【企業向け】退職勧奨と解雇の違いとは? 選択基準と注意点を解説
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北海道労働局が公表している情報によると、令和元年度に総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働紛争に係る相談件数は、9258件でした。そのうち、解雇に関するものが1116件、退職勧奨に関するものは669件となっております。
企業が労働者を解雇しようとする場面では、解雇を拒む労働者とのトラブルが発生する可能性があります。企業としては、できる限り穏便な方法で労働者との労働契約を終了させたいところでしょう。トラブルを回避して、円満な退職を実現するためには、解雇ではなく「退職勧奨」という方法をとった方がよい場合もあります。
本コラムでは、退職勧奨と解雇の違いや注意点について、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、退職勧奨と解雇の違い
まず、「退職勧奨」と「解雇」について、それぞれの制度の概要や違いを解説します。
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(1)退職勧奨とは
退職勧奨とは、労働者に対して、会社が自主的に退職するよう促すことをいいます。
退職勧奨は、あくまで労働者に退職を「勧める」ということでしかないため、退職勧奨に応じるかどうかは、労働者の自由な意思に委ねられています。
したがって、労働者が退職勧奨に応じないときは、労働者との間の労働契約を終了させることはできません。 -
(2)解雇とは
解雇とは、会社からの一方的な意思表示によって、労働者との間の労働契約を強制的に終了することをいいます。
退職勧奨の場合とは異なり、解雇を言い渡された労働者には、解雇に応じるかどうかの決定権はありません。原則として、会社が解雇を言い渡した時点で、労働契約が終了することになります。
このように、「退職する際に労働者側に決定権があるかどうか」が、退職勧奨と解雇の違いとなります。
2、退職勧奨と解雇のどちらを選ぶべきか
以下では、退職させたい労働者がいる場合に退職勧奨と解雇のどちらにすべきかについて、選択する際に考慮すべきポイントを解説します。
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(1)解雇の要件を満たしているかどうか
解雇を選択した場合には、会社の一方的な意思表示だけで労働者との間の労働契約を終了させることができます。
ただし、解雇は、労働者にとっては仕事という生活の基盤を失うことになる重大な処分です。そのため、労働契約法では、解雇をするための厳格な要件が定めることによって労働者を保護しています。
したがって、労働契約法によって定められている解雇要件を満たさない解雇については、不当解雇として無効となるのです。
一方で、退職勧奨には、解雇のような厳格な法規制は存在しません。
労働者側に解雇事由などがない場合にも、退職勧奨を行うことはできます。
解雇要件を満たすかどうか微妙な事案については、のちに不当解雇であると立証されて無効になってしまうリスクを避けるために、退職勧奨を選択すべきでしょう。 -
(2)トラブルが生じる可能性の有無
解雇は、会社側の一方的な意思表示によってなされるものです。
そのため、解雇を選択した場合には、解雇に不満がある労働者から不当解雇を理由に訴訟提起されるといったリスクが生じます。
不当解雇でない場合にも、恨みや怒りを抱いた労働者が職場でトラブルを起こすおそれがあるでしょう。
これに対して、退職勧奨は、会社と労働者との合意によって退職をする方法です。
労働者が合意した場合には、トラブルが生じることは少なくなります。
したがって、円満に手続きを進めたい場合には、退職勧奨を選択するとよいでしょう。 -
(3)労働者の退職に応じる意思の有無
退職勧奨には、労働者の合意が必要不可欠となります。
したがって、労働者が退職に合意しないことが明らかである場合には、勧奨をしても労働者を退職させることはできません。
もし退職勧奨をしても労働者が合意しなかった場合には、解雇を検討しましょう。
ただし、先述したように、解雇を実施するためには解雇要件が満たされている必要があります。
3、退職勧奨が違法になるケース
退職勧奨の方法によっては、「違法な退職勧奨」と評価されてしまう可能性があるため、企業としては十分に注意する必要があります。
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(1)違法な退職勧奨とは
退職勧奨は、労働者に対して退職を勧める以上の効果はありませんので、退職に応じるかどうかは、労働者が自由に判断することができます。しかし、問題のある労働者を何とか辞めさせたいという思いから、執拗(しつよう)な態様で退職勧奨が繰り返されることがあります。
社会通念上相当とされる限度を超えて、退職勧奨が行われた場合には、違法な退職勧奨と評価されるおそれがあります。違法な退職勧奨になってしまった場合には、退職の合意が無効と判断されるだけでなく、悪質なケースについては、労働者側から損害賠償請求を受けるリスクもありますので注意が必要です。 -
(2)退職勧奨が違法になるケース
以下では、退職勧奨が違法となるケースについて、具体的に解説します。
① 退職勧奨を拒否しているにもかかわらず、執拗に繰り返されたケース
退職勧奨に応じるかどうかは、労働者が自由に決めることができます。
そして、労働者が退職勧奨に応じない意思を明確に表示した場合にも、同一の条件で退職勧奨を継続することは、違法な退職勧奨と判断される可能性があります。
