離婚後、住んでいる家が競売にかけられた! 名義変更の重要性を解説

2021年09月13日
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離婚後、住んでいる家が競売にかけられた! 名義変更の重要性を解説

令和3年7月13日現在、札幌地方裁判所本庁の管轄エリアでも12の不動産が競売の対象となっています。離婚後、これまで住んでいた自宅に名義変更をしないまま住み続けているというケースでは、ある日突然競売にかけられた、という事態が起こりえます。

このようなとき、どうすればよいでしょうか。本コラムでは、持ち家が競売にかけられてしまう理由やその対処法、このような事態に陥らないためにすべきことについて、札幌オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、なぜ競売が起きるのか

元夫と離婚する際に、自宅に住み続ける約束をしたAさんを例に考えてみましょう。

Aさんと自身が親権を持つ子どもが暮らす住宅にはローンが残っていて、その返済は家の名義人でもある元夫が行うことになっていました。しかし、数年後に突然、居住中のマイホームが競売にかけられたとの通知が届いたのです。

このような事態は、どうして起こりえるのでしょうか。

  1. (1)名義変更しないことがリスクを呼ぶ

    この例でAさんの家が競売にかけられた理由は、元夫によるローン返済が滞ったからです。離婚後、元夫の経済力が悪化し返済できなくなったのかもしれませんし、ローンを完済するモチベーションが維持できなくなったのかもしれません。

    マイホームを購入する際には、その家の名義人を決める必要があります。元夫の名義で家を購入した場合、離婚後に名義変更しなければ、ローン滞納によってある日突然、元妻の意思とは関係なく家が競売にかけられてしまうリスクがあるのです

  2. (2)競売が起きる仕組み

    競売とは、裁判所が行うオークションのことです。裁判所が債権者から申し立てを受けて最低売却価格を定め、一般市民や企業が入札を行い、期間内にもっとも高い価格で入札した人に売却します。

    ローン契約を結ぶ際には、もしも返済が滞った場合に未収分を回収できるよう、金融機関は債務者(借り手)の不動産に抵当権と呼ばれる権利を設定することができます。ローン返済中は担保に取られている状態ではありますが、不動産の場合は、たとえ完済前だったとしても、その所有権は債務者にあります。

2、競売にかけられたら

離婚後に住んでいる家が競売にかけられた場合、どのようなことが起きるのでしょうか。まずは、その流れを解説します。

  1. (1)競売の流れ

    ① 金融機関による申し立て
    ローン契約の内容に基づき、ローンの返済が行われなかったとき、裁判所に対して申し立てを行います

    裁判所といえば裁判を行う場所ですが、競売の手続きも裁判所が扱っています。裁判ではないので、法廷で手続きを行うわけではありません。金融機関から申し立てを受けた裁判所は、家の所有者に競売開始決定通知書を送ります。居住者は、この通知書によって家が競売にかけられることを知ることになるのです。

    なお、多くの場合、一度返済期限を過ぎても入金がなかった、というだけでは抵当権は実行されません。何度返済が滞ると抵当権が実行されるかについては、契約書に記載があります。

    ② 現況調査
    次に、裁判所の職員などが家の価値を調べに来ます。競売にかける際の最低売却価格を決定するための現状調査として、家の内外が確認され、写真撮影が行われます。

    最低売却価格が定められる理由は、たとえ競売にかけたとしても、あまりに安い価格で買いたたかれてしまったのでは、債権者(金融機関)の融資額回収という目的を達成することができないからです。

    ③ 期間入札通知
    裁判所が実際に売りに出して入札を受け付ける期間を決定し、家の所有者に通知します。

    ④ 入札
    いよいよ売りに出され、購入希望者が入札を開始します。一定の保証金を裁判所に入れれば、競売に出された物件には誰でも入札することができます。

    ⑤ 開札
    入札期間が終わり、購入者が決定することを開札といいます。なお最終的な落札価格や最低売却価格は、ローン残高と一致している必要はありません。ローン残高全額を回収するために最低売却価格を引き上げたのでは、買い手がつかない可能性もあるからです。抵当権は、ローン残高すべてを回収することに限らず、回収できる分だけ回収することができるのです。

    ⑥ 所有権移転登記
    落札されると、家の所有権が落札者に移ります。居住者が望まない競売だったとしても、家を落札者に引き渡さなければなりません

  2. (2)競売にかけられたときの対処法

    一度競売にかけられてしまうと、それ自体を阻止することは不可能です。しかし、いくつかの対処法はあります。

    ① 任意売却
    元夫名義で住宅ローンを契約していたとしても、元妻がその連帯保証人になっていた場合、開札までの期間中であれば、不動産会社を通して家を売る「任意売却」に切り替えることができます

