夫婦財産契約(婚前契約)は結ぶべき? 手続きの進め方と注意点を弁護士が解説
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札幌市が発表している統計結果によると、平成23年に離婚した夫婦のうち、子どもがいる夫婦の割合は57.8%だったことがわかっています。また、平成23年に結婚した夫婦のうち再婚だった男性は22.2%、女性は18.2%だったことも明らかになっています。
少し古い統計結果ではありますが、子どもがいる夫婦の離婚や、再婚は少なからずあるものです。それでも家族の関係が複雑化することもあり、相続の際に大きな問題が生じる可能性があります。
それを避けるため結婚相手に連れ子がいる場合や前妻との間の子どもがいる場合は、夫婦財産契約を結ぼうと考えるケースが増えています。そこで、今回はベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が、夫婦財産契約の概要や作成方法、夫婦財産契約のメリットなどについて解説します。
1、夫婦財産契約って何?
夫婦財産契約とは、その名のとおり、夫婦間で結ぶ財産についての契約です。海外ドラマや映画などで出てくる「婚前契約」と同じものです。
夫婦財産契約によって、以下のような事項を明確化できます。
- 結婚前から所有している財産について
- 婚姻生活のための費用の負担
- 家事に関する役割分担
夫婦財産契約は任意で締結するものですが、民法によって夫婦財産契約の締結ルールは明確に規定されています。結婚前にしか締結できず、確かなものにするためには登記が必要です。さらに結婚後には原則として契約の内容を変更することができません。
2、夫婦財産契約で決められることとは
夫婦財産契約では、法定財産制とは異なる財産の分け方や婚姻費用の負担割合などを決めておくことができます。法定財産制とは、婚姻生活の費用の負担、日常家事の費用の連帯責任、財産の帰属などを定めたものです。
ここでは、法定財産制の概要を説明した上で、夫婦財産契約で決められることを説明します。
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(1)婚姻生活の費用負担
民法では、婚姻生活は収入や家事の負担割合などに応じて、婚姻費用を分担すべきと規定されています。婚姻生活の費用とは、家賃や食費、日常品の購入費用や子どもの教育費です。これらは夫婦の話し合いで割合を決定することができます。
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(2)日常家事費用の連帯責任
日常家事費用の連帯責任とは民法第761条で定められている義務です。夫婦の片方が第三者と法律行為をした場合は、それについて生じた債務の連帯責任を負うとされています。日常の家事費用とは、日用品の購入やレジャーのための支出、住宅の購入などです。売買契約を結ぶ、ローンを締結するなどの行為をした場合は、どちらの名義であっても双方が連帯責任を負うのです。
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(3)財産の帰属
民法において、夫婦の財産は「共有財産」とされ離婚時には分割しなければならないと規定されています。共有財産とは、結婚してから離婚もしくは別居するまでに増加した夫婦の財産です。結婚前から所有している財産や、相続や贈与などで片方が受け取った資産は共有財産とはなりません。
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(4)夫婦財産契約で決められる共有財産の規定
上記は民法で規定されていますので、夫婦財産契約に織り込む必要はありません。しかし、法定財産制とは異なる財産の分け方をする場合や、婚姻費用の負担割合を明確にしたい場合などに夫婦財産契約が有効となります。
夫婦財産契約では、夫婦の共有財産を明確化しておくことで、婚姻生活中や離婚時、また死亡後のトラブルを回避することができます。
婚姻前から所有していた財産を夫婦の共有財産にするのか、もしくはそれぞれの財産にするのかを決定しておくことで、財産の持ち主を明確化できます。多くの資産を持っている方や、再婚ですでに子どもがいる場合などは、明確にしておくことで、財産を巡る争いを防止することが可能です。
これらのお金に関することだけでなく、家事の分担等についても決めておくことができます。ただし、公序良俗に反しているものや、夫婦の扶養義務を認めないものなどを盛り込むことはできません。
3、夫婦財産契約を締結するメリット
夫婦財産契約を締結するメリットは、「お金に関する夫婦トラブルや相続トラブルを回避できること」です。資産家の方や再婚者ですでに子どもがいる場合、財産を巡ってトラブルが発生することが珍しくありません。
トラブルが多発しがちなのが、離婚するときです。日本では、離婚の際に「財産分与」と呼ばれる夫婦の共有財産を分割する手続きが行われます。原則として、結婚前に築いた財産は夫婦の共有財産とはみなされませんので、相手方に渡す必要はありません。
しかし、夫婦財産契約によって結婚前から所有している財産も、共有財産とすると規定しておけば、離婚の際、配偶者に半分渡すことができます。逆に結婚前から所有している財産であると明確化しておくことにより、離婚時の「共有財産かどうか」を巡る争いを回避できます。
また、双方が再婚者、もしくは片方が再婚者の場合は、本人の死後に、前妻の子どもと現妻の子どもの相続割合等で争うことが少なくありません。こちらの争いは、夫婦財産契約だけでなく、遺言書をのこしておくことで争いを回避できるでしょう。しかし、まずは夫婦財産契約によって、婚姻前の財産と婚姻後の財産を明らかにしておくことが大切です。
4、夫婦財産契約を結んだほうがよいカップルとは
前述どおり、夫婦財産契約を締結することで結婚後や離婚時、死亡時のトラブルを避けることができます。ただ、夫婦財産契約はすべてのカップルに必要なものではありません。ここでは、夫婦財産契約を結んだほうがよいカップルを説明します。
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(1)資産家である
性別年齢問わず、すでに多額の資産を持って結婚する場合、その資産が婚前から所有していることを明確化しておいたほうがよいでしょう。資産家の方が離婚する際は、「どこまでが夫婦の共有財産なのか」を明文化しておくと、離婚時にトラブルが起きません。
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(2)再婚でどちらかもしくは両方に子どもがある
再婚同士の結婚や子連れ結婚の場合、相続の観点からも夫婦財産契約を結んでおくと安心です。もちろん、万が一のための遺言書ものこしておく必要があります。特に、預貯金や有価証券、不動産など複数の資産がある方が子連れ再婚する場合は、財産について明確にしておくことをおすすめします。
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(3)事実婚の場合
事実婚の内縁の夫や妻は法律的に保護されない点が多々あります。それをカバーするためにも夫婦財産契約は有効です。
特に、内縁の夫や妻が著しく不利な立場になる可能性が高い相続の際に役立つでしょう。そもそも、内縁の夫や妻には法定相続分が認められていません。遺言書がのこされていなければ、どんなに長期間一緒にいて財産の増加に貢献していたとしても、財産を受け取ることはできないのです。
そのような事態を避けるために、公正証書などで財産契約を結んだ上で、遺言書を作成しておくと、内縁の妻や夫も財産を受け取ることは可能です。
5、夫婦財産契約の手続き方法
夫婦財産契約の手続きは以下の流れで行われます。
①婚姻前に夫婦財産契約を締結
②婚姻前に夫婦財産契約を登記
まずは、双方が合意した法的に有効な内容の夫婦財産契約を締結します。しかし日本では、夫婦財産契約を結ぶカップルは非常に少なく、作成や締結の方法は広く知られていません。
必要な内容を盛り込み契約内容をひとつずつ決定していく必要がありますが、法律家ではないカップルが冷静に正しい夫婦財産契約を作成することは非常に難しいものです。そのうえ、もし不備があった場合は大きな不利益を被ることになります。弁護士に相談して作成することを強くおすすめします。
夫婦財産契約は、公正証書にすることも可能です。公正証書にしておくと、約束が履行されなかった場合に、裁判などの手続きを経ず強制執行が可能になります。また、公証人とともに作成しますので、法的に有効な確かな夫婦財産契約を作成可能です。夫婦財産契約を締結する場合は、公正証書を作成しておくとよいでしょう。
公正証書の場合もそうでない場合も、夫婦財産契約が完成したら、戸籍謄本・住民票・印鑑証明等を用意して、法務局で「登記」の手続きを行います。原則として、登記を行った夫婦財産契約は、変更することができません。締結前にしっかりと漏れや不備がないか、双方がしっかりと合意できているかどうかを確認しておきましょう。
6、まとめ
夫婦財産契約は、夫婦の財産を明確化し、離婚時や相続時のトラブルを回避するために有効な契約です。日本では締結している夫婦が少ないものの、子連れ離婚と再婚の増加によって、今後、夫婦財産契約を締結するカップルが増加することが見込まれます。
現在、夫婦財産契約を締結しようかと検討している方は、まずは弁護士に相談してください。個人では織り込むべき項目や法的な漏れが把握できず、せっかく締結したのに役に立たない契約になってしまう可能性があります。
ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスでは、夫婦財産契約に関する相談やご依頼を承ります。まずはお電話ください。夫婦財産契約の必要性を一緒に考えた上で、最適なアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています