ケース別の本採用通知書の作成方法と通知する際の注意点

2024年08月19日
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ケース別の本採用通知書の作成方法と通知する際の注意点

内定を出し入社に至った従業員が、試用期間中にさまざまな問題があることが判明した際、会社が本採用を拒否することは可能なのでしょうか。

実は、会社には、試用期間中の従業員に対する「解約権」があります。ただし、解約権を行使するには一定の条件をクリアし、適切な本採用拒否の通知書を発行しなければなりません。

この記事では、本採用を拒否するにあたっての通知書や気を付けるべきポイントなどをベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、本採用拒否の可否、本採用拒否の通知書とは? 書面に記載すべき項目

試用期間が満了する際に、従業員に何らかの問題があると判明した場合、会社は「解約権」を行使できる可能性があります。解約権とは何か、本採用を拒否する場合の通知書はどう記載すべきか、などについて説明します。

  1. (1)試用期間の概要

    試用期間とは、実際に就労させながら、労働者が職業能力や企業適格性をもっているのかの判定を行うことを目的にした期間です。正社員として本採用する前に、試用期間を設ける会社は少なくありません。

    ただし、この試用期間は、仕事への適性のチェック機能としてだけではなく、研修・教育期間としての目的もあわせ持つこともあります。新卒採用であれば、特に研修といった意味合いは強いでしょう。一方で、即戦力としての中途採用者であれば、適性の判定期間という意味が強いでしょう。

    会社が従業員に対して、適格性の欠如を理由に本採用を拒否できるかは、試用期間の目的と法的な性質との関係が重要になります

    試用期間の法的性質について、最高裁判所は、(最判昭48・12・12労判189・16)は、就業規則の文言や運用などによるとしつつ、解約権留保付雇用契約と判示しました。

    これは、本採用前で社員として雇用契約が成立しているものの「会社側には解約権が与えられる」という意味として読めます。もっとも、実際に本採用拒否が問題となる場面では、後述するように通常の解雇と同様の基準で判断していくことになります。

  2. (2)「解約権」で本採用を拒否できるのか?

    解約権の行使は無制限ではなく、雇用契約の基本的なルールである「解雇権濫用の法理(労働契約法16条)」が適用されます。つまり、試用期間の際に本採用を拒否することは、解雇権濫用の法理に基づき「解雇するための合理的な理由」が必要となります。

    本採用拒否(=解雇)の際の「合理的な理由」の考え方のポイントは、以下の2つです。

    1つ目は、個別事案ごとに判断される点です。業種や会社ごとの特性、求める社員の職種や水準、本採用を拒否する理由などに応じて、総合的に判断されます。

    2つ目は、その試用期間が設けられた目的に照らされて評価される点です。たとえば、高度な専門性を要求する職種で、その適性を判定するための試用期間であれば、その適性に関する評価が適法性判断の重要な要素となります。

  3. (3)本採用拒否通知書とは?

    試用期間であっても、本採用を拒否するのであれば、解雇に関するルールが適用されるため、30日前に解雇予告の通知をしなくてはなりません。この解雇予告通知が、いわゆる本採用拒否通知書を意味します

    なお、労働基準法は、試用期間が14日を経過するまでは、その者を解雇(本採用を拒否)しても解雇予告や解雇予告手当は不要であるとしています。

  4. (4)本採用拒否通知書に記載すべき事項

    本採用拒否通知書に最低限記載すべき項目は、以下のとおりです。

    • 対象となる従業員の氏名
    • 会社名(代表者名を追記しても可)
    • 本採用拒否通知書の作成日
    • 本採用を拒否(解雇)して、雇用契約を終了させる日付
    • 本採用を拒否(解雇)する旨の意思表示


    さらに、本採用を拒否する理由を記載するか、というのも悩ましい問題ですが、解雇後に労働者から本採用を拒否(解雇)する理由を求められた場合には、回答する必要がありますので、この段階で記載することも合理的です。

    ただし、仮に本採用拒否の適法性が問題になった場合には、審理において非常に重要なポイントになりますので、弁護士に相談してから記載するなど、慎重に検討するべきです

2、【ケース別】本採用拒否通知書の書き方のポイント

ここでは、新卒や中途など、ケース別の本採用拒否通知書の書き方を解説します。また、特に注意したい、拒否の理由の書き方についてもあわせて説明します。

  1. (1)新卒の場合

    新卒社員の場合には、中途採用者と異なり、高い専門性は要求されないことが一般です。

    したがって、正社員として本採用しないためには“基礎的な能力がない理由”が必要となり、会社にとってハードルは高くなるでしょう。さらに、新卒で社会人経験のない者を採用しているのですから、会社の教育研修や、適した仕事の見極めが十分だったかが問題となる可能性もあります。

    よって、十分な教育研修を受けさせ、個性に応じた職場選びをしたが、他の新卒採用者より当該社員の能力が著しく不足していた、と説明できる場合にのみ、本採用を拒否できるといえるでしょう。

  2. (2)中途採用の場合

    中途採用は、専門性を要求されることが多く、試用期間は、その適性を判定するためのものであるといえます。

    たとえば、本採用拒否が認められた裁判例では、事業開発部長や営業職としての適格性、人事本部長としての業務状況などが具体的に検証されています。

    したがって、本採用拒否通知書では、その職種にとって常識的に必要な能力、あるいは採用時に特に明示した能力がその社員には欠如していた、と十分に説明できる内容にしておくことが重要といえるでしょう。

  3. (3)メンタル不調等により欠勤などを繰り返す場合

    メンタル不調や病気により遅刻や欠勤を繰り返し、就労のめどが立たない従業員については、労務提供自体ができていないものであること、採用当初から何ら想定していなかったものであることを踏まえれば、本採用拒否することができるケースが多いでしょう。また、会社の就業規則には解雇の規程を明記しておくことも大切です

3、本採用拒否をする際の注意点

  1. (1)就業規則などに本採用を拒否する事由を定める

    就業規則などに、本採用を拒否する場合を定めることで、採用した従業員が意識し予測可能性が高まる結果、解雇には応じやすくなり、会社としても本採用を拒否する理由付けとして説得的なものとなります。

  2. (2)本採用を拒否する前に退職勧奨

    本採用の拒否は、従業員に対する解雇であって、当然紛争リスクは高いものです。従業員はそのような扱いに納得がいかなければ、裁判所を介した法的手続が行われることになってしまうでしょう。そこで、いきなり、本採用を拒否(解雇)するのではなく、対象となる従業員に対して本採用をすることができない理由を丁寧に説明し、自主的な退職を促すことがよいでしょう。

  3. (3)試用期間中の行動を記録に残す、フィードバックを行う

    試用期間中の現場での行動実績・評判はもちろんですが、研修であったとしても課題やその評価についても、適切に評価を残しておき、実際に本採用を拒否した場合の証拠として活用できるようにしておく必要があります

    特に専門性に対する期待が強い場合には、即戦力としてすぐに業務に取り組んでもらうことが多いでしょうが、期待した水準に到達してないのに何もいわなければ、会社はそれで認容したと評価されかねません。

    本人に改善の機会を与えるためにも、期待した水準に到達していない仕事に気付いた場合は、こまめに指摘して会社が期待する水準を具体化し、そのことを記録に残しておきましょう。

4、本採用拒否を弁護士に相談すべき理由

本採用の拒否は解雇であり、法的な紛争リスクが高い行為なため、弁護士に相談することをおすすめします。事前に相談することで、従業員への対応について適切なアドバイスを受けられますし、違法とならない退職勧奨の具体的な方法も知ることができます。

また、本採用を拒否通知書の作成や、実際に告知する際の従業員に対する面談も依頼することができるでしょう。本採用拒否によりトラブルになった際にも、事前に相談していればスムーズな対応も期待できます。

5、まとめ

本採用を拒否することは、法的な紛争リスクが高く、周到な準備が必要です。本採用を拒否するにあたっての面談や本採用拒否通知書の文面など、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。あわせて、就業規則の記載内容も平時から弁護士相談し備えておくべきといえます。

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