    競売による落札価格は市場での取引価格よりも低くなってしまうことが一般的です。任意売却を行うことによって、競売を阻止することはできなくても、売却金額を引き上げられる可能性が出てくるのです。

    ただし、任意売却をする場合には住宅ローンを借り入れた金融機関の同意が必要になります。不動産会社に仲介を依頼する前に、該当の金融機関へ任意売却の交渉をするようにしましょう。

    ② リースバック
    金融機関、そして名義人である元配偶者の同意を得られた場合は、家を売却した後もそのまま賃貸物件として住み続ける「リースバック」という方法があります。リースバックの専門業者も多く存在しますが、彼らは投資としてリースバックを行っています。そのため、購入価格よりも家賃収入のリターンが小さい場合には、賃貸契約を行うことは難しいでしょう。

3、住んでいる家の競売を防ぐためにすべきこと

競売にかけられたときの対処法こそあれ、トラブルを避けるためには競売にかけられるリスクをあらかじめ取り除いておくことが一番です。ここでは、そのいくつかの方法をご紹介します。

  1. (1)財産分与を適切に行っておく

    財産分与とは、家など夫婦が協力して築いた共有財産を離婚時に分け合う手続きのことです(民法768条1項)。たとえ夫名義の財産であっても、妻による家庭のサポート(家事や育児など)によって得られた財産と考えられる場合は、夫婦の共有財産として財産分与の対象となります

    通常、共有財産の清算基準は夫婦2分の1とされるケースが多く見られます。住宅価格が清算基準を上回った場合は、その差額を相手に支払い、家を譲り受けることになります。

    (例)共有財産の総額が2000万円だった場合
    • 清算基準:2分の1(夫・妻への分与1000万円ずつ)
    • 住宅価格:1500万円


    上記の場合、差額である500万円を相手に支払えば、財産分与として家を手に入れることができます。ただし、別途、譲渡取得税、不動産取得税がかかることになるケースがあるため、税理士などへ確認しておくと安心でしょう。

    なお、家の名義人が元夫で、離婚後に居住するのが元妻だった場合、財産分与と同時に名義変更をしてください。名義変更をしない場合、前述のとおり家が競売にかけられてしまうリスクが残ります

    また、財産分与の際には公正証書の作成も忘れてはいけません。離婚時に決めた条件は離婚協議書にまとめることが多いものです。しかし、離婚協議書には、離婚協議書の内容が守られなかったときに、協議書の内容の履行を強制する効力はありません。一方、公正証書は公的機関である公証役場で、その書面が法的に有効になるためのアドバイスを受けながら作成することができます。財産分与が口約束とならないよう、離婚協議書だけでなく公正証書も作成することが望ましいでしょう。

    財産分与は離婚後2年以内であれば申し立てることができますので、まだ済んでいない方は、名義変更とともに今からでもぜひ検討してみてください

  2. (2)売却してもらい、名義変更をする

    住宅ローンを完済していた場合には、家の名義人である元配偶者に家を売却してもらうという方法があります。ただし、売却されただけでは競売にかけられるリスクは残ったままです。必ず法務局で所有権を移転登記し、名義変更することを忘れないようにしましょう。

    ちなみに、売却してもらう際の資金を自身ではなく親などに用意してもらった場合、家の名義を自身にしてしまうと贈与税が発生します。この場合は、資金を用意した親の名義に変更することをおすすめします。

  3. (3)家とともに住宅ローンの名義も変更する

    住宅ローンが残っている場合は、家の所有名義を変更する際に金融機関の許可が必要なケースが少なくありません知らずに名義変更してしまうと契約違反となり、ローンの一括返済を求められる可能性もあるので注意が必要です

    また家の所有名義が変更できたとしても、住宅ローンを相手が支払っている状態では、ローン滞納により競売にかけられてしまう可能性があります。ご自身が定職についており、住宅ローンの返済能力がある場合は、家の所有名義とともにローン名義もご自身に変更するようにしてください。しかし専業主婦(夫)やパート勤務だった場合には、金融機関からローンの返済能力を認められる可能性は低いため、別の方法を考えなければなりません。

4、まとめ

この記事では、離婚後に住み続けている元配偶者名義の家が競売にかけられる理由と、競売にかけられた場合の対処法について解説しました。

一度競売にかけられると、それを阻止することはできません。トラブルを回避するには名義を居住者に変更しておくのが一番ですが、もし名義変更ができない場合は、競売を100%防ぐことは不可能です。

名義変更や財産分与など、離婚時の家の取り扱いには法律の知識が複雑に絡んできます。問題を先延ばしにして、ある日突然、住む家を失わないためにも、弁護士への相談を検討してみてください。

ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士は、財産分与や競売事案の知見が豊富です。税金の問題についても、グループ傘下の税理士法人と連携した対応が可能となります。離婚に伴うご自宅の名義変更や、財産分与そのものでお悩みのときは、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています