離婚時の財産分与で退職金は請求できる? その割合や寄与度について
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平成28年に成立した札幌市内の離婚件数4096件のうち、同居期間20年以上の夫婦が658件、約16%を占めていることをご存じでしょうか。(平成28年札幌市衛生年報より)
札幌でも、子どもが巣立ち、長年すっかり冷え切った夫婦関係を終わらせたいと考えている夫婦は少なくないようです。
その場合、離婚時の財産分与に退職金が含まれるのかは気になるところではないでしょうか。財産分与について、特に退職金における分与額を決定する際に考慮すべきことを札幌オフィスの弁護士が解説します。
1、退職金は財産分与の対象になる?
離婚時には、夫婦の共有財産の清算を行い、相手方の財産の一部を「財産分与」として受け取ることができます。財産分与の対象となる財産は、預貯金、給与、株券、不動産などです。そして、その名義は共有でなく、どちらか一方となっていても構いません。実質的に夫婦が共同で築いた財産であるということができれば、名義のいかんにかかわらず財産分与の対象となります。
夫名義で夫が会社から受け取る退職金も、給与の後払いとしての性質があるので、給与と同様に財産分与の対象となります。ただし、常に財産分与の対象となるわけではない点に注意が必要です。
2、退職金を財産分与の対象にできるケースと計算方法
まずは勤務先の雇用契約書などで退職金の支払規定などを確認しましょう。そもそも退職金がない契約であれば、もちろん分与の対象外です。
また、退職時にまとめて支払われるのではなく前払いとして月々の給料に含まれているというケースもあります。もらえるはずだという思い込みには注意が必要です。退職金を財産分与の対象にできるかは、退職金がすでに支払われているかどうか、また支払われていない場合は、支払われる可能性が高いかどうかで判断されます。具体的な状況を見ながら請求すべきかどうか判断するようにしましょう。
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(1)退職金がすでに支払われている場合
すでに退職金が支払われているケースでは、ほとんどの場合財産分与の対象にできます。しかし退職金が別の財産に形を変えているということもあるでしょう。たとえば、車や家を購入して、ローンの繰り上げ返済にあてた場合には、すでに退職金は残っていないかもしれません。その場合には退職金で購入した財産が分与の対象と扱われます。
では、実際にどれくらいの退職金を受け取ることができるのでしょうか。 分与できるケースでは多くの場合、勤続年数に対する婚姻期間の割合と、配偶者の労働に対する寄与度で計算されます。
ただし、退職金を得るにあたっての妻の寄与度を50%として考えるケースが一般的です。その会社で働いていない妻も、夫の勤務を支えた期間分、退職金の半額が分与されるという計算となります。したがって、退職金がすでに支払われたあとに結婚した場合は、婚姻期間による寄与度がないため、もらえない可能性があるでしょう。
また、退職金が支払われてから相当な時間が経過しており、退職金が何に使われたのかわからない状況では、分与を請求するのは難しいかもしれません。 -
(2)退職金がまだ払われていない場合
退職金がまだ支払われていない場合でも、支払いが確実であるときには分与もできると考えられます。まずは、確実性を加味して仮の退職金を算出します。支払いの確実性を判断する基準として、確認すべきポイントはいくつかあります。
•会社の経営状態
規則上は退職金がもらえると記載されていても、会社の規模によっては、退職までに倒産や業績悪化でもらえなくなる可能性もあります。
仮に退職金が出るかどうか不確定で、退職金が財産分与の対象とならないような場合にも、話し合いや調停で、「将来退職金が出たらその時点で退職金の一部を支払う」という旨の合意をしておくことも有効です。
•退職までの期間
定年までまだ10年以上ある場合などは、支払いの確実な大企業や、公務員として働いている場合でも、財産分与の対象にできる可能性は下がります。
会社の規定通りに、数年後に給付されるはずの額を、現在の額に引き直して計算します。この引き直しについては、ライプニッツ係数等を用いて計算するのですが、若干複雑ですので、具体的な計算は弁護士などに依頼するとよいでしょう。
•別居期間がある場合
この場合は、別居開始時に自己都合退職したと仮定して、そのときまでの退職金相当額を計算します。
3、退職金の分割割合を決める方法
財産分与対象となる退職金の総額がわかったら、次は分割の割合について話し合います。
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(1)夫婦の「寄与度」を考えつつ分割割合を決める
カギとなるのは、夫婦の財産形成への「寄与度」です。
裁判や調停では、夫婦それぞれ1/2とするのが主流です。夫が働き、妻が専業主婦として支えてきた家庭において、夫の稼いだ収入を夫独自の財産と考えるのは適切ではありません。夫が仕事に専念できたのは、妻が家事や育児を一手に引き受けてきた恩恵を受けてきたからだと考えるべきです。
したがって、退職金の分割割合を寄与度に応じた割合にしても良いでしょう。子どもの人数や親の介護などの負担も考慮に入れることも考えられます。これらの不確定要素を妻の「内助の功」によって支えられ、夫が安定して働き続けることができたと考えられるためです。
分割の割合を合意できたならば、分与の内容を含め離婚協議書としてまとめましょう。将来の安心のために、この離婚協議書を強制執行認諾条項つきの公正証書にすることをおすすめします。公正証書の作成には費用が掛かりますが、法的な強制力を持つ正式な書類にすることができます。公証役場に夫婦で赴き、公証人立ち会いのもと内容の確認と署名捺印を行えば作成可能です。
強制執行認諾条項つきの公正証書があれば、合意した額が相手から支払われないなどのトラブルが起きた際に、裁判なしに強制執行の手続きが行えます。また、約束した金額より過剰に請求されるときに拒む材料にすることもできるでしょう。 -
(2)話し合いがまとまらなければ調停を申し立てる
お互い感情的になってしまい、なかなか合意に至らないということもあるでしょう。相手の主張に不満がある、そもそも相手が話し合いに応じないというときは、家庭裁判所に調停を申し立てるという手もあります。
調停は、調停委員を介して当事者による自発的解決を促す制度です。最終的な判断はあくまで当事者にゆだねられていますが、当事者同士で直接話さなくて良いので、落ち着いて話を進めることができます。また、第三者である調停委員の意見を聞くことで、より客観的に分割割合を決めることができる可能性もあるでしょう。
調停で合意に至ることができれば、その結果は「調停調書」に記録されます。調停調書の内容を守らない場合は、裁判なしに強制執行が可能です。 -
(3)調停が不調に終わった場合は離婚裁判
調停でも解決できない場合は、離婚裁判を検討する必要があるかもしれません。裁判によって離婚をするには、法律が定める離婚の原因(民法770条1項各号)が必要とされています。
具体的には、不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みのない強度の精神病、その他、婚姻を継続しがたい重大な事由(暴行、浪費、犯罪、性格の不一致など)であることを認められる必要があります。
裁判では、当事者の話し合いではなく、裁判官の判断により財産分与が決定されます。もしも裁判で争う場合、話し合いや調停の場合と比較して、証拠の重要性が増すものです。裁判では、相手の退職金額の明細や財産目録など、きちんと証拠をそろえて財産分与を請求することになります。
裁判は調停よりも多くの費用と時間を要することが多く、また精神的な負担もあります。メリットやデメリットについて弁護士としっかりと検討して、踏み切ることになるでしょう。
4、まとめ
退職金を含めた財産分与の計算は、婚姻期間と勤続年数の関係、その他さまざまな要因を加味して判断していく必要があります。客観性のある金額を知りたい場合には、弁護士や税理士に相談することをおすすめします。
また、家事など金額に現れない寄与度は、第三者を介して説得することで希望する割合に近づける可能性があります。夫婦だからこそ見えにくい苦労もあるでしょう。離婚に伴い発生する退職金の財産分与問題に対応した経験が豊富な弁護士に依頼することで、明確にすることができるかもしれません。
ベリーベスト法律事務所札幌オフィスでは、離婚全般や、財産分与に関する相談やアドバイスを行っています。退職金が分与してもらえるのか、また寄与度を大きくしたいがどうすれば良いのかわからないときなど、ぜひお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています