検挙数急増中! あおり運転の結果、暴行罪で逮捕される可能性は
- 暴力事件
- あおり運転
- 暴行罪
- 逮捕
- 札幌
平成30年11月、北海道小樽市の国道であおり運転をしたとして、札幌市在住の男を暴行容疑で逮捕、検察へ送致したと報道されています。
冒頭の事件のように、あおり運転の結果、事故に至らなくても、取り締まりを受けるケースは増加しています。特に悪質な運転は、冒頭で挙げた報道のように刑法犯の暴行罪が適用されることもあります。
では、実際にどのような運転をするとあおり運転として取り締まりを受けることになるのか、ご存じでしょうか。さらに暴行容疑で逮捕されたときにできることなどを、札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、あおり運転の違法性
あおり運転といえば、そもそも危険運転として認識されていたものです。しかし、その罪を裁くことは大変難しいものでした。しかし、ドライブレコーダーの普及と平成29年に高速道路で起きた痛ましい事故を受け、警察庁は、平成30年1月より全国的に厳正な捜査の徹底を行い、取り締まりを強化する通達を出しています。
-
(1)あおり運転とはどのような行為?
そもそも「あおり運転」とは、主に前方や横の車線を走る車に対して、進路を譲るように強要したり、わざと運転を妨害したりする運転行為を指します。
重大な交通事故につながる危険な行為として、以前よりそれぞれ道路交通法違反などに該当する行為が取り締まりを受ける対象とはなっていましたが、改めて厳正な処分を行う方針が明確になったものと考えられます。
危険なあおり運転は、道路交通法の違反にとどまらず、たとえ事故に至らなくても、刑法の「暴行罪」にあたると判断される場合もあります。さらに、相手にケガを負わせる、死に至らしめるなどの結果が生じた場合には、もっと重い「危険運転致死傷罪」や「殺人罪」に該当するケースもあります。 -
(2)法律違反に該当するあおり運転行為
「あおり運転罪」という罪があるわけではありません。しかし、あおり運転にあたる行為は、以前より「道路交通法」で取り締まりの対象となっています。具体的には、以下のような行為があおり運転とみなされる可能性があります。
●前の車との車間距離を異常に詰める行為
前の車と異常接近して車間距離を詰める行為です。必要以上に前の車に接近した場合は、道路交通法の「車間距離不保持」違反(道路交通法26条)にあたる可能性があります。違反した場合は、高速自動車道の場合で「3ヶ月以下の懲役」または「5万円以下の罰金」、その他の道路の場合は「5万円以下の罰金」の範囲で罰則が科されます。
●隣の車線の車に幅寄せする行為
幅寄せは、隣の車線を走行する車に寄せて走り、進路を妨害する行為のことです。幅寄せ行為は、道路交通法の「進路変更禁止違反」(道路交通法26条の2)、「急ブレーキ禁止違反」(道路交通法24条)、「安全運転義務違反」(道路交通法70条)にあたる可能性があります。
罰則はそれぞれ、進路変更禁止違反で「5万円以下の罰金」に処されることになります。急ブレーキ禁止違反や 安全運転義務違反にみなされれば、「3ヶ月以下の懲役」または「5万円以下の罰金」です。
●左車線から前の車を追い越す行為
前方の車を追い越す場合は、追い越しが可能な車線で、右側から追い越すのが原則です。左車線から追い越しをする行為は道路交通法の「追い越し違反」(道路交通法28条)にあたります。追い越し違反の罰則は、「3ヶ月以下の懲役」または「5万円以下の罰金」となります。
●クラクションやハイビームで相手を威嚇する行為
クラクションを必要以上に鳴らす、ハイビームを照らして前の車の運転手の視界を妨げるなどの行為は、道路交通法の「警音器使用制限違反」(道路交通法54条)、「減光等義務違反」(道路交通法52条)にあたる場合があります。
警音器使用制限違反と減光等義務違反の罰則は、いずれのケースでも「5万円以下の罰金」です。
2、あおり運転が暴行罪にあたるとされた実例とは
「暴行罪」というと、殴ったり蹴ったりと相手の体に対して直接危害を加える犯罪、というイメージを持つ方が多いかもしれません。なぜあおり運転が暴行罪に該当する行為とみなされるのでしょうか。
-
(1)あおり運転が暴行罪にあたる理由
暴行罪とは、刑法第208条に定められた犯罪です。条文上では「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」罪に問われることが明示されています。
この条文で示される「暴行」は、法律的に「人に対する不法な有形力の行使」であると解釈されています。また、この暴行罪は、被害者が負傷したときに問われる「傷害罪」を筆頭とする「傷害の罪」の一部分として設定されていることから、相手がケガをする可能性がある行為すべてが暴行にあたると解釈される可能性があるのです。
つまり、殴る蹴るなどの明確な暴力だけでなく、「相手にぶつからないように石を投げる」、「狭い部屋で棒を振り回す」などの行為でも、暴行罪が成立する可能性があります。
あおり運転を改めて考えてみても、実際に相手の車や運転手に接触する行為ではありません。しかし、暴行罪の考え方をベースにして考えれば、相手の車に接触しないようあおる行為は、まさに「暴行」行為だと考えられます。よって、たとえ事故に至っていなくても、大事故につながる可能性があった重大な危険性があるあおり運転は「暴行罪」にあたると解釈できます。
なお、あおり運転によって相手が事故を起こしたり負傷したりしたら、より罪が重い「傷害罪」や、危険運転致死傷罪(妨害目的運転)などに問われることになります。 -
(2)あおり運転が暴行罪にあたるとされた具体例
あおり運転をして暴行罪で逮捕、もしくは検挙されたケースは、少なからず北海道内でも発生しています。
●旭川市の国道で、前方の自動車の前に急に割り込むなどの行為をして相手が減速せざるを得なくした会社員が、暴行罪で逮捕された
このケースでは被害者の男性がドライブレコーダーを警察に提出して発覚しました。実際の被害は生じませんでしたが、重大な被害につながりかねない行為だったとして暴行罪が適用されたケースです。
●苫小牧市の国道で、悪質なあおり運転を繰り返し、相手の車を強制的に停車させた疑いで、北海道苫小牧署は暴行容疑で書類送検した
本件では、特定の乗用車の横に接近して走行する・前に入り込んで急停車するなどの危険運転を繰り返した末、車同士が接触。双方が交番に事故を届け出たことで事件が発覚しています。
3、あおり運転で逮捕されたら
暴行容疑で逮捕されたときは、刑事訴訟法に基づいた刑事手続きが行われることになります。その流れと、弁護士に依頼するメリットを知っておきましょう。
-
(1)逮捕後の流れ
あおり運転で逮捕されると、まずは警察での取り調べを受け、48時間以内に検察へ事件資料と身柄を送致されることになります。検察は、送致から24時間、逮捕から72時間以内に、さらに身柄を拘束したまま取り調べを行う「勾留(こうりゅう)」の必要があるかどうかを判断します。この間は家族も面会することが困難になります。
検察官が「勾留」が必要と判断し、裁判官が認めると10日間の留置場生活が続きます。さらに必要があれば最長で10日勾留が延長され、逮捕から最長23日の間、留置場生活が続く可能性があるでしょう。
なお、勾留期間中、もしくは在宅事件扱いになったときは捜査が終わったタイミングで、起訴・不起訴の判断がなされます。不起訴になれば前科はつきません。しかし、起訴されると、日本の刑事司法上99.9パーセントが有罪になります。 -
(2)弁護士に依頼するメリット
前述どおり、逮捕後72時間は家族とも面会や連絡を取ることが制限されます。しかし、弁護士ならいつでも面会ができ、アドバイスを受けることができます。
取り調べを受け続ける孤独感や疲労は非常に大きなものです。早く帰りたいという気持ちから、やってもいない罪や、やった以上の罪をやったと発言してしまう人もいるようです。あおり運転で逮捕されたら、できるだけ早く弁護士を依頼するようにしましょう。
弁護士は、逮捕から勾留の間に面会ができるだけでなく、できるだけ長期にわたる身柄の拘束を避けるための活動や、起訴を回避するための弁護活動を行います。具体的には、家族のサポート体制を整えて釈放を目指し、あおり運転の被害者と示談して許してもらうよう、交渉することも可能です。
これらの活動は個人ではできません。刑事事件対応の経験が豊富な弁護士に依頼することをおすすめします。
4、まとめ
あおり運転は明確な危険運転です。状況によって、運転者が危険性帯有者とみなされ、1度発覚した時点で運転免許停止処分が取られることもあります。
道路交通法違反で取り締まりを受け、反則金を支払う結果となっても前科はつきません。しかし、暴行罪で有罪となり罰金や科料が科された場合、前科がつくことになります。将来にわたる影響が懸念されるため、できる限り前科がつくことを回避する必要があるでしょう。
被害者がいる犯罪の類型では、身柄の拘束や起訴不起訴を判断する際、被害者の処罰感情が考慮されます。まずは被害者に謝罪して、示談を成立させることを目指すことになるでしょう。捜査中のサポートや示談交渉は、弁護士が行う仕事のひとつです。
あおり運転で逮捕された場合は、ベリーベスト法律事務所・札幌オフィスの弁護士へできるだけ早く相談してください。あなたの将来に過剰な影響が残らないよう、適切な弁護活動を行います。
※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
>あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています