他人の傘を盗むと窃盗罪? お店の商品を間違って持ち去った場合は?
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令和5年に北海道全域で認知された窃盗犯は1万3949件、札幌市内に限ると7976件でした。年々認知件数は減っているものの、窃盗の罪に手を染めてしまう方は少なくありません。
他人の傘だと知りながら持ち去った場合や、お店の商品を勝手に持ち帰った場合には、犯罪として逮捕されてしまうのでしょうか。
本コラムでは、実際に罪に問われることになる要件から、逮捕された場合どう対処すればいいのか、有罪となったらどの程度の量刑となるのかについて、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が説明します。
1、他人の傘を盗むと窃盗罪になる?
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(1)他人の傘を盗むと「窃盗罪」
他人の傘を勝手に持ち去ってしまうと窃盗罪に問われるのでしょうか。
「他人の財物を窃取した」場合には窃盗罪が成立します(刑法第235条)。
「他人の財物」とは、他人が所有権を有する財物のことです。そのため、他人が所有している傘は窃盗の客体となります。
そして、窃盗罪に問われる行為は「窃取」行為です。
「窃取」とは、他人が占有する財物を占有者の意思に反して、自己または第三者の占有に移転させる行為を指します。すなわち、「占有の侵害」の「占有の移転」を行うことで「窃取した」と評価されることになります。
したがって、他人が傘を占有していることが必要です。占有とは、財物に対する事実上の支配のことで、占有しているという事実(客観)と、占有しているという意思(主観)によって判断することになります。
たとえば、他人が手提げバッグに入れて持ち運んでいる傘は占有の事実も意思も認められます。また、差してきた傘を店舗や施設の入り口の傘立てに短時間置いている状態も占有していると言えるでしょう。
以上より、他人の占有が及んでいる傘を、他人の物であると分かって持ち去った場合には、「窃取」に該当することになるため、窃盗罪が成立することになります。
窃盗罪に問われた場合には、「10年以下の懲役」または「50万円以下の罰金」が科されることになります(刑法第235条)。 -
(2)置き忘れた傘を持ち去ると「占有離脱物横領罪」
上記で窃盗罪が成立するのは、他人が傘を占有している場合であると解説しました。
それでは、他人が置き忘れていった傘や長期間放置されている傘についてはどうでしょうか。
このような傘を持ち去った場合、「占有離脱物横領罪」に問われる可能性があります。
占有離脱物横領罪とは、「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した」場合に成立する犯罪です(刑法第254条)。
占有離脱物横領罪の対象となる物は、「占有を離れた他人の物」(占有離脱物)です。遺失物や漂流物などのように誰の占有にも属さない物や、誤配達や多すぎた釣り銭など委託に基づかない占有物が客体となります。
「他人の所有物」である必要があるため、所有権が放棄された物や無主物は含まれません。
占有離脱物横領罪に問われる行為は、「横領」することです。
横領とは、占有離脱物について不法領得の意思を実現する一切の行為であると考えられており、権限がないのに所有者でなければできないような処分をすると、「横領した」と判断されます。
したがって、他人が置き忘れた傘やなくしてしまった傘を自分の物として持ち帰ってしまうと、占有離脱物横領罪が成立することになります。
占有離脱物横領罪に問われると、「1年以下の懲役」または「10万円以下の罰金若しくは科料」が科されることになります(刑法第254条)。窃盗罪とは異なり、他人の占有を侵害する行為がないため、占有離脱物横領罪の法定刑は窃盗罪よりも軽くなっています。
以上のように、他人の傘を持ち去る行為は犯罪に問われる可能性があります。
しかし、一方で必ずしも刑事事件として立件されるとは限らないという点にも注意が必要です。
被害者が警察に被害届を提出したとしても、傘ひとつのために犯人を捜査することはまずないでしょう。被害が軽微で、かつ犯罪の立証が困難なケースでは、検挙が難しいと判断される可能性があります。
2、「他人の傘を一時的に借りただけ」は通用する?
「他人の傘を一時的に借りただけ」という場合には、無罪となるのでしょうか。
このような使用窃盗・利益窃盗については不可罰であると考えられています。
窃盗罪が成立するための主観的要件としては、窃盗の故意のほかに、「不法領得の意思」が必要であるとされています。
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物として経済的用法に従い利用・処分する意思であると考えらえています。すなわち、「権利者排除意思」と「利用処分意思」がなければ、窃盗罪は成立しないことになるのです。
そして、使用窃盗の場合には、不法領得の意思のうち権利者排除意思がないため不可罰となります。
そのため、他人の傘を一時的に借りて比較的短時間のうちに返した場合には、使用窃盗として無罪となるのです。
しかし、持ち去った段階で本当に「不法領得の意思がなかった」と判断されるか否かは、ケースバイケースです。高級な傘を持ち去ったり、数時間保有していたりする場合には、不法領得の意思が肯定されてしまうおそれもあります。
後々、犯罪だと訴えられないようにするためにも、他人の傘を勝手に利用することはやめておきましょう。
3、お店の商品を間違えて持ち帰った場合も犯罪になる?
お店の商品を間違えて持って帰ってしまった場合には犯罪が成立するのでしょうか。
お金を払わずにお店の商品を持ち帰る行為は、客観的には、お店の占有を侵害し、商品を自己の占有に移転する行為として「窃取」に該当するようにも思えます。
しかし、窃盗罪が成立するためには、窃盗の故意が必要です。
故意とは、他人の物を窃取することを認識して認容しているという心理状態のことをいいます。
ただし、行為者が「盗むつもりはなかった」と言いさえすれば、故意が否定されるというわけではありません。窃盗の故意の有無については、行為者の供述のほかに、行為の状況や経緯、客観的な証拠などを総合的に考慮して判断されることになります。
たとえば、複数の商品を持ち帰っている場合や、品定めをしたうえで周囲を伺って特定の商品だけを選んでカバンに忍ばせて持ち出している様子が防犯カメラに映っている場合には、故意があったと判断される可能性があります。
これに対して、商品棚から偶然、商品がカバンに入った場合や、小さな子どもが商品を未決済の商品を持ったまま帰ってきてしまったという場合には故意はなかったと判断されるでしょう。
4、窃盗罪などで逮捕されたら|逮捕後の流れや取るべき行動
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(1)逮捕後の流れ
窃盗罪などの疑いで逮捕されてしまった場合は、警察での取り調べが始まります。逮捕として身柄を拘束できる期限は48時間と定められているため、それまでに事件を検察に送るかどうかを検討します。
検察へ送致されれば、勾留請求をするかどうかの判断がされます。
裁判官が勾留決定をすると延長も含めて最長20日間の「勾留」がなされます。勾留は、拘置所か留置場で身柄を拘束し続けることを指します。検察官は、勾留期間の満期までに、「起訴」もしくは「不起訴」の判断をします。
検察による捜査の末、「不起訴」となれば事件は終了します。しかし、「起訴」されると刑事裁判へ移り、有罪か無罪かの判断が下されます。 -
(2)逮捕後に取るべき行動と示談
窃盗の罪が問われることになった場合、「いち早く拘束を解かれ日常生活に戻りたい」と考えることでしょう。事実、起訴されるかどうかが決まるまで最大23日間も身柄を拘束され続けることになります。当然、その間は会社へ行くことも家に帰ることもできなくなります。
次に、「罪は認めるから、少しでも刑罰を軽くしたい」と考える方もいるでしょう。可能であれば「前科がつくのを回避したい」と思うかもしれません。家族が、窃盗の罪に問われてしまったケースであればなおさらです。
いずれの場合も、被害者との「示談」が特に重要となります。示談とは、事件の当事者同士が話し合いを通じて事件を解決しようとするものです。
刑事事件における示談では、加害者が被害者に対して謝罪と賠償を行うとともに、被害者には、加害者に対して刑事処罰を望まないという文言が入った示談書を交わしてもらいます。
示談が成立していれば、起訴されることはもちろん、そもそも事件として警察に捜査されることも回避できる可能性もあります。反省しているのであれば、警察から連絡が来る前に、被害者に対して謝罪の意を示し、示談交渉するほうがよいでしょう。
ただし、個人が店舗と交渉することは難しいケースが多々あります。そこで、弁護士に依頼して、謝罪の際に同行してもらう、示談交渉を代理で行ってもらうなどの対策を行うことをおすすめします。
しかし、加害者本人が行動できるのは、逮捕前までです。逮捕されてしまえば、被疑者は身柄を拘束されているため、被害者と会って示談交渉をすることができません。勾留されるまでは、家族とも面会が禁じられます。唯一、「接見」と呼ばれる面会を自由に行う権利を持っているのが、弁護士でもあります。
万が一逮捕された際は、できる限り早いタイミングで弁護士に依頼することで、示談交渉が可能となるでしょう。早期に示談が成立すれば、前科がついてしまう最悪の事態を回避できる可能性が高まります。窃盗してしまい、逮捕される不安がある場合は、できるだけ早く弁護士に相談しておくことをおすすめします。
5、まとめ
今回は、傘やお店の物を勝手に持ち帰ってしまった場合に成立する犯罪や、逮捕された場合の対処法などについて解説してきました。
窃盗罪で後から逮捕されるのではないかという不安を抱えている、警察から連絡が来たという方は、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスまでご連絡ください。
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