労基署の臨検調査|調査の流れや、違反発覚時の刑罰を解説

2023年02月07日
  • 労働問題
  • 臨検調査
労基署の臨検調査|調査の流れや、違反発覚時の刑罰を解説

長時間労働が疑われるとして、令和3年度に北海道労働局より監督指導を受けた事業場は1567事業場でした。

労働基準監督署による「臨検調査(臨検監督)」は、事業場において、労働基準法または労働安全衛生法に違反する状態が存在しないかどうかをチェックするために行われます。臨検調査で問題が発見されると、行政指導や刑事罰の対象になるため、会社としては日頃から法令遵守に努めることが大切です。

本コラムでは、労働基準監督署の臨検調査について、種類・流れ・違反発覚時のリスク・普段からの対策などをベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、臨検調査に関する基礎知識

労働基準監督署は、会社などの事業場において、労働基準法や労働安全衛生法への違反がないかを確認するために「臨検調査」を行うことがあります。
まずは、臨検調査に関する基本的な知識について解説します。

  1. (1)臨検調査とは

    臨検調査とは、労働基準監督官によって行われる、事業場の実地調査のことです
    労働基準監督官は事業場を訪問して、その場で書類をチェックしたり、経営者や担当者に質問したりして、労働基準法や労働安全衛生法への違反がないかを調査します。

    臨検調査は、労働基準監督官に法令上認められた権限事項です(労働基準法第101条第1項、労働安全衛生法第91条第1項)。

  2. (2)4種類の臨検調査

    臨検調査は、「定期監督」「災害時監督」「申告監督」「再監督」の4種類に分類されます。

    1. ① 定期監督
      労働基準監督署が監督計画に基づき、調査対象を任意に選択し、事業場における違反の有無を全般的に調査します。

    2. ② 災害時監督
      事業場において労働災害が発生した場合に、原因究明や再発防止の指導を目的として行われる調査です。

    3. ③ 申告監督
      労働者による違反行為の申告があった場合に、申告内容に関連して行われる調査です。

    4. ④ 再監督
      臨検調査の結果、是正勧告を受けた事業場に対して行われる再調査です。
  3. (3)臨検調査が行われる場合の流れ

    臨検調査は、おおむね以下の流れによって実施されます。

    1. ① 臨検調査の予告
      電話などを通じて、臨検調査を行う旨とその日程が予告されます。
      予告された日程では調査への対応が難しければ、日程を変更してもらえる場合もあります。

      ただし、予告なしの抜き打ちで臨検調査が行われるケースもある点に注意してください。

    2. ② 臨検調査の実施
      臨検調査の当日には、労働基準監督官が事業場を訪問します。

      労働基準監督官には、事業場への臨検に加えて、帳簿・書類の提出要求や、使用者・労働者に対する尋問(質問)などの権限が認められています。
      使用者・労働者は、労働基準監督官による調査への協力を拒否することができません。

    3. ③ 臨検調査結果の通知
      臨検調査の完了後、労働基準監督官より調査結果が通知されます。
      法令違反はないものの、改善が必要と判断された場合には「指導票」、法令違反が発見された場合には「是正勧告書」が交付されるのが一般的です。

      なお、結果の通知は、臨検調査の当日に行われる場合もあれば後日となる場合もあります。

    4. ④ 是正報告書の提出
      是正勧告書が交付された場合には、勧告内容に応じた改善を行ったうえで、労働基準監督署に対して、是正報告書を提出します。

      なお、是正報告書のとおりの是正が行われたかどうかを確認するため、後日に再監督が行われる場合もあります。

2、臨検調査を拒否したら、刑事罰の対象になる

臨検調査を拒否する行為は、刑事罰の対象とされています
臨検調査の最中に労働基準監督官を妨害する行為、尋問(質問)への回答拒否や虚偽の陳述、帳簿書類の提出拒否や虚偽記載も、刑事罰の対象となります

上記の違反行為の法定刑は、労働基準法に関する場合は「30万円以下の罰金」(同法第120条第4号)、労働安全衛生法に関する場合は「50万円以下の罰金」です(同法第120条第4号)。
なお、法人の代理人・使用人・従業者による違反の場合は、法人に対しても同じ罰金刑が科されます(労働基準法第121条、労働安全衛生法第122条)。

3、臨検調査で問題が見つかったらどうなる?