会社としては、退職勧奨を継続する場合には、前回提示した条件よりも有利な条件を提示するなどして、退職勧奨が執拗なものとなってしまわないように注意しましょう。
② 心理的威迫や名誉感情を害する方法で行われたケース
退職勧奨に応じさせるために、労働者に対して心理的圧迫感を与えたり労働者のプライドを傷付けたりする方法をとることは、違法であると評価される可能性があります。
具体的には、「他の従業員がいる前で怒鳴る」「大人数で説得し続ける」「わざと仕事を減らす」「仕事中に無視をする」など、いやがらせのような手段で退職勧奨をすることです。
これらの手段は決して採らないようにしましょう。
③ 退職勧奨に応じない労働者の待遇を悪化させるケース
退職勧奨には退職を「勧める」以上の効果はありませんので、退職勧奨に応じなかったという理由から労働者の労働条件を不利に変更することは認められません。
たとえば、「退職に応じなかった場合には給料を減らす」「退職しないなら遠方の支店に転勤させる」などの不利な条件を突きつけながら退職勧奨を行うことは、労働者の自由な退職意思の形成を妨げるものであるため、違法な退職勧奨であると評価される可能性があるのです。
4、退職勧奨の進め方・拒否された場合の対処法
以下では、退職勧奨の進め方および退職勧奨を労働者に拒否された場合の対処法について説明します。
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(1)退職勧奨の進め方
退職勧奨は、一般的には以下のような方法で進めていきます。
① 対象労働者との面談
退職勧奨は、他の労働者のいる環境で行うのではなく、別室に呼び出すなどして、個別の面談によって行いましょう。
また、退職勧奨の面談が長時間に及んだり、面談回数が複数回に及んだりすると違法な退職勧奨があったと評価されるおそれがあります。
一回あたりの面談時間が長くならないようにするとともに、労働者が退職勧奨を拒否した場合には同一条件での退職勧奨を繰り返さない、といった配慮が必要になります。
また、退職勧奨をする際に、労働者1人に対して大人数で対応することも、労働者に対して心理的な圧迫を与えるおそれがあります。
対応する人数は、できる限り少数にしましょう。
さらに、退職勧奨に応じる場合の条件についても、正確に伝えることが大切です。
② 退職合意書の作成
労働者との間で、退職に関する合意が成立した場合には、退職合意書を作成します。
退職の合意が成立したことおよび退職の条件を退職合意書に明確に記載しておくことによって、退職後のトラブルを回避しやすくなります。
また、退職届の提出だけでは、具体的な退職条件が不明確なままとなってしまいます。
したがって、原則として、退職合意書は必ず作成するようにしましょう。
③ 離職票の交付
退職勧奨による退職は、会社から退職を勧められて退職したものですので、退職理由としては、「自己都合退職」ではなく「会社都合退職」として扱われます。
そのため、退職した労働者に対して離職票を交付する場合には、退職理由を「会社都合退職」とした離職票を交付するようにしましょう。 -
(2)退職勧奨を拒否された場合の対処法
以下では、労働者が退職勧奨を拒否した場合に実施できる対処法を解説します。
① 退職金の上乗せなど有利な条件を再提示
労働者が退職勧奨を拒否する理由として、現状の退職条件では退職に応じられないという場合もあります。
そのような場合には、労働者の希望を聞いたうえで、退職金の上乗せなどによって退職勧奨に応じてもらえるかどうかを打診するとよいでしょう。
条件を有利なものに変更したうえで改めて退職勧奨を行えば、「執拗な退職勧奨」と評価されるリスクも低減させられます。
② 解雇の検討
条件を有利なものに変更しても退職勧奨に応じない場合には、それ以上退職勧奨を続けると、違法な退職勧奨と評価されるリスクが高くなります。
このような場合には、退職勧奨はその時点でいったん中止として、労働者の解雇を検討しましょう。
ただし、労働者を解雇する場合には、労働契約法が定める厳格な解雇要件を満たす必要があります。
そのため、安易に解雇を選択してしまうと、不当解雇を理由とする訴訟リスクが生じてしまいます。
解雇を検討する際には、対象労働者の解雇が要件を具備しているかどうかを慎重に判断する必要があるのです。
③ 弁護士に相談
退職勧奨をすること自体には問題はありませんが、行き過ぎた方法で行われた場合には、違法な退職勧奨になってしまう可能性があります。
また、退職勧奨から解雇に切り替えて検討する際にも、解雇要件を満たしているかどうかについては、専門的な判断が必要になってきます。
また、退職勧奨や解雇には、労働者との間でトラブルが生じる可能性があります。
法的な基準を満たしながら適切に退職勧奨や解雇を進めていき、のちのトラブルを予防するために、専門家である弁護士のサポートを得ることをおすすめします。
問題のある社員に対する扱いに悩むことがあれば、まずは、弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
退職勧奨は、適切に行わなければ、違法なものとして評価される場合があります。
また、解雇には厳格な要件が定められているため、安易な解雇は、労働者側から不当解雇を主張されるリスクがあります。
後にトラブルや紛争に発展することなく、適切に労働者を退職させるためには、法律の専門家である弁護士に相談することが重要になります。
企業の経営者で、労働者とのトラブルでお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています