札幌市役所の職員に親が暴言! 公務執行妨害罪になる? 弁護士が解説
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2016年11月、札幌市北区内の役所において、男性公務員などの頭を殴るなどして職務の執行を妨害した女性が公務執行妨害で逮捕されました。このように、公務員の仕事を妨害する行為は、公務執行妨害罪に該当し、逮捕されてしまうことがあります。
もしあなたの親が、役所の職員に対してひどい暴言を吐いた場合は、公務執行妨害罪に該当し、逮捕されてしまうのでしょうか。ここでは親が役所職員に暴言などを吐いた場合、公務執行妨害罪に該当するのかどうか、その他の犯罪が成立するのかどうかについて札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、公務執行妨害罪とはどのような犯罪か?
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(1)公務執行妨害はなぜ存在する?
公務執行妨害罪は、刑法第95条1項に規定されている犯罪のひとつです。公務員の仕事を暴行や脅迫などによって妨害する行為が該当します。
なぜ公務員だけが守られているのだろうと考える方もいるかもしれません。しかし、休憩時間中や休暇中の役所の職員に対して、暴力をふるったとしても、公務執行妨害罪に問われることはありません。ただし、当然のことながら、個人に対する暴行罪が適用されることになります。
この刑法で守ろうとしているものは、公務員個人ではありません。「公務」を守るために規定されている法律なのです。詳しく説明すると、公務員は国益や国民生活のために仕事をしています。この仕事が妨害されてしまうと、国民全体の生活に不利益が生じてしまうことになります。たとえば、国民保険関係の業務を行う役所職員の仕事を妨害する行為が許容されてしまえば、保険事業の運営そのものが難しくなってしまうでしょう。そのような事態を防ぐために、刑法で公務執行妨害が設定されています。
つまり、公務を妨害する行為は国益を損なう行為としてみなされます。公務執行妨害の被害者は公務を妨害された相手ではなく「国」になるため、示談交渉はほとんどのケースでできません。
また、この公務執行妨害の相手は公務員に限られます。公務員は、その名称のとおり、国や地方公共団体に雇われている職員を指しています。先述した市役所の職員だけでなく、警察官、国公立の学校や保育園の教師やスタッフ、自衛隊などが公務員にあたります。
ほかにも非常勤として雇われているアルバイト職員、公務員の仕事を補助するために雇われた人も公務執行妨害罪の対象となる公務員です。たとえば、役所が忙しい時期だけ事務の応援に来ている派遣社員や、強制執行などのために作業をサポートするような作業員が該当します。 -
(2)公務執行妨害罪の量刑相場とは?
公務執行妨害罪の罰則は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」と刑法第95条1項に規定されています。
これだけ罰則に幅が設けられている理由は、公務執行妨害罪の犯罪形態にあります。公務執行妨害は、暴行や脅迫を用いて公務員の仕事を妨害すると成立します。暴行には、直接殴る・蹴るといった行為だけでなく、証拠を壊す行為も含まれると解釈されています。脅迫の仕方も、電話や文書など複数の方法が考えられます。こうしたことからも分かるように、軽い気持ちでした行為からカッとなって突き飛ばしてしまう行為まで、妨害行為の程度にはかなりの幅があります。そのため、悪質性や重大性によって罰則を判断できるようになっています。
また、公務執行妨害罪は、一度の行為によって複数の罪に問われるケースが多い犯罪です。たとえば、冒頭のケースでは、暴行を加えているので、個人に対する「暴行罪」と「公務執行妨害罪」の両方が成立していると考えられます。もし、暴行の結果相手が負傷していれば、暴行罪ではなく「傷害罪」に問われることもあるでしょう。
公務執行妨害によって一度の行為で複数の罪に問われることになったときは、公務執行妨害罪よりも重い刑罰が設定されている罪名を問われることになります。
2、公務執行妨害にあたる暴行や脅迫とは?
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(1)暴行と脅迫の要件
公務執行妨害は、「暴行や脅迫」を用いることが構成要件です。
暴行は専門用語で「不法な有形力の行使」にあたる行為を指します。「不法な有形力」には、直接的な行為だけでなく間接的な行為も含まれます。たとえば、役所の職員にぶつからないように文房具を投げたり、パトカーや救急車を蹴ったりする行為は、暴行に該当します。また、公務執行妨害罪における暴行は、刑法の暴行罪よりもより幅広く解釈されます。証拠を壊すなどの行為でも暴行にみなされる可能性もあるため、注意が必要です。
また、脅迫は「害悪の告知」といって、人の身体や財産などに害悪を加える目的で畏怖させる(怖がらせる)程度に脅すことを指します。 -
(2)市役所職員に「殺す」と暴言を吐いた場合、公務執行妨害に該当するか?
前述したとおり、公務執行妨害罪が成立するには暴行や脅迫が用いられることが必要となります。市役所の職員に暴言を吐いた場合、暴行や脅迫に該当するのでしょうか。
まず、言葉を発するだけの行為は暴行には該当しないと考えられます。ただし、聴力に影響が出るほど大きな声で怒鳴ると該当する可能性があるでしょう。では、「殺す」という発言内容が脅迫にあたるのでしょうか。
結論からいえば、暴言が怖がらせる(畏怖させる)程度の場合、この罪の脅迫に該当します。一般人が「殺す」と暴言を吐いた場合、程度によっては公務執行妨害に該当する可能性があるということです。また、「殺す」という暴言の行為自体は生命に対する害悪の告知になるため脅迫罪にとわれることもあるかもしれません。
ほかにも、内容によっては侮辱罪や名誉毀損(きそん)罪などほかの犯罪が成立する場合があるので注意が必要です。
3、公務執行妨害は後日逮捕される可能性は?
公務執行妨害は、現行犯で逮捕されるケースが少なくありません。しかし、「現行犯逮捕されなかったから、もう逮捕されない」というわけではありません。
公務執行妨害は、公務員に対する行為であるため、証拠が確保されていることが多い傾向があります。たとえば役所で妨害行為をした場合は、防犯カメラや他の職員の証言も集めやすく、証拠の確保が簡単に行えるということです。
これらの証拠をもとにして警察官が逮捕状を請求し、その逮捕状を持って後日になってから逮捕される可能性があるということは留意しておく必要があります。
4、公務執行妨害で逮捕されたときの対処法
もし親が役所の職員に暴言を吐いて逮捕されてしまったら、いち早く弁護士に相談することをおすすめします。暴言で逮捕されてしまうと知らなかった場合は、かなり動揺している可能性があります。逆に立腹していて、より事態を悪化させてしまっている可能性も否定できません。
しかし、残念なことに逮捕から最長72時間以内は、「接見」と呼ばれる面会を家族が希望しても、原則、許可が下りることはありません。自由な接見が行えるのは、弁護士のみに限られます。
家族であれば、「どのような状況なのかを知りたい」、「本人の状態を知りたい」、「早く帰宅できるように働きかけたい」などと考えることは非常に自然なことです。そこで、できるだけ早いタイミングで弁護士に依頼すれば、心理的な不安を和らげ、起訴を防ぐためにどうすればいいのかについてアドバイスを行えます。
最長72時間が過ぎても釈放されなかったときは、さらに最長20日間帰宅ができなくなる可能性が高まります。また、起訴されれば99%の確率で前科がつくことになります。長期拘束や起訴がつくことを回避するためには、できるだけ早期に、冷静になって反省するよう本人に働きかける必要があるでしょう。
弁護士の依頼は家族でもできます。まずは、弁護士に相談してみて、依頼が必要かどうかのアドバイスをもらうとよいでしょう。
5、まとめ
公務執行妨害罪は、刑法に定められている犯罪のひとつで、公務員などに暴行や脅迫をすることで職務の遂行を妨害すると成立します。役所の手続きで意思の疎通がうまくいかず、イライラして暴言を吐いてしまうことがあるかもしれません。状況によっては公務執行妨害罪が成立し、逮捕されることもあるので注意が必要です。
家族が公務執行妨害罪で逮捕されてしまった際はベリーベスト法律事務所 札幌オフィスまでご連絡ください。刑事事件に対応した経験が豊富な札幌オフィスの弁護士が、適切なサポートを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています