寄りの考え方を持っている弁護士を自分で探したいという方もいます。そんな方は、自分で弁護士を探してきて、その弁護士に依頼してもいいのです。
次に、弁護士費用特約には、上述したとおり、支払額に上限があります。上限を超える弁護士費用が必要になれば、上限を超えた部分は自己負担になります。そのため、弁護士に依頼する前に、今回の依頼が弁護士費用特約の上限を超えることがあるのか、超えるとしたらどの程度自己負担が生じる可能性があるのかを確認するようにしてください。
また、弁護士費用の決め方についても、弁護士費用特約を使うときには一定のルールがあります。たとえば、弁護士に払う着手金(依頼したタイミングで発生する費用)は、加害者への請求額が300万円以下のときは、請求額の8%までが弁護士費用特約で補償できる弁護士費用であると定められているのです(※一般的な基準である「LAC基準」を前提にしています)。
弁護士は、弁護士費用を自由に決められますので、その基準を上回る弁護士費用を設定している弁護士もいるでしょう。しかし、その場合であっても、保険会社は、自身が設定する算定ルールに従った弁護士費用しか払ってくれません。そうなると、それを超える弁護士費用は、被害者本人が負担すべきことになります。
ですので、弁護士費用特約を使って弁護士に依頼する前に、その弁護士の報酬算定基準が、弁護士費用特約の定めるルール内なのか、あるいはそれを超えるのか確認しておくべきでしょう(もっとも、弁護士費用特約の定めるルールどおりに報酬を算定する法律事務所がほとんどだと思いますが)。
なお、弁護士費用特約を使っても等級はダウンせず、次年度の保険料は上がらないといいましたが、例外もあります。それは、法人などが自動車を10台以上保有しているときには、その法人の契約する保険の保険料は上がる可能性があるのです。10台以上の自動車を保有して保険契約をしているときには、保険等級で保険料がきまるのではなく、前年度の保険金の支払額によって、次年度の保険料が決まることになっています(この保険契約を「フリート契約」と言います)。フリート契約では、弁護士費用特約を使うことによって保険金の支払額が増えますので、次年度の保険料が上がってしまうことになるのです。
4、示談の流れ
弁護士に依頼することになったとき、弁護士が示談交渉までにどのようなことをするのか、その流れを説明します。
弁護士に事故直後から依頼することになった場合、弁護士はまず物損(車両の損害)の交渉から始めることが多いでしょう。車両の損害額の査定が適切か、車両本体の損害以外の諸費用は請求できるか、車両修理中の代車の費用は支払ってもらえるかなどを保険会社と交渉するのです。事故の当事者双方に過失があれば、過失割合についても保険会社と話し合います。それらについて、双方が合意することができれば、物損についての合意内容を記載した書面の取り交わしをし、その後、損害額についての支払いがなされて物損の交渉は終了します。
次は人身損害です。事故後の通院期間中であれば、弁護士は、治療費の支払い、通院交通費の支払い、休業損害の支払いなどについて保険会社と交渉します。休業損害の算出が簡単ではない職業(自営業や会社役員など)もあり、そのような方の休業損害の交渉は、タフな交渉になりがちです。
事故からある程度の期間がたつと、治療の終了時期についての交渉をします。保険会社は早く治療を終わらせたがることが多いですし、被害者側の弁護士としては、症状が残っている以上、治療を継続できるように交渉するでしょう。もっとも、症状が残っていればいつまでも治療を続けられるわけではなく、どこかのタイミングで治療費の支払いに区切りをつけることも必要です。そのタイミングが症状固定です。つまり、弁護士と保険会社は、症状固定のタイミングをいつにするかについて交渉をするわけです。
症状が治った場合には、事故から治癒までの期間やその間の入院・通院日数によって慰謝料の算出をします(この慰謝料を「入通院慰謝料」といいます)。そして、治療費、通院交通費、休業損害などの損害のうち、まだ支払われていないものがあれば、慰謝料と併せて請求し、加害者が負担すべき損害はいくらなのかについて交渉することになります。
症状が治癒せずに症状固定となった場合には、後遺障害の申請をするのですが、後遺障害が認定されれば、治療費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料等に加えて、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益という費目が損害として上乗せで認められますので、これらの総額を算出し、保険会社とその金額について交渉します。
この段階で、あらためて過失割合についての交渉をすることもあります。
このようにして、加害者が負担すべき全ての損害について双方で合意することができれば、人身損害についての合意内容を記載した書面の取り交わしをし、その賠償金が支払われて示談交渉は終了します。
5、弁護士費用特約はいつ、どのように利用するのか
事故に遭ったとき、いつ弁護士に依頼をするのがいいのでしょうか。治療が終わって最後の賠償額の交渉のときにだけ弁護士に依頼する方も多いですが、本来は、できるだけ早い段階から弁護士に依頼しておくことが望ましいです。事故に遭ったあとのわずらわしいやり取りを弁護士に任せてしまえますし、今後の見通しや適切な対応方法の指示も受けられるからです。
弁護士費用特約を利用するときは、まず加入する保険会社で事故受付をしてもらう必要があります。この事故受付は、保険の代理店に連絡してもしてくれますし、24時間対応のコールセンターでもしてくれます。事故受付の際に弁護士費用特約を使いたいということを伝えてください。事故受付がされると、保険会社の支払担当者から連絡がありますので、この担当者に弁護士の名前、事務所名、連絡先を伝えてください。あとは、担当者が弁護士と連絡を取って、弁護士費用の支払いは保険会社と弁護士との間で処理してくれるようになります。
6、まとめ
今回説明したとおり、弁護士費用特約を使うメリットはたくさんありますが、これといったデメリットはありません。知らずに弁護士費用特約に入っている方もたくさんいますので、事故に遭ったときは、保険証券を見たり保険会社に問い合わせるなどして、自分が弁護士費用特約に加入しているかどうかを確認するようにしてください。もし、弁護士費用特約に加入しているのであれば、いざというときのために保険料を毎月払っているわけですから、迷わず一度弁護士に相談だけでもしてみることをおすすめします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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