【前編】子どもを置いて家出した! 離婚しても親権は得られるかを解説

2019年12月10日
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【前編】子どもを置いて家出した! 離婚しても親権は得られるかを解説

札幌市がおこなった調査によると、平成27年中の札幌市の離婚件数は4492件、離婚率は2.31%でした。例年、全国平均よりもわずかに多い件数が記録されています。

離婚する際に気になることのひとつに、親権があげられます。大切に育ててきたわが子の親権が欲しいと願う気持ちは、どの親も同じでしょう。しかし、やむを得ない事情から子どもを置いて家出をしてしまった場合、親権の獲得に影響するのでしょうか?
本コラムでは、家出をしたことで親権の獲得に不利益を被る可能性があるのかと、離婚をする際に考えておきたい事柄を、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。

1、親権とは? 定義や親権が得られる条件を解説

まずは、離婚の際に問題となることが多い「親権」について確認しておきましょう。

  1. (1)親権の定義

    親権とは、成人していない子どもの父母が持つ、子どもに対する身分上および財産上の権利・義務を意味します。夫婦と子どもがともに生活する以上、子どもの親権は夫婦で共同に持つのが原則です。

    親権を持つ人のことを「親権者」と呼び、親権者は、成人していない子どもの財産管理や看護教育に関する権利を行使できます。親権は「親が持つ権利」と定義されているように見えますが、あくまでも「子どものため」に存在する制度です。親権は、親権者の権利であると同時に、子どもに対する義務でもあります。
    そのため、子どもに対して有害・不適当な親権の行使がある場合、裁判所の手続きによって親権の停止や喪失といった処分が下されることがあります。

  2. (2)親権が認められる条件

    夫婦の間に子どもが生まれると、夫婦はその子どもに対する親権を持つことになります。ところが、離婚や夫婦一方の死別などの事情があれば、単独の者が親権を得ます。

    親権が認められるには、一定の行為能力が必要です。婚姻していない未成年や、意思能力が低いと判断される成年被後見人などは、親権が認められません。

  3. (3)裁判で重視される点は?

    離婚する夫婦のどちらに親権が認められるのかは、裁判所がどのような点を重視するのかに左右されます。

    根幹にあるのは「子どもの利益」が最優先されるという考え方ですが、夫婦のどちらに親権を認めるのが子どもにとっての利益になるか、裁判所は次の4点を基準に判断する傾向にあります。

    ●継続性
    子どもの生活環境をできるだけ変更せず、安定した環境を継続できる一方が優先されるという考え方です。
    裁判所は、子どもに対する養育の実績を評価するため、簡単にいえば「父と母のどちらが子どもの面倒を主に見てきたのか、子どもとの時間を多く過ごしてきたのか」が判断基準となります。

    ●子どもの意思
    夫婦が離別する場合、一定の年齢以上であれば子どもの意思・意見を十分に尊重して判断がされます。
    裁判所では、子どもが10歳以上の場合は意見の聴聞、15歳以上の場合は意見陳述の聴取がおこなわれます。
    子どもの意思については、発せられた言葉が真意なのか、真意との間にずれがないか、慎重に判断すべきと考えられており、発言だけでなく、態度や行動を総合的に観察して検討がされます。

    ●兄弟姉妹の不分離
    子どもの成育のためには、兄弟姉妹は同じ環境で育つほうが望ましいと考えられています。また、親だけでなく兄弟姉妹とも離別することになれば、子どもは二重の心理的負担を強いられることになるため、避けるべきとの考えがあります。
    兄弟姉妹を分離せずに養育できる環境を用意できるほうが、優先されます。

    ●母性優先
    これまでは、子の発達段階を考えると、乳幼児期には、母の存在が情緒的成熟のために不可欠であって、スキンシップを含めて母の受容的で細やかな愛情が必要であると考えられていたため、親権は母親に認められやすいという傾向がありました。しかし、最近では単に生物学上の母という事情だけではなく、監護養育状況を観察して、母性的な役割を持つ監護者との関係を重視すべきことが指摘され、必ずしも「母親が優先される」というわけではありません。
    現在、乳幼児の監護に対する父母の役割分担意識は多様化していますが、実情を見ると、母親が監護者としての主たる役割を担っていることが多いです。そのため、主な監護者である母親の監護養育に大きな問題点がなければ、母親を親権者として指定されることが多いです。もっとも、母親が育児を放棄したり、子どもに虐待を加えているといったケースでは、母親といえども優先されません。

2、子どもを置いて家出した場合、親権獲得に影響するのか?

離婚に踏み切るために「家出」という方法をとるケースは、決して珍しくはありません。ただし、子どもを家に置いたままで家出をすると、親権の主張に影響を及ぼすことがあります。

  1. (1)家出が理由で親権を得られないケース

    子どもを置いたまま家出に踏み切るという行為が、「子どもの利益」にとってプラスにはたらくことはまずないでしょう。
    わずか一晩だけの家出といった場合は大きな影響はないと考えられますが、数日、数週間以上の家出となると、マイナス評価の原因になり得ます。

    もし、親の一方が家出をしても、もう一方の親だけで十分に養育が可能であったり、祖父母や親戚などのサポートによって不自由が生じなかったりすればどうでしょう?
    「子どもは不自由なく生活できた」という事実は、継続性という点で相手のプラス評価につながります。
    また、子どもを置いて家出をしてしまうと、子ども自身に「捨てられた」という感情が芽生える可能性もあり、もう一方の親へと愛情が傾いてしまうおそれがあります。

    長期的な家出は、親権獲得を目指す上では大きなマイナス評価を受けるおそれがあるため、早急に事態を解決する必要があるでしょう。

  2. (2)家出をしても親権を獲得できるケース

    たとえ長期的な家出をしていても、親権を獲得できる可能性がゼロになるわけではありません。

    裁判所は「子どもの利益」を優先させるため、もう一方の親が子どもを監護するにふさわしくないと判断されれば、家出をしている状態でも親権が認められるケースがあります。
    具体的には、子どもを監護している一方の親が、下記のような状態にある場合です。

    • 食事・衛生面などが劣悪である
    • 学校に通わせていない
    • 子どもに対する虐待の事実がある
    • 粗暴癖や犯罪傾向がある
    • 子どもの養育よりもギャンブルなどの自己都合に浪費する癖がある
    • 心身ともに健康・健全ではない


    こういった場合は、たとえ家出をしている状態でも「子どもの利益」を考慮して、家出をした側に親権が認められる可能性が高まります。

    後編では、引き続き子どもを置いて家出をしてしまったケースをテーマに、離婚成立までのプロセスと養育費や慰謝料に関して、ベリーベスト法律事務所 札幌オフィスの弁護士が解説します。

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