臨検調査において、労働基準法または労働安全衛生法への違反が見つかった場合は、行政指導や行政処分、刑事罰の対象になる可能性があります。

  1. (1)行政指導が行われる

    違反の程度が軽微であれば、労働基準監督官が口頭または文書によって注意を与え、改善を促す程度で済むことが多いです
    これを「行政指導」といいます。

    行政指導の例としては、指導票や是正勧告書の交付などが挙げられます。

  2. (2)行政処分が行われる

    「何らかの強制力をもって違反状態を是正させるべきだ」と判断された場合には、法的な強制力のある行政処分が行われることもあります

    <労働基準法に基づく行政処分>
    • 附属寄宿舎の使用停止等の措置命令(労働基準法第96条の3)
    • 報告命令、出頭命令(同法第104条の2)

    <労働安全衛生法に基づく行政処分>
    • 作業の停止命令、建築物等の使用停止命令など(労働安全衛生法第98条、第99条)
    • 講習の指示(同法第99条の2)
    • 報告命令、出頭命令(同法第100条)


    これらの行政処分に違反した場合には、刑事罰の対象となる点に注意してください。

  3. (3)逮捕・起訴・刑事罰もあり得る

    労働基準法または労働安全衛生法への違反行為は、刑事罰の対象とされています(労働基準法第117条以下、労働安全衛生法第115条の3以下)

    したがって、特に悪質な違反行為については、経営者や担当者の逮捕・起訴や、刑事罰を受ける可能性がある点に注意してください。

4、臨検調査に備えた普段からの対策

臨検調査において問題が発覚すると、会社としては、煩雑な対応を迫られることになります。
また、行政処分や刑事罰によって業務がストップしてしまう事態になる可能性もあるのです。
このような事態を避けるため、労働基準監督官による臨検調査に備えて、以下のような対策を普段から行うようにしましょう。

  1. (1)労働基準法・労働安全衛生法のルールを正しく理解する

    臨検調査の目的は、労働基準法または労働安全衛生法への違反があるかどうかを確認することです。
    したがって、会社としては、臨検調査に備える観点から、労働基準法・労働安全衛生法のルールを正しく理解することが大切になります。

    経営陣や管理職が法令に関する理解を備えることはもちろん、従業員研修などを通じて従業員にも周知して、社内全体での知識を共有するようにしましょう

  2. (2)社内全体で労働法令の遵守を徹底する

    労働基準法・労働安全衛生法のルールに関する正しい理解を前提としながら、実際に法令遵守を徹底するために、社内の体制を整備することも重要です

    まずは、法令遵守の意識を従業員全体に浸透させるため、定期的にコンプライアンス研修などを実施することを検討してください。
    また、法令違反の発生を未然に防いだり、万が一法令に違反してしまった場合には早期に解消したりするため、業務上のダブルチェック・トリプルチェック体制を整えることも大切です。
    さらに、業務において問題になりやすい法令上の留意事項を業務マニュアルにまとめておき、いつでも参照できるようにしておくのもよいでしょう。

  3. (3)人事労務について弁護士のアドバイスを求める

    弁護士は、臨検調査で指摘されやすい事項や、会社において法令遵守がおろそかになりがちな事項については、法律の専門知識や実務経験に基づいた豊富な知見を有しています。
    そのため、臨検調査において問題が指摘されることを防ぎたい場合には、普段から人事労務について弁護士のアドバイスを求めることが有効です

    弁護士は、社内規程の整備・業務手順のチェック・従業員からのクレームへの対応などに関して、法令および労働実務の観点から、クライアント企業の実態に即したアドバイスを行うことができます。
    弁護士と顧問契約を締結すれば、人事労務に関する疑問点などについて、いつでも気軽に相談することができるでしょう。

    人事労務に関するコンプライアンスを強化したい企業や、労働基準監督署の臨検調査によるリスクをできる限り抑えたい企業は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください

5、まとめ

労働基準監督署の臨検調査は、労働基準法や労働安全衛生法がきちんと遵守されているかどうかを確認するために行われます。
事前の予告もなく抜き打ちで行われる場合もありますので、各企業は臨検調査に備えて、労働法令の遵守状況を普段から点検しておきましょう。

臨検調査において問題が発覚すると、行政処分や刑事罰を受けて、事業の運営に支障を来す事態になるおそれもあります。
臨検調査のリスクを少しでも減らすために、弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所は、労務管理に関する企業経営者・担当者からのご相談を随時受け付けております
法令・労働実務の観点からチェックを行い、クライアント企業の実情に即した形で、労務管理に関する改善策をアドバイスいたします。
労働基準監督署の臨検調査に備えておきたい企業経営者や担当者の方